2020年の東京五輪招致が決まって以降、1964年の前回東京五輪の思い出のシーンがしばしばテレビで放映されている。中でも多く放送されるているのは、10月23日に行われた女子バレーボールの日本とソ連の優勝決定戦だ。
日本が5試合で落としたセットは1セットのみという圧倒的な力で金メダルを獲得し、平均視聴率は66.8%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)とスポーツ中継として歴代最高である。大松博文監督に率いられた日本代表チームは「東洋の魔女」と呼ばれたが、出場選手12名のうち10名がニチボー(日紡)貝塚(現・ユニチカ)女子バレーボール部のメンバーだった。

 繊維の名門であるそのユニチカの経営危機が今年5月、表面化した。ユニチカは5月26日、三菱東京UFJ銀行をはじめとする取引銀行に総額375億円の金融支援を要請した。これを受け27日のユニチカの株価は一時、前日比約3割安の41円まで下落。26日にユニチカが出した中期経営計画からは、名門復活の可能性が見えてこなかったからだ。

 中計によると2015年3月期の連結売上高は前期比1%増の1650億円で、事業構造改革費用として440億円の特別損失を計上。税引き後利益が370億円の赤字(14年3月期は5億8300万円の黒字)となり、160億円の債務超過に陥る可能性が浮上した。債務超過を防ぐため、7月末に三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三菱UFJ信託銀行の3行と、日本政策投資銀行などが出資する再生ファンド、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)に対して議決権のない優先株を発行して、金融支援を受ける。

 銀行3行から調達する275億円は全額借入金の返済に充てる。JISが組成する投資組合から調達する100億円は成長が見込める食品包装用フィルムや、樹脂など高分子事業の設備投資に充てる。1600億円の有利子負債を15年3月期末には1260億円に圧縮。

14年3月末の自己資本比率は6.1%だが、金融支援により8.9%程度に回復するとしている。中計の最終年度である18年3月期の連結売上高は繊維事業のリストラで1450億円となり、14年3月期の1626億円から10%減る。一方、営業利益は67億円から140億円へと2.1倍を見込んでいる。

 銀行からの金融支援では、借入金を株式に切り替えるデット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)を利用する。ユニチカが実際に使えるのはJISが出す100億円だけだが、果たして100億円で揺るぎない収益基盤を築くことができるのかが、今後のユニチカを占うポイントになる。しかし、JISが引き受ける優先株の配当率は6%と高く、年間6億円の配当金を支払うことになる。経営責任を明確にするため、6月27日付で安江健治社長(66)が取締役相談役に退き、後任社長に注連(しめ)浩行取締役常務執行役員が就任する。

●長い不況のトンネル

 ユニチカは1889年(明治22年)創業の尼崎紡績が発祥だ。1918(大正7年)に摂津紡績と合併して大日本紡績となり、東洋紡績(現・東洋紡)、鐘淵紡績(現・カネボウ)とともに「三大紡績」の一角を担い、日本の基幹産業であった繊維産業を支えた。戦後、ニチボーに社名を変え、69年には子会社だった日本レイヨンと合併してユニチカになった。

 54年に大日本紡績は貝塚工場に女子バレーボール部を設立し、全工場から選手を集めた。これが日本女子バレー史に燦然と輝くニチボー貝塚である。

258連勝という無敗を誇ったが、業績の悪化を受け、2000年に女子バレー部は廃部。選手は東レに移籍し、東レアローズに生まれ変わった。

 繊維産業は製鉄や石炭とともに日本の近代化を推し進めた基幹産業のため、繊維業界には老舗の名門企業が多い。1950年に勃発した朝鮮戦争によるいわゆる「ガチャマン景気」で繊維産業は息を吹き返した。ちなみに「ガチャマン」とは織機をガチャンと織れば、万のカネが儲かる、という意味で、現在の喫茶店のモーニングサービスは、ガチャマン景気に沸く繊維産地の商談の場から全国に広がったものだ。

 60年代には、東北や九州から中卒の金の卵が繊維工場に集団就職した。だが、景気が良かったのはこの頃までで、70年代半ばからは東南アジアからの輸入が増し、85年のプラザ合意による円高転換後、繊維は輸入が輸出を上回るようになり、国内の繊維産業は長い不況のトンネルに入った。

●競合他社は多角化に活路

 紡績発祥の企業は、繊維事業で蓄積した資産を使って多角化を推進した。日清紡は自動車用ブレーキで最大手になり、東洋紡は液晶用フィルムや医薬品などで収益を伸ばした。ダイワボウホールディングスはダイワボウ情報システムを子会社にして、IT(情報技術)主体に転換した。

 ユニチカもナイロンフィルムなど高分子事業に力を入れたが、繊維に代わる収益の柱を打ち立てられないまま、過去10年以上にわたり、業績が悪化するたびにリストラを繰り返してきた。「結果としてその場しのぎを繰り返しただけにすぎず、今回の経営危機でも同じことが続く」(証券アナリスト)との冷めた見方が広がっている。

「名門」ユニチカの再生は、きわめて厳しい。
(文=編集部)

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