雨上がり決死隊の宮迫博之、スリムクラブら13人の芸人が謹慎処分となった闇営業問題をめぐり、当時の宴会の写真について「反社会的勢力から買ったのか?」との声が上がっている。

「反社勢力との付き合いを批判するマスコミが反社勢力にお金を出すのは本末転倒」というわけだ。

また、宴会に参加した芸人たちの金銭の授受が問題となっているだけに、マスコミとの間でも金銭授受があれば問題視されることになる。

 ニュースサイト「AERA dot.」によると、事の発端となった「フライデー」を発行する講談社は「本件の取材について、問題を指摘されるような点は一切ありません」と回答したという。

 マスコミの端くれである筆者も、こうしたケースで情報の見返りに大金を支払う場面は目にしたことがない。「AERA dot.」の記事でも指摘されているが、相手によっては取り込まれる危険性が高いからだ。そして、過去に“裏社会”との金銭授受をめぐってマスコミ関係者が失敗した2つのケースを思い出した。

取材で暗躍する怪しいコーディネーター

 以前、あるスキャンダル誌の仕事をしていたときのこと。世話になった取材仲間に紹介された人物から、「半グレ集団のメンバーの話を聞かないか」と持ちかけられたことがある。その男は、詐欺を働いていた人間のインタビューをコーディネートするという。

 初対面で気になったのが、コーディネーター自身の人間性だ。話を掘り下げるほど内容がネガティブになっていき、気が付けば業界人の悪口を語り始める。建設的な話などできないわりに、「1億円ぐらい、すぐに手にできる」などと大言壮語する。一方で、喫茶店のコーヒー代すら払おうとしたことはない。

前歯も数カ月抜けたままだ。

 筆者は仕事相手の人間性を重視する。当然ながら断ると、別の知人を介して筆者の悪口が聞こえてきた。おそらく、コーディネーターが吹き込んだのだろう。半ば予想してはいたが、悪口や陰口が好きな人間は信用されにくい。私は気にも留めずにいた。

 すると、その男は筆者とは別の編集部員に同じ話を持ちかけた。気が付けば雑誌にインタビューが掲載されており、味をしめた男はその編集部員と組んで、その後もインタビューを成功させていった。手を替え品を替え、知り合いを雑誌に売ったのである。

 あるとき、「取材相手が先に謝礼を欲しがっている」とコーディネーターに頼まれた編集部員が自腹で10万円ほど先に渡した。しかし、そのインタビューのセッティングを終えた直後に、男は「相手がトラブった」と中止を通告してきた。さらに、編集部員が10万円の返金を申し出ると「別の仕事で穴埋めをする」と言うのだ。

 前払いした取材謝礼が、その男の懐に入ったと想像するのはたやすかった。謝礼を先に欲しがる相手など最初から存在していない、いわば小口の詐欺だったのだ。

 そして、男が穴埋めとして用意した取材が“地雷”だった。インタビューで相手が語った「ここだけの話」をライターが原稿にし、編集部員がコーディネーターを通じて相手に確認してもらい、「OKだよ」との返答を得た。しかし、1カ月後、編集部は取材相手からの脅迫に遭い、仕事にならなくなっていた。記事の内容に齟齬があるというのだ。

 こういうときに間に入って事を収めるのがコーディネーターの役割であるが、男の携帯を鳴らしても「現在は使われておりません」との音声がむなしく聞こえてくる。取材相手いわく、コーディネーターからは原稿確認の連絡など受けていないという。

 結局、その編集部員は退職を余儀なくされた。彼は反社勢力に「取り込まれてしまった」のではなく、単に騙されていたのだ。

 筆者は相手が信頼できると見れば義理を欠かさず、食事をおごったりおごられたりしながら、人間的な付き合いをしてきた。相手に渡す3~10万円の「取材協力費」は、その後も生きたお金となっている。

ソープ店長から差し出された封筒の中身

 また、スキャンダル誌の傍らで風俗誌の取材をしていたときのこと。某ソープランドに所属するソープ嬢のグラビア撮影に担当編集者として同行した。撮影が終わると、店長が「お車代です」と封筒を差し出してきた。念のため断っておくと、広告ではなく通常の取材記事である。筆者は即座に「いえ、けっこうです。これからもよろしくお願いします」と言って店を後にした。

 風俗業界にはさまざまな業態があるが、ソープランドの取材では時折、こうしたケースがあった。お金を渡すことで自分の店をひいきにしてもらい、雑誌への露出を増やして、より多くの客の目を引こうとするわけだ。ヘルスやデリヘルではあり得ない“お土産”である。

 筆者は、同行したカメラマンから「なぜ拒否したのか」と聞かれた。先輩から「絶対にもらうな。丁重にお断りしろ」と指示を受けていたこともあるが、もし受け取ったら、筆者の携帯に取材依頼の電話攻勢が頻繁にくることが目に見えていたからだ。

また、「あの編集部は金で転ぶ」などと業界内で噂されるかもしれない。

 何より怖いのは、お金を受け取って記事にした場合、その店の女の子を必要以上に“ヨイショ”しなくてはならなくなる。その記事を読んだ読者が期待に胸と股間を膨らませて来店し、実際には味気ない、つまらない接客をされた場合はどうなるか。「あの雑誌に載っている情報は信用できない」とその後、雑誌自体を手に取ってもらえなくなってしまうこともある。つまり、自分で自分の首を絞める事態になりかねないのだ。

 業界の中には、お車代を手にして羽振りがよくなった風俗専門誌の担当者もいた。複数の店からお車代を受け取り、その店を優先的に取り上げていた。しまいには、グラビアページに掲載される女の子のほとんどがお車代を渡すお店の子となり、「金額が多い順に掲載している」という話まで聞こえてくる始末だった。しかし、やがてその雑誌は廃刊となり、出版社も倒産した。

 最後に付け加えると、筆者がソープ店長から渡された封筒の中身は“諭吉2枚”だったと、後から聞かされた。

(文=井山良介/フリーライター)

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