ここ数年のコーヒーブームなどを背景に、競争が激化する一方のカフェ・喫茶店市場。
カフェという言葉が一般に浸透したのは2000年頃に起きた「東京カフェブーム」からなので、昭和時代にできた個人店の多くは喫茶店だ。それもあって、総務省調査など各種の統計資料でも現在に至るまで、「喫茶店数」「喫茶代」などと「喫茶」という文言が用いられる。
しかし、業態として区別されることはある。「フルサービスの喫茶店」と「セルフカフェ」だ。前者は、店員が注文を取りにきて飲食物も運んでくれる店。後者は、自分で注文をして飲食物も自分で運ぶ店だ。特に繁華街やビジネス街では後者が目立っている。
こうした前提の上で紹介したいのが、セルフカフェの2強である「スターバックスコーヒー」(スタバ)と「ドトールコーヒー」(ドトール)だ。
●売上高ではスタバが圧勝現在の国内店舗数はドトールが1095店(14年5月末現在)、スタバは1034店(14年3月末現在)と、まだ店舗数はドトールのほうが多い。
外食産業で1000店というのは、メガブランドの指標の一つといえる。
店舗数に「まだ」をつけたのには理由がある。ドトールの1号店が1980年開業なのに対して、スタバが日本1号店を開業したのは96年で、16年後に店を展開し始めたのにもかかわらず、ここまで追いついたのだ。
すでに売上高ではスタバが1256億6600万円(14年3月期)、ドトールがグループ全体で734億9500万円(同2月期)と、大差がついている。店舗数に比べて売上高でスタバが大きく上回っているのは、スタバが基本は直営店で運営するのに対して、ドトールは大半の店舗がフランチャイズ店であるという面が影響している。
ちなみにスタバは1ブランドで展開するが、ドトールは「エクセルシオール カフェ」や「カフェコロラド」など、複数ブランドで展開している。エクセルシオールは100店舗を超えており、コロラドの1号店は72年にフルサービスの喫茶店として開業。ここで得た運営ノウハウが、セルフカフェのドトールに結びついた。
実はこの両社は、似ている点や共通する点がいくつかある。
(1)出発は小さな焙煎業者
ドトールは創業者の鳥羽博道氏が、62年にコーヒー豆の焙煎加工・卸売業者として有限会社ドトールコーヒーを設立した。最初の事務所・焙煎所・倉庫兼用の部屋は、わずか8畳だった。
スタバは71年に米国シアトルにある海沿いの小さな店からスタートした。
(2)キーワードは「立ち飲み」
71年、鳥羽氏は喫茶業界初の欧州視察旅行に参加し、パリの立ち飲みコーヒー店で見た光景を基に店舗構想を描き、80年に「ドトールコーヒーショップ」を開業する。当初は「立ち飲みコーヒー」をコンセプトに掲げていた。
スタバも、立ち飲みから進化させた「歩き飲み」を開業地・米シアトルのスタイルとして定着させた。
(3)ドトールはフランス、スターバックスはイタリアでヒントを得る
ドトールの鳥羽氏が新たな店づくりのヒントをフランスで得たのに対して、現在のスタバの実質的な創業者であるハワード・シュルツ氏は、83年にイタリア・ミラノでエスプレッソバーに感動し、米国でその味を実現する店づくりの構想を思い描く。
両者共に、特に注目したのは個性的な店とコーヒー職人であるバリスタの存在だった。
(4)ドトールは、スタバ人気に触発されてエクセルシオールを開発
日本1号店を開業後、消費者の大きな支持を受けたスタバ人気に対抗して、ドトールが新たに展開したのがエクセルシオール(99年1号店開業)だ。当初、看板が似ているとスタバから提訴され、ドトール側が変更した経緯もある。
鳥羽氏は後に「スタバから多くのことを学んだ。最も大きかったのは、コーヒー1杯250円以上のセルフカフェでも収益が上がるとわかったことだ」と語ったように、現在のエクセルシオールのコーヒー(S)は1杯300円だ。
こうして日本国内でも店舗拡大を果たしたスタバとドトールは現在も人気店だ。
だが、最近は業界の潮流も変わってきた。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)
●高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。
『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『「解」は己の中にあり』(講談社)ほか、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com