今回は、マーケティング手法として注目を浴びている「O2Oビジネス」について、企業事例をみて、今後の展望を探りたい。

 O2Oとは、Online(オンライン) to Offline(オフライン)のことを指す。

ある企業や店舗のインターネット上での活動(Online)が、実際の店舗での購入や集客(Offline)に影響を及ぼすという考え方だ。冒頭の図を見ていただくとわかる通り、O2O市場規模は2017年には11年の2倍の50.6兆円になると予測されている。

 14年4月に米Deloitte Digitalが、13年11月に米国内で実施した調査の結果を「The New Digital Divide」と題したレポートにまとめている。この中で「13年、米国内における実店舗による売り上げの36%は、デジタルの影響を受けたものである」という報告がある。金額にすると、約1.1兆ドル(約110兆円)に相当する。さらに12年は実店舗の売り上げの14%がデジタルの影響を受けており、金額は約3400億円だったともいわれている。

 このように、O2O市場は消費活動において、あらゆるシーンで多大な影響力を持っており、もはや無視できない存在となっているといえよう。

●オンラインとオフラインを結ぶアプリ・WEAR

 人気ファッション通販サイト・ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイが提供するスマートフォン向けアプリ・WEARは、13年10月末にサービスが始まったが、5カ月で200万ダウンロードを達成している。

 このアプリの使い方は色々とある。簡単に仕組みを説明するとこうだ。

 コーディネートを見ることに特化したアプリになっているため、ショップ店員や、芸能人、モデル、一般ユーザーのコーディネートを、雑誌を眺めるような感覚で見ることが可能になっている。「身長」等の切り口もあるため、自分の体型に似た好みのユーザーをフォローすることもできる。

 現在1日1万件以上投稿されており、コメント欄でのコミュニケーションや、TwitterやFacebookなど外部SNSとの連携も活発なため、「花柄」「古着MIX」「黒縁メガネ」などのアイテム別、または「入学式」「お花見」などのシーン別にタグを付け、コーディネートを友人と共有できる。また、気になったコーディネートやアイテムは保存して、いつでも見ることが可能になっている。洋服を選ぶ際に、自分の手持ちの服とのバランスや、コーディネートで悩むことが多いというユーザーの悩みを反映させたアプリとなっている。

 アプリで表示される商品は、ZOZOTOWNやメーカーの専用サイトにリンクが張られているため、そのまま購入することもできる。

 当初は、店舗(オフライン)で気に入った服やアイテムがあった場合、そのバーコードをアプリで読み込ませると、その服やアイテムを使ったコーディネートパターンが見られるだけではなく、ZOZOTOWN(オンライン)でその商品を購入することも可能という、まさに逆O2Oの仕組みを実装していた。しかし、店舗でスキャンがしにくい等の諸問題もあり、バーコード読み取りサービスは停止されている。ただし、ショップスタッフ向けには同サービスの提供を続けており、商品のサイズやカラー展開、関連コーディネートなどを確認し、接客の幅を広げるために活用されている。

 課題はあるが、買い物をする際にインターネットの情報を参考にするユーザーは増加しているため、WEARも洋服を買う際に活用するアプリとして、今後ますます浸透していく可能性は高い。

 ほかにも、アパレル業界ではファーストリテイリングが展開するGUが写真投稿アプリ・インスタグラムで専用アカウントをつくるなど、O2Oの取り組みを進めている。

●新ビジネスモデルで竹下通りに賑わい戻る

 O2Oの仕組みを使った面白い事例が、東京・原宿の竹下通りにある。竹下通りというと、裏原宿や渋谷に進出してきたファストファッションなどに押され、一時期の賑わいが遠のいていた。しかし、最近は海外からの観光客が増えており、少し元気を取り戻しつつある。

そして、ここ1年、ちょっとした変化が起きている。

 それは新しい店が次々と生まれていることである。しかも非常に小規模であり、その回転も非常に速い。竹下通りは「腐っても鯛」ではないが、やはり駅から続く目抜き通りであることに違いない。当然、路面店の賃料は高止まりとなっており、資本力がある企業でなければ店を開くことは難しい。それが最近は一風変わった店が見受けられるのである。

 その一つは、少々殺風景なアパレルショップで、ハンガーに洋服が整然と並び、靴や帽子、アクセサリーの類いも机や床にディスプレイされている。しかし通常の店にあるものがないことに気付く。まずレジがない。またバックヤード(主に在庫などを置くスペース)がないのである。どういった仕組みになっているかというと、お客は気に入った商品があれば、Square、PayPal、Coiney、楽天スマートペイなどのモバイル決済を使い、モバイル上でショッピングするのである。店舗側は送料を負担するが、デッドスペースを活用できることと比較して考えれば、十分にメリットがある。

客にとっても、荷物を持たずに街を歩くことができるというメリットがある。

 上記のようにデッドスペースを活用することで、ビルのオーナーは大がかりな店舗改装をしなくても、小さな区切りをいわば「貸しスペース」のような感覚で貸し出せる。また、ファッション好きな人がフリーマーケットのように出店することも可能で、最近ではカリスマバイヤーがシークレットで店をゲリラ的に開くこともあるようだ。こういった取り組みが話題を呼び、竹下通りに人がまた戻ってきているのである。

 この機会に、「オンラインとオフラインをつないで、どういったサービスができるか?」と頭をひねらせてみてはどうだろうか。
(文=岡田和典/経営コンサルタント・大学院客員教授)

※本稿は、岡田和典氏のメルマガ「最新事例に学ぶ事業価値創造のキーファクター - 岡田流ビジネスマインド養成講座 -」から抜粋・編集したコンテンツです。

【筆者プロフィール】

小売り激変、O2O市場50兆円の衝撃 店舗革命、原宿・竹下通り復活の起爆剤に
●岡田 和典:三菱商事、外資系コンサルティングを経て1998年プライスウォーターハウスクーパースコンサルタンティング入社。消費財メーカー、卸売企業、小売業において、営業、物流、間接部門の業務改革に従事し、個々の企業にとどまらず、サプライチェーン企業間の変革、戦略立案等に数多くの実績を残す。現在、岡田ビジネスディベロップメンツ代表取締役としてさまざまなプロジェクトや新規事業に参画。また複数の企業経営を代表として行う。金沢工業大学大学院にて「コンサルティング実践特論」の客員教授として教鞭をとる。
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