「芸能スキャンダル報道はなぜ減ったのか?」
「激変した芸能報道・取材の現場と裏側」
「芸能リポーターのお仕事とは?」
などについて聞いた。
--芸能リポーターとは、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか? 井上さんを例に教えてください。
井上公造(以下、井上) エンタメ情報も含めた、芸能情報全般の取材活動がメインです。取材というのは人それぞれ、いろいろなやり方があります。記者会見に行ってインタビューしたり、関係者に会って情報を聞いたり、ネタを仕込むのも取材でしょうし、ネット社会ですから情報があふれていますので、その中で「これは面白いな」と思えるものなど興味があるものに関して裏取りをするのも取材です。まずベースとしては取材活動があって、それを基にテレビ番組に出て話したり、媒体で原稿を書いたりというのがメインの仕事です。
--井上さんは、関係者や芸能人に直接会って話を聞くというスタイルですか?
井上 ネタによりけりですけど、芸能界には芸能人に加えて、芸能事務所の方やスタイリストさん、メイクさん、テレビ局社員、制作会社スタッフなど、さまざまな人たちがいます。情報を仕込む段階においては、例えば行きつけのお店だったり、よく利用する不動産屋だったり、キャビンアテンダント(CA)だったり、その人しか見られない空間にいる職業があります。そういうところにアンテナを張っておくことを日頃からやっていて、もちろん彼らがなんでもかんでも教えてくれるわけではないですが、知り合いはどのジャンルにも多いほうがいいと思っています。
--そうした人脈というのは、短期間で形成できるものではないと思いますが、これまでの蓄積でつくられてきたものなのでしょうか?
井上 完全に蓄積です。20代の頃からこの仕事をやっていて、人に紹介されたり、お店だったら自分が行っているうちに、オーナーではなくても従業員と親しくなったり。従業員は辞めちゃったりもしますが、その人から新たな従業員を紹介してもらったり。
--CAさんが情報源というのは意外です。
井上 CAさんは、ものすごく重要です。それも、航空会社別に知り合いがいたほうがいいので、自分で人脈を開拓してきました。知り合いで一定レベルの大学を出ている女性をたどれば、何人かはCAになっています。彼女たちがどこまで教えてくれるかは別にしても、やはり裏を取る手段としてCAさんは重要な存在です。例えば、「ロンドンに行く飛行機に、AさんとBさんが乗っていましたよ」という話が、ネット情報だったりタレコミだったりであるわけですよ。昔は個人情報保護が緩かったので、搭乗者名簿のチェックもわりと簡単にできて裏が取れましたが、今ではそれができない。そこで、CAルートで「乗ったか乗らなかったかの確認だけでもできる」ということはあります。

--そういう人たちに、言い方は悪いですが、飲ませ食わせして情報を聞くということですか?
井上 わかりやすく言うと、友達になっちゃう。人間というのは「知った秘密を自分の中にとどめておけない生き物だ」というのが、僕の考え方です。これが大きい話になればなるほど、とどめておけないのです。
CAさんのように直接、芸能情報を入手できる立場の人とだけ知り合いになってもダメで、その人のグループとか先輩とか、そういう人たちとも友達になる。人それぞれやり方はあるだろうけど、僕は人脈で情報の裏取りをしてきた。長いことやっていればいろいろな知り合いができますし、逆に芸能人から相談されたりすることもあります。
--そういうこともあるんですか?
井上 あります。ほとんどの芸能人は浮き沈みがある中で、いい時ばかりではないわけで、ずっと右肩上がりでいける芸能人なんかいないですから、そうすると困った時に相談できる相手が欲しい。これは先日放送されたあるテレビ番組で、たまたま女優の一路真輝さんが話していたらしいのですが、一路さんが俳優の内野聖陽さんとの離婚が決まる頃、福岡空港で僕を見かけたそうです。当時は一路さんと内野さんに関していろいろな情報が報じられていて、「井上さんにすべてのことを話したら、どんなに楽だろうと思った」というのです。芸能人には、そういう心理があります。
--10~20年くらい前まで、どこのテレビ局も朝はワイドショーを放送して、毎日のように芸能ゴシップが報道されていたという印象があるのですが、最近は減ってきているのでしょうか?
井上 減っていますね。昔は取材もすごかった。僕らは夜中の1時、2時だろうが芸能人の家に行って、インターホンを鳴らしていましたからね。今では絶対にありえないです。
--なぜですか?
井上 一番の理由は、2005年に全面施行された個人情報保護法でしょう。そんな取材をやったら一発アウトで番組が終わります。訴えられて終わりです。要はコンプライアンスが厳しくなったのです。僕らがやりたいとかやりたくないという問題以前に、まずは芸能人のプライバシーに対して理解を示さないといけない。だから芸能人の自宅に行くというのは、よほどの時ですね。
--そのほかに、芸能ゴシップ報道が減った理由はありますか?
