6月19日、26日、7月2日に国会で森友問題に関する野党合同ヒアリングが行われた。森友学園への国有地売却における値引きの証拠とされた地中ゴミが映り込んだ写真について、議員は再三にわたり「本当にゴミは写っているか」と国土交通省職員に質問したが、職員は答弁を拒否した。

国が値引きの唯一の証拠とする写真が、実際には根拠になり得ないという事実が浮かび上がった。

 この野党合同ヒアリングでは、当サイト記事で筆者が紹介したA工区No.1の鮮明画像が取り上げられ、川内博史議員はこの写真に加え、独自に作成したものを含めた4枚の写真資料を提出し、国を追及した。この写真の深部には、誰が見てもゴミがない。

【写真2】の鮮明画像を示され、「ゴミがあるか」と迫られた国交省の石山英顕航空局空港業務課長は、3日間、延べ3時間以上もほぼ同じ質問をされたが、答えなかった。

――写真には、深部にゴミが写っているか?

石山氏「この資料を作成したのは、専門の事業者である。その事業者が、ごみがあると報告している。それに異議はない」

――聞いているのは、ゴミがあるのか、ないのかということである。

石山氏「見える、見えないというコメントは、差し控えさせていただく」

 基本的には、このやり取りの繰り返しであった。目の前に示された試掘穴の写真の深部に埋設ゴミがないのは明白だった。その事実を認めれば、学園建設工事用の掲示板にゴミがあると書いていたことが嘘になる。これまで国交省が主張していたことが間違いだったことを認めることになり、答弁を拒んだ。

 国会での予算委員会やその他の委員会でテレビカメラが入る状況で、大臣がゴミがあるかどうか回答を求められれば、それを避け続けることはできない。

だからこそ、衆参両院は約3カ月間も予算委員会を開かず、質疑を逃げ続けたといえる。

 国交省を代表して野党合同ヒアリングに出席している官僚が、3日間にわたり開催されたヒアリングで答弁から逃げるというのは、許されないことだ。幸いにしてテレビ東京が6月19日のヒアリングの様子を放送した。

 繰り返しになるが、この鮮明画像を前にして国交省の職員が、野党議員の質問に逃げ続けるというのは、これまで国が国有地の約8億円値引きの唯一の根拠が崩壊したといえよう。そして森友問題の真相は闇の中ではなく、ここに至り、国自身が証拠を偽装し、値引きを行うという驚くべき大事件となった。

鮮明画像でわかった事実

【写真3】は、国がこれまで示してきたものである。この【写真3】を撮影した時の電子記録データ、いわゆるデジタル写真データを入手し、これを濃淡調整し、穴の中を鮮明に見えるようにしたものが、先に示した鮮明画像(【写真2】)である。この【写真3】の工事用掲示板と説明書きには次のように書かれている。

「深さ:4000(=4メートル)」
「ゴミの層:GL-1000~3800(=1メートルから3.8メートル)」

 ところが、国が提出した【写真3】では穴の中は暗く、ゴミの層の様子はわからなくなっていた。【写真2】のように鮮明画像にしてみると、深部にはゴミは見えない。さらにより詳しく検討したのが【写真4】である。

【写真4】は川内議員が提出した写真であり、No.1写真の鮮明画像(【写真2】)に深さの目安となる目盛りを1メータ刻みで赤、橙、白、青の横線を入れた写真。

この目盛りを照らし合わせると、ゴミの層は地表から深さ2~3mの間で止まっていることがわかる。ゴミの層は3.8mまでどころか、2.6~2.7mの深さで留まっている。

 このように国が提出した資料【写真3】には、ゴミの層が3.8mまでの深さにあると書かれているものの、鮮明画像(【写真2】【写真4】)をみると、ゴミの層は3mより浅い深さにとどまっている。このA工区No.1の写真資料では、写真が示す事実とは異なる虚偽の事実を工事掲示板、説明書きに記載するという証拠偽装が行われていたことがわかった。そのため、国交省の石山課長は鮮明画像が示す「深部にはゴミがない」という事実を認めなかったのであろう。

