コンビニエンスストアチェーン大手のファミリーマート(以下、ファミマ)が5月28日、全国農業協同組合連合会との業務提携合意を発表した。全農傘下の食品スーパー「Aコープ」763店を、ファミマとの複合店に改装するという。

 今年に入ってファミマの異業種提携出店が加速している。昨年1年間の異業種業務提携締結または合意が近畿日本鉄道、調剤薬局チェーンのメディカルシステムネットワークなど6件だったのに比べ、今年のそれは1-5月だけで横浜市営地下鉄駅ナカ売店運営の横浜市交通局協力会、カラオケチェーンの第一興商、定食店チェーン「まいどおおきに食堂」を運営するフジオフードシステムなど8件。ファミマ関係者によると、このほか年内に10件以上の提携を予定しているといい、急加速ぶりが見て取れる。

 ファミマはこうした異業種店舗とコンビニ複合型店舗「異業種提携店」の出店を5年後に3000店へ拡大(5月末現在のファミマの国内店舗数は1万703店)、セブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン)やローソンとの差別化を図る。その目的は「ローソンを追い越し、セブンに追いつけ」(同社関係者)だ。

「これからは調剤薬局との複合店が、当社出店戦略の主力になる」。今年4月1日、ファミマがメディカルシステムネットワークとの異業種提携1号店「ファミリーマート+なの花薬局新宿百人町店」の開店セレモニーで挨拶したファミマの本多利範常務執行役員はこう述べた。同店は、東京都内新宿区の中核医療施設「東京山手メディカルセンター」最寄りのファミマ既存店を改装し、店舗面積43坪のうち60%の26坪を薬局スペースに充てている。薬局スペースには薬剤師2名が常駐し、平日9時-18時の営業(土日・祝日は休業)で、調剤用備蓄薬を約1000品目と一般用医薬品を約170品目、販売している。また、コンビニスペースではサポーター、包帯等の衛生用品、健康食品などの品揃えを充実させている。

 ファミマは同店出店に先立ち、ヒグチ産業、コクミンなど12社と19店のドラッグストアや調剤薬局との複合店をすでに出店しており、医療・健康関連のニーズ対応や介護を含めた相談応需、健康志向の中食、宅配サービスなどの機能を装備した「健康コンビニ」戦略を打ち出している。

 開店セレモニーで本多常務は、高齢化社会に対応したコンビニ業態開発の必要性を強調、「業務提携先と当社の経営資源を互いに有効活用しながら、健康をキーワードに地域密着を図りたい」と語った。

また、メディカルシステムネットワークとの業務提携では、同社直営薬局のみならず、同社ネットワーク加盟の個人経営薬局800店あまりをフランチャイズ(FC)化してゆく方針も示している。

 だが、ファミマが打ち出している「健康コンビニ」は同社オリジナル戦略ではない。ローソンが2001年から首都圏を中心に「健康志向型コンビニ・ナチュラルローソン」を約110店展開しており、さらに昨年10月には薬局や病院との業務提携で「ナチュラルローソンを今後5年間で3000店に全国拡大」との計画を発表している。

●セブン、ネット通販…競合勢への対抗策

 4月10日に出揃ったコンビニ大手5社の14年2月期決算では、セブン、ローソン、ファミマの上位3社が増収増益で揃い踏み、営業利益はいずれも過去最高益を更新した。出店意欲も旺盛で、前期はセブンの1579店を筆頭に3社合わせて4000店近くを新規出店した。今期(15年2月期)も3社ともそれぞれ1000店以上の新規出店を計画している。今年、国内のコンビニが5万店を超え(13年末のコンビニ店舗数は4万9323店/日本フランチャイズチェーン協会調べ)、コンビニ飽和説も唱えられる中、ファミマの中山勇社長は「6万店ぐらいまではキャパシティーがある」と、出店拡大の手綱を緩める気配はない。だが、出店拡大の先行きが必ずしも明るいわけではない。「すでに新規出店の陣取り合戦が大手3社間で始まっている」(流通業界担当の証券アナリスト)からだ。

 流通業界筋は「店舗数拡大による成長モデルは限界。明確な差別化が重要になっている」と指摘する。大手3社の出店加速で、好立地争奪戦は激しさを増す一方。

さらに異業態からの攻勢も激しい。例えば4月からアマゾンが自社で酒類の販売を始めるなど、ネット通販系が食品販売を拡大している。

 そんな中、ファミマは規模で圧倒的に優位なセブンと戦わねばならず、差別化では業態革新力に勝るローソンと戦わねばならず、品揃えでは絶対太刀打ちできないネット通販系とも戦わなければならない。「そこでたどり着いた出店拡大策が異業種提携出店」(業界筋)というわけだ。これに関しては、ファミマも「単独で出店が難しい立地でも、異業種との提携なら出店できるし、提携先の既存客も取り込める」と説明している。

 しかし、現状ではこの異業種提携出店戦略が、同社もくろみ見通りの威力を発揮しているかどうかは疑わしい。セブンは今年度、1万6319店に上る国内既存店舗数の約1割に相当する1600店の新規出店計画を掲げている。前年度も1500店の計画を掲げ、実際は計画を上回る1579店を出店した。セブンの出店ペースは今のところ加速する一方で、「2~3年以内に、2万店に到達する」(業界筋)とみられている。

 一方、前年度にセブンと同数の1500店の出店計画を掲げたファミマは、1355店にとどまった。そのうち、異業種提携出店は13社402店で、「業界3位の店舗数ではコンビニとしての価値がない」(中山社長)の思いとは裏腹に、セブンとの差は広がる一方だ。1店舗当たり平均日販額も苦しい。

セブンの66万4000円、ローソンの54万2000円に対して、同社は52万1000円にとどまっている。

●崩れる「セブン対その他」の構図

 業界筋は「今年に入り、ファミマが異業種提携出店を加速化したことにより、御三家の出店戦略が『三社三様』にくっきりと分かれ、構図的には興味深い」という。
セブンは大量出店によるスケールメリットと、これを生かしたPB(自主企画商品)充実による商品力で勝負。ローソンは消費者ニーズに合わせた業態革新力で勝負。ファミマは異業種提携でセブンと競合しない立地への大量出店で勝負と、それぞれの事業戦略が明確化してきた。これにより、競争の構図が従来の「セブン対その他」の単一モデルからさまざまな選択肢があるモデルに変化、業界全体でみれば広範な「24時間サービス」ニーズに対応できる態勢が整ってきた。それだけコンビニが、より社会インフラ化する可能性が高まったというわけだ。

 しかし、ファミマの異業種提携戦略が同社の狙い通り新しい成長軸になるかどうかは、今のところ予測不可能だ。「成長の前提になるのは、あくまでもセブンやローソンに引けを取らない商品開発力と消費者が魅力と感じる品揃え、そして既存客を逃さない店舗オペレーション」(証券アナリスト)。ファミマの戦略が奏功し、セブンとローソンの2強という構図を崩すことができるのか、今後の動向から目が離せない。
(文=福井晋/フリーライター)

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