井上 一般の人たちが、芸能ゴシップを望まなくなったという点も大きいです。昔は芸能人を追い回しているような映像がしょっちゅうありましたが、そういう映像が流れると視聴率が上がりました。今では逆に下がるのです。プライバシー云々の問題もありますが、そもそも人に嫌がられて視聴率も下がることをやる必然性がない。
あとは、お金の問題もあります。僕は昔、女優の大竹しのぶさんが演出家の野田秀樹さんと付き合っているという情報を得て、大竹さんの家の前で14日間張り込んだことがあります。14日目でやっと証拠映像が撮れましたが、13日間は空振りだったにもかかわらず、テレビ局にはそれを許す予算があったんですよ。カメラクルーを立て、当時は8時間で15万円くらい、超過分も含めて毎日20万円以上のお金が出ていた。それだけで合計280万円くらい使っている計算になりますが、今のテレビ局の台所事情では絶対にありえません。
今は確実に撮れる案件しか張り込みが許されませんが、そういうものは際どくはないですよね。大スクープになればなるほど、そんなに簡単には映像が撮れるはずがない。
--そのような状況の中、芸能リポーターの需要も減っているのでしょうか?
井上 芸能リポーターという仕事が、お金の問題も含めてテレビのキー局の情報番組から必要とされなくなりました。坂本堤弁護士の一件【編註:1989年、オウム真理教問題に取り組んでいた坂本弁護士への取材映像を、抗議に来たオウム真理教幹部に見せ、同教団による坂本弁護士一家殺害事件につながった】でTBSのワイドショーがなくなり、その影響で芸能リポーターが仕事をなくした。その後、再開した時には「ディレクターがマイクを持てばいい」というやり方が成立してしまい、「芸能リポーターの解説とか裏情報はいらない」という傾向が強まっていった。そんな中で、どうやったら生き残れるかと考えた時に、僕が活路を求めたのは地方局だったのです。
--なぜ地方局に目を向けられたんですか?
井上 地方局に行けば行くほど、あらゆる“枠”は緩くなります。僕がお世話になったディレクターがたまたま大阪の局のスタッフと知り合いで、その大阪のスタッフから声を掛けてもらったのが20年ちょっと前。当時の大阪では東京で話せない話ができたんですよ。ちょっとしたラジオ感覚ですね。僕のやったことがウケたこともあって、いろいろな芸能リポーターが地方へ行くようになったんです。特に大阪では各局にそういう番組があふれ、「芸能リポーターバブル」みたいな現象が起きましたが、やはり「バブル」なので、しょせんどこかで限界が来て自然淘汰され、視聴者が面白いと思う人しか残らなくなった。
そこにインターネット時代がやって来ました。
--芸能報道全般に対して、ジャーナリズムに反しているという批判も聞かれますが、そのような批判についてはどのように思われますか?
井上 芸能報道はかくあるべきとか、ジャーナリズムの原点に反していると言う人もいますが、僕はジャーナリズムだなんてまったく思っていないし、記者会見なんかも「プロレス」でいいと思っています。例えば芸能人の離婚会見があったとして、15分や20分くらいで、第三者の僕らが離婚の理由をすべて理解できるわけがない。「なぜ浮気したんですか?」などと吊るし上げるのはナンセンスです。家で「物扱い」されている男性芸能人が浮気したとして、「果たして彼が100%悪いか?」と僕は思うのです。芸能人だからこそ、自分の子供や子供の友達に聞かせられないとか、いろんなことがあるから、僕は「プロレス」でいいと思っています。結局、芸能って、いい意味で「演じるもの」なんですよ。
--つまり、芸能報道ではさじ加減も必要だということでしょうか?