 その上、国はこの写真資料のゴミの層1~3.8mの記述をもとに、森友学園の地下深部からゴミが見つかったとして、そのごみ量算定にあたって「3.8メートル」という数値を用い、敷地面積とこの深さ3.8mの積を計算するなどして、約2万トンごみが地下深部にあると計算したのである。6月26日のヒアリングでも、川内議員や小川議員による石山課長への追及が続いた。

川内氏「No.1の写真を解析した結果、3メートルより下は土の層であるということは明らかですが、国交省さんそれをお認めになるか? 先週お願いした回答をいただきたい」

石山氏「3.8メートルの設定自体、地下構造物状況調査や地歴調査などの過去の調査に加え、見積もりを行った。理解を賜りたい。工事写真の電子データは、大阪航空局が見積もり当時用意したものではない」

川内氏「No.1の写真の深部にゴミの層が写っているか、そのことだけを回答してくださいとお伝えしている」

石山氏「写真のみをもって見積もったわけではない」

川内氏「同じことを何回も答えられても困る。この写真(の深部)にゴミが写っているかを聞いている」

小川氏「見積もりをどのようにやったのかを聞いているわけではない。写真を見て、3.8メートルの深さにゴミが写っているかを聞いている」

石山氏「写真という平面の1枚のものを見て、見える見えないという判断をすることは、非常に難しい」

小川氏「試掘で合理的に判断したとおっしゃっている。

その判断が正しかったかを今、検証している。その際、写真という客観的事実について聞いている。そして穴の下から1メートルは、地層があってゴミが入っていない。それが、写真が示している事実なんですよ。国交省はこの写真を見て、(1)ごみがある、(2)ごみがない、(3)この写真を見てもゴミがあるか判断できない、この3つしかない。どれですか?」

石山氏「3つと言われると何番だというような、なかなか回答になりがたいところがあります。試掘を行った業者が、判断して報告書をつくった」

小川氏「試掘報告書なんて聞いていない。写真のことを聞いている」

 筆者自身もこの野党合同ヒアリングにジャーナリストとして参加していたが、国交省を代表して出席していた石山課長の事実上の答弁拒否にはうんざりした。逆に国会議員の気の長い執拗な追及には感心した。

A工区No.1、試掘写真と深さ3メートルの意味

 今回焦点となっている写真資料(【写真3】)は、17年3月から5月、国会で野党が国交省に請求していた証拠資料がなかなか出されないなかで、同年8月22日、朝日新聞が一面で大きくスクープ報道した写真と同じである。朝日新聞は独自に業者からこの写真資料を入手し、カラーで掲載したうえで『ごみの状況、判別不能 森友8.2億円値引き、根拠写真 専門家「不鮮明」/日付なしも』という見出しを打った。その記事のなかで次のように書いている。

「『学校法人森友学園』への国有地売却問題で、国が更地の鑑定価格から差し引くごみの撤去費を約8億2千万円と積算した根拠とされた現場写真21枚を、朝日新聞社は入手した。国は関係者の同意が得られないと開示を拒んでいた。土地紛争の専門家は、『この写真は不鮮明でごみの量の判断根拠にならない』と指摘しており、見積もりの正当性について国の説明責任が問われそうだ」

 報道を契機に、国はこの「21枚写真資料」を国会議員に提出することになった。ただ、この時点では朝日新聞も国が提供した不鮮明な写真しか入手していなかったため、「判別不能」と指摘するほかはなかった。現在では前述のとおり、これら不鮮明な写真の元の電子データを入手し、鮮明に映るよう処理したため、深部にはごみがなかったことがわかっている。

 朝日新聞は18年10月11日に『ごみの深さ「3.8メートル」ない疑い 森友国有地 値引き根拠揺らぐ』、翌12日に『値引き根拠 野党追及 森友国有地 ごみの深さ疑惑 自民党内でも「根拠崩れた」』と報じた。

「森友学園への国有地売却を巡っては、国は売却交渉時、地下3メートルより深いところで、新たなごみが見つかったことを根拠に、約8億2千万円の撤去費用が生じるとして値引きをしていた」「国有地では以前から深さ3メートルまではごみがあると確認されていた」(朝日記事より)

「3メートルまでしか確認できなければ、値引きの根拠が揺らいでしまう」(同)

 確かに森友学園は15年6月に国から学園用地を借地し、校舎建設のために15年7月から11月にかけて土壌改良工事(重金属の除染と埋設ごみの撤去)を済ませていた。したがって単にゴミがあると確認しただけでなく、敷地の3mの深さまでコンクリートや石ころなどの埋設ゴミ約1000トンの撤去工事をして、校舎建設に支障のないようにしていた。しかも国が持ち主だったため、その土壌改良工事にかかった費用は国が支払う予定にし、工事終了確認も行っていた。

 翌年の16年3月、校舎建設工事のための基礎杭の工事中に地下3mより深い場所からゴミが出たかどうかが問題になった。なぜなら、すでに地下3mまでの深さにあったゴミは撤去されていたからである。もし新たに見つかったとするゴミが、地下3mまでより浅い深さから掘り出したものであれば、その撤去費用を二重に支払うことになってしまう。

その意味で、新たなゴミは3m以深(より深い)の深さから掘り出したものであるかが問われていた。前述のとおり今回の鮮明画像によって、ゴミの層は深さ2.7mほどまでであり、3mより深い場所にゴミの層はなかった。

崩れ去った値引きの根拠

 この「21枚写真資料」の写真資料(A工区No.1)に写っている試掘穴は、国交省が3mより深いところにゴミがあると説明した唯一の試掘穴である。「21枚写真資料」には全部で8カ所の試掘穴が写り、それぞれ2~3枚角度を変えて撮影され、積み上げられた埋設ゴミなども撮られていた。このNo.1の試掘穴を除く7カ所の試掘穴は、深さが1.2m、1.6m、1.8m、3.0mであり、3mより深いと書かれたものは、今回取り上げた【写真3】だけであった。そしてNo.1ではゴミの層が1~3.8mと書かれていたが、試掘穴の実態と異なっていることが問題となっていた。

 つまり、国が値下げの唯一の根拠とした写真資料の試掘穴No.1で、地下3mより深い場所にゴミの層がないことがわかった以上、国が示した試掘写真資料では、いずれも値引きの根拠は失われたといえる。

 この試掘写真資料は、国が鑑定価格9億5600万円の国有地を約8億2000万円値引き1億3400万円で払い下げた値引きの根拠証拠であり、17年2月27日に財務省と国交省が国会に提出した。財務省近畿財務局が作成した試掘写真資料「17枚写真資料」には、16枚の写真に積み上げた埋設ゴミの山が写っていた。財務省は地下深部から掘り出したものであり、その総量は2万トン、数千台のトラックで運び出さなければならないと説明した。しかし、この写真資料には、地下から掘り出したとする試掘穴が1カ所しか写っておらず、しかも掘り出した深さもわからなかった。

 17年3月から5月にかけて、国会でも埋設ゴミの山が地下深部から掘り出されたものかどうか疑問が出され、石井啓一国交大臣は自分が確認した証拠があると発言した。

その結果、証拠資料の提出が求められたが、提出されず、そうしたなかで朝日新聞のスクープをきっかけに公表された国交省作成資料が「21枚写真資料」であり、その鮮明画像によって値引きの根拠とならないことが今回わかったのである。

 すでに当サイトで複数回にわたり報告したように、近畿財務局作成の「17枚写真資料」、国交省大阪航空局作成の「21枚写真資料」ともに偽装されていたことがわかっていた。国有地払い下げにおける値引き額を算定する証拠資料に使えないと筆者らは主張してきたが、今回国が2万トンの埋設ゴミの計算に使われた唯一の写真資料でも偽装されていたことがわかった。

“忖度政治”の端緒となった森友問題によって、安倍内閣は総辞職すべきといえよう。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)

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