「わけあって、安い」というキャッチフレーズを掲げ、シンプルで安いというコンセプトを徹底することで成長を遂げた生活雑貨「無印良品」が岐路に立たされている。

 無印良品を展開する良品計画の2019年2月期連結決算では、売上高の4割を占める海外部門のなかでも、特に勢いがある中国の既存店売上高が初の前年割れ。

一方、国内事業の営業利益は447億円で、こちらも1.2%の減益となっている。減益決算は11年2月期以来8期ぶりで、決算発表の翌日に良品計画の株価は急落。また、今年1月にはファミリーマートでの無印良品の販売が終了するなど、ここにきて勢いに陰りが見え始めている。

 そんな逆風のなか、良品計画は新たに国内初のホテル事業に着手し、東京・銀座に「MUJI HOTEL GINZA」をオープンさせた。日本有数の生活雑貨ブランドは、ホテル事業で何を目指すのか?

無印良品が値下げに踏み切った理由

 量販店のプライベートブランド(PB)ブームに乗って、1980年に西友のPB商品としてスタートした無印良品。「ノーブランドグッズ」の和訳である「無印良品」は、ブランド名がつくだけで価格が上昇する現象へのアンチテーゼとして生まれ、シンプルで価格を抑えた雑貨商品を展開。

89年には、西友の子会社の良品計画として独立した。

 その後、独自のデザインや商品企画力によって成長を続け、ロンドンやニューヨークにも出店するなど、世界に「MUJIブランド」を確立するまでの大企業となった。しかし、なぜ業績を落とし始めたのだろうか。

「営業減益の背景には生活雑貨の不振があります。無印良品の売上高の5割を超える雑貨は、そのまま利益に直結するジャンル。特にリネン類などインテリア系雑貨の不振は深刻で、通期売上高は98.8%と前期を下回りました」

 そう語るのは、複数の企業で社外CFO(最高財務責任者)を務め、「レンタルCFO」の肩書きで活躍する鈴木吾朗氏だ。

鈴木氏は、売り上げが低迷している要因のひとつに、無印良品に匹敵する生活雑貨ブランド、海外ECなどの選択肢が数多く出現したことを挙げる。

「良品計画が台頭した90~2000年代は、安価で質のいい家具や雑貨店は少なかった。しかし、近年の輸入雑貨ブームや良質な100円ショップアイテムが増えたことで、海外ECのAliExpressなどから直接購入するユーザーも増えたため、安くて機能的かつシンプルな雑貨というのは珍しいものではなくなり、あえて無印のリアル店舗で買う必要性が薄れつつあります」(鈴木氏)

 そうした売り上げ不振を受けて、無印良品は2年前から一部商品の値下げを積極的に行っている。

「良品計画が値下げを決めた商品は、ベッドや収納家具、衣料品など約2800品目。値引額にはバラツキがありますが、なかには1000円近く安くなった商品もあります。あらためて消費者目線に立つことで、離れつつある客の心を引き止めようという狙いです」(同)

 また、良品計画の業績不振にはファミリーマートでの販売終了も少なからず関係している、と鈴木氏は言う。

「長年、ファミリーマート内に無印ブランドの雑貨やスイーツを置き、幅広い地域、客層に受け入れられてきた無印良品ですが、コンビニという全国規模の販売スペースを失ったことで、ある程度の減益は致し方ないところでしょう」(同)

 突如発表された販売終了の理由について、良品計画は「ファミリーマート側の意向」と説明しているが、商品の売り上げ不振が影響したという事情もあるだろう。

「そもそも、ファミリーマートも無印良品も西友ストアから分離して生まれ、長きにわたり協力関係にあった間柄。しかし、ここにきてファミマ側が無印良品から手を引いたのは、今後の良品計画の伸びしろのなさを見越しての行動だと思います」(同)

ホテル事業は世界に向けた「大規模CM」

 そんななか、4月4日に良品計画は国内初のホテルとなる「MUJI HOTEL GINZA」をオープンした。国内での業績が停滞するなかで、ホテル事業は良品計画にどのような影響をもたらすのだろうか。

「無印ブランド強化のためにも、ホテルオープンは賢い選択だと思います。生活雑貨店が乱立し、今後の爆発的な販路拡大が期待できない一方で、訪日外国人の増加やオリンピック開催によるインバウンド需要など、日本のホテル事業はまだまだ開拓の余地がある。

『無印良品』は世界に名が知られているだけに、外国人観光客に対しては大手ホテルよりも有利な状況にあるといえます」(同)

 MUJI HOTELの客室料金は、365日変動なしで1室1万4900円から。近隣のアパホテルとさして変わらない低価格でありながら、客室は無印良品の雑貨や家具で統一され、一般的なビジネスホテルとは一線を画したデザイン性を誇っている。

「MUJI HOTEL GINZAの客室は無印らしさを強調したシンプルなつくり。しかし、寒々しいビジネスホテルになっていないのは、良品計画がこれまで積み上げてきたプロダクトのデザイン性のおかげでしょう。客室のアメニティや備品の多くは無印で実際に販売されている商品なので、いわば客室そのものが広告塔。銀座という立地でもコンセプトをぶらさずに展開することで、MUJI HOTEL GINZAはブランド力強化に一役買っているわけです」(同)

 良品計画はすでに中国の深セン、北京にホテルをオープンさせており、銀座は3軒目にあたる