井上 ええ。芸能人とプライベートで食事に行ったりしていれば、何かあった時は「さじ加減」ができるのです。「ぶっちゃけ、どうなの?」「どこまで、しゃべれるの?」と。「申し訳ないけどゼロはやめようよ」「5~6は言ってほしい」などと交渉もできる。以前ある番組で共演していた芸能人の別居報道が、生放送当日の朝に出たことがあるのですが、その所属事務所の人が「これはナーバスな問題なので、触らないでいただけますか」と言いました。僕は「いや、ちょっと待って。生放送でこういう番組に出るということは、そういうリスクがあるということを承知の上ですよね?番組内で触れないというのは、本人が認めたことになりますよ。それでもいいんですか?」という話をしたんです。そうしたら、本人が「いや、しゃべります」と言った。「どこまで話せるの?」と聞いたら、「別居している事実は認めます」と。
これは「プロレス」なんですけど「やらせ」ではない。ガチンコでガンガン追及すればいいというわけではない。僕はいろいろなバラエティー番組に出ていますが、「臭いものにふた」というのは、今のテレビ局には多い。スタッフが「もう、もめそうだからやめましょうよ」というのを、僕が「本人と事務所を口説くからやろう」と説得することもありますが、ゼロにするのが僕は嫌なんです。
芸能リポーターって、いわば芸能人の寄生虫なんですよ(笑)。芸能人がいなかったら、芸能リポーターという職業は成立しない。スターが多ければ多いほど、芸能リポーターという職業は成立するのです。だから、僕らはタレントを潰しても意味はなく、むしろタレントを育てたほうがいいんですよ。でも、先日ある芸能事務所の社長に、「最近、リポーターは芸能人に優しすぎる。井上さんたちが優しすぎると、芸能人が育たない。たまには修羅場を乗り越えさせないと、全部事務所がやってくれると思って育たない」と。これも一理あるんです。
--芸能人を潰さないよう、入手した情報をあえて明かさないこともあるのでしょうか?
井上 僕が公にするのは、蓄積されたデータのほんの一部です。明石家さんまさんが、数年前のコントライブで、お笑いタレントの山田花子さんが今の旦那さんとまだ交際中に、山田さんが頭金をすべて出してマンションを購入したという話をオープニングトークでした。そうすると、これはもう「結婚」しかないんですよ。実際にその3カ月後くらいに山田さんが結婚を発表したのですが、その時にさんまさんがラジオで「花子の結婚は井上公造さんが、全部どこかでバラすと思っていた。正式発表まで表に出なかったのは、正直ビックリした」みたいなことを話していたようですが、それは僕の中のルールなんですよ。僕がチケットを買って観に行き、さんまさんの舞台上でのトークを聞いて、その話を自分がするのはルール違反です。
●見た人が幸せになればいい--先ほど、「芸能リポーターは芸能人の寄生虫」というお話がありましたが、芸能人の触られたくないところを追いかけることに、負い目を感じることはありますか?
井上 感じていた時期はありますが、今はまったく感じません。なぜなら、芸能人はプライバシーを語られたくないなら徹底すればいいけど、中途半端でしょ?結婚会見はするけど、離婚会見はしないとか。その一方で、沢田研二さんや高倉健さんは、プライバシーは明かさないと一貫しています。
そういうふうに、出さないなら追わなければいいんです。ただ、ほとんどの芸能人は売れている時は触れてほしくなくて、売れなくなったらプライバシーを切り売りする。プライバシーを切り売りしながら生き残っていく部分もある。「あなたたち芸能リポーターは、人のプライバシーを伝えてなんの意味があるの?」と言う人もいます。でも、例えば芸能人に不幸なことが起きた時、視聴者や読者は「あんな美人でも結構、大変なのね」と同情したり、もしくはちょっと優越感を感じたり。または離婚会見における妻側の涙ながらのコメントに、自分の家庭を当てはめてみたり……。芸能ニュースって、一般の人たちにとって、自分の人生を投影するものでもあると思うのです。だから、僕はそんなに根こそぎ芸能人のプライバシーを暴いてやろうと思っていないし、いいことはいいと伝えようと思っています。
--最後に、今の芸能報道の在り方をどのように感じていらっしゃるか、井上さんの考えを教えてください。
井上 今の時代は今の時代なんだと思いますね。だから、それを悪いとは思っていないです。芸能って嘘はダメですが、エンターテインメントの「プロレス」はアリだと思っているし、そのことによって誰が傷つくわけでもないし、僕は記者会見なんてどれだけ笑いが起きるのかというのも重要だと思っています。それを見た人が幸せになれればそれでいいし、浮気報道があった男性タレントに、「あなた、浮気したでしょ?」って追及するのは嫌です。僕らは取調官や警官ではない。ただ、「あなた、下心はあったよね?」とは言いたいんですよ、「そこは認めようよ」と。浮気をしたという証拠を突きつけて、いったい誰が幸せになるのでしょうか。これが犯罪やっているなら違ってきますよ。僕が親しい芸能人によく言うのは「お願いだから、捕まるようなことだけはやらないで」ということです(苦笑)。そうすると、追及するしかなくなりますから。
--ありがとうございました。
(構成=編集部)
●井上公造(いのうえ・こうぞう)
1956年、福岡市生まれ。西南学院大学卒業。会社員、フリーライター、新聞記者を経て、1986年に芸能リポーターに転身。現在は、「株式会社KOZOクリエイターズ」を運営し、芸能ジャーナリズムで幅広く活躍する。日本テレビ「スッキリ!!」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」、朝日放送「おはよう朝日です」などにレギュラー出演中。