7月30日に急死したディープインパクト。現役時代はG1レースで7勝を挙げ、種牡馬となってからも毎年のようにG1ウィナーを輩出するなど、歴史的な名馬だった。

そんなディープインパクトのすごさを、4つの角度と数字から見ていきたい。

(1)G1勝利数と獲得賞金

 ディープインパクトの芝G1勝利数は歴代最多タイの7勝(皐月賞、日本ダービー、菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念、ジャパンカップ、有馬記念)。ちなみに、7勝を挙げている馬はほかに、シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラックがいる。ただ、7勝すべて異なるレースなのはディープインパクトのみだ。

 獲得賞金15億5000万円(ボーナス含む)は歴代5位。トップはテイエムオペラオーの19億3000万円(ボーナス含む)だが、レース出走数はオペラオー26戦に対して、ディープインパクト14戦(12勝)。オペラオー並みに走っていたら、歴代トップは間違いなかった。

 4歳で有馬記念を制し引退した後、武豊騎手はこう言った。

「来年も走ったら、総ナメだっただろう」

 ディープインパクトは、2000m以上の芝G1レースはすべて制していた。仮に現役を続けていたら、ドバイなどの海外レースに出走していたのではないだろうか。

(2)単勝配当

 日本国内で13戦12勝だったディープインパクト。G1レース別の単勝配当は次の通りだ。

・100円 菊花賞

・110円 日本ダービー 天皇賞(春) 宝塚記念

・120円 有馬記念(06年)

・130円 皐月賞 有馬記念(05年・2着)ジャパンC

 G1以外でも、110円が4回、120円が1回。つまり、ディープインパクトの単勝を全レースで1000円ずつ買い続けたと仮定すると、トータルの投資額1万3000円は1万3700円にしかならない。利益率1.05%と、馬券的にはローリターンだった。

 ちなみに、G1で7勝したキタサンブラック(ディープインパクトの全兄、ブラックタイドの仔)は20戦12勝だったが、2万円の投資額は11万4200円にもなっている。

(3)7年連続リーディングサイアー

 ディープインパクトは、2012~18年と7年連続で産駒(ある父馬または母馬から生まれた馬のこと)勝利数1位のリーディングサイアーともなっている。その産駒がデビューしたのは10年。初勝利はサイレントソニックという馬だった。同年暮れにはダノンバラードがラジオNIKKEI賞を勝ち、産駒初の重賞勝ちを記録した。

 翌11年には、マルセリーナが桜花賞を勝ち、初のG1勝利。古馬相手の安田記念をリアルインパクト(現種牡馬)が勝ったのも、この年だ。ちなみに、平成以降で安田記念を制した3歳馬はこの馬だけである。同年暮れにはジョワドヴィーヴルがデビュー2戦目で阪神JFを勝ち、周囲を驚かせた。

12年には、ジェンティルドンナが桜花賞、オークス、秋華賞を制して牝馬3冠馬に。

 G1レース別の産駒勝利は、以下の通りだ。

・フェブラリーステークス 0頭

・高松宮記念 0頭

・大阪杯 アルアイン

・天皇賞(春) フィエールマン

・桜花賞 マルセリーナ ジェンティルドンナ アユサン ハープスター グランアレグリア

・皐月賞 ディーマジェスティ アルアイン

・NHKマイルC ミッキーアイル ケイアイノーテック

・Vマイル ヴィルシーナ(13・14年)ジュールポレール

・オークス ジェンティルドンナ ミッキークイーン シンハライト ラヴズオンリーユー

・日本ダービー ディープブリランテ キズナ マカヒキ ワグネリアン ロジャーバローズ

・安田記念 リアルインパクト サトノアラジン

・宝塚記念 マリアライト

・スプリンターズS 0頭

・秋華賞 ジェンティルドンナ ショウナンパンドラ ミッキークイーン ヴィブロス

・菊花賞 サトノダイヤモンド フィエールマン

・天皇賞(秋) スピルバーグ

・エリザベス女王杯 ラキシス マリアライト

・マイルCS トーセンラー ミッキーアイル ダノンシャーク

・ジャパンC ジェンティルドンナ(12・13年)ショウナンパンドラ

・阪神JF ジョワドヴィーヴル ショウナンアデラ ダノンファンタジー

・朝日杯FS ダノンプラチナ サトノアレス ダノンプレミアム

・有馬記念 ジェンティルドンナ サトノダイヤモンド

・ホープフルS 0頭

(4)破格の種付け料

 産駒のG1勝利数は63勝(JRA50勝、地方1勝、海外8勝、海外産駒4勝)。父のサンデーサイレンスと肩を並べる活躍をした。種付け料の推移を見ると、1200万円→1000万円→900万円→1000万円→1500万円→2000万円→2500万円→3000万円→4000万円と上昇している。

 ちなみに、アーモンドアイを輩出したロードカナロアは1頭当たり800万円。18年は294頭に種付けをしている。

 ディープインパクトの種付け頭数がもっとも多かったのは13年度で262頭。この年の種付け料は1500万円だったため、3割ほど不受胎が起こることを考慮しても、約27億円となる計算だ。また、4000万円に上昇した18年は197頭に種付けしており、同じく約55億円に跳ね上がる計算となる。

 これほど種付け料が高騰したのは、アーニングインデックス(AEI=種牡馬ごとの産駒1頭当たりの収得賞金の平均値。1より大きいほど平均より大きくなる)が毎年のように高かったからだ。

12年の4.13を最高に、ほぼ毎年3以上を示していた。

 菊花賞と有馬記念を勝ったサトノダイヤモンドはセリ取引価格が2億4150万円、獲得賞金8億6500万円。ジェンティルドンナは1口85万円で40口募集され、トータル3400万円で獲得賞金は13億円を超えた。

 つまり、ディープインパクトは現役時代もすごかったが、種牡馬になってからも、とてつもない数字を残したことがわかる。史上最高クラスの“馬主孝行馬”ともいえそうだ。おそらく、こんな名馬は二度と現れないだろう。

(文=後藤豊/フリーライター)

編集部おすすめ