8月22日に韓国が日本との間で締結されている「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を破棄することを発表し、波紋を呼んでいる。2016年11月に日韓間で署名されたGSOMIAは、当局間で軍事情報の交換を可能にすると同時に、漏洩などを防ぐために保護を義務付ける協定だ。
GSOMIAの継続をめぐっては韓国側が破棄をちらつかせる動きもあったが、22日朝までは「延長される」との見方が大半を占めていただけに、衝撃が広がっている。いったい、何があったのだろうか。
「2020年4月に総選挙を控える文在寅大統領は経済および支持率の低迷に苦しんでおり、ここで反日世論を煽ることで政策への批判を回避したいという狙いがあるのは明らかです。また、GSOMIAは朴槿恵政権下で締結されましたが、前政権のレガシー(政治的遺産)を否定することで独自色を出したいという思惑もあるでしょう。文政権は、同じく朴政権下で結ばれた日韓合意も反故にする姿勢を見せていますから。
さらに大きい要因が、北朝鮮への擦り寄りでしょう。北朝鮮は7月の時点で韓国に日本とのGSOMIA破棄を要求する論評を宣伝サイトに掲載していました。かねて南北融和にご執心の文大統領は、最近も『北朝鮮との経済協力で一気に日本に追いつく』『2032年にソウル・平壌オリンピック開催、2045年までに朝鮮半島の和平と統一を目指す』などと掲げており、改めて北朝鮮に対話を呼びかけています。そのため、今回のGSOMIA破棄は北朝鮮の言いなりになったとみることもできるでしょう」(政治ジャーナリスト)
しかし、当の北朝鮮は南北対話を拒否している点が皮肉である。北朝鮮の祖国平和統一委員会は、8月に行われた米韓合同軍事演習は北朝鮮に対する敵意の表れだと非難した上で、南北対話の再開について「妄想だ」「韓国当局者とこれ以上話すことはなく、再び対座する気もない」と韓国を拒絶しているのだ。
米国を裏切った韓国のGSOMIA破棄また、米国は7~8月にかけてジョン・ボルトン大統領補佐官やマーク・エスパー国防長官が訪韓しており、GSOMIAの継続を求めていたが、韓国は説得に応じなかったことになる。
これを受けて、米国防総省は「強い懸念と失望を表明する」という声明を発表しており、マイク・ポンペオ国務長官も「韓国政府の決定に失望している。日本と韓国が対話を続けるよう強く促している」と述べている。
「どこまで米国側に根回しができていたのかわかりませんが、事実上、米国のメンツを潰す行為であり、場合によっては米国側が激怒してもおかしくはないでしょう。しかし、現在の東アジアのパワーバランスを考えると、これで損失を被るのは韓国のほうであり、米国を裏切った代償は大きなものになりそうです」(同)
現在、東アジアの安全保障情勢は緊迫感を増している。北朝鮮が短距離弾道ミサイルなどの発射実験を強行しているほか、中国とロシアの空軍機が竹島周辺の上空を領空侵犯し、韓国軍が警告射撃を行うという事態もあった。これは、連携が崩れつつある日米韓の出方を試すための動きであったとも見られている。また、中国は南シナ海で初めて弾道ミサイルの発射実験を行うなど、人工島の軍事拠点化を加速させている。
「状況的に、韓国のGSOMIA破棄は中ロ朝を利する行為であり、日米韓の軍事的連携に亀裂を入れるものといえます。そのため、今後は東アジア全体の安保情勢に変化が生まれる可能性が高く、軍事的緊張を招くリスクも懸念されます」(同)
韓国のGSOMIA破棄を受けて、河野太郎外務大臣は「地域の安全保障環境を完全に見誤った対応と言わざるを得ず、極めて遺憾」とする談話を発表しており、韓国が日本の輸出管理強化を理由としている点については「両者は全く次元の異なる問題だ」と指摘している。また、すでに駐日韓国大使を外務省に呼び、直接抗議している。
一方、韓国国内でも異論が噴出しており、保守系の朝鮮日報は「GSOMIAは我々が一方的に情報を提供するものではない。
韓国の異例の判断は、どのような結果を招くのだろうか。
(文=編集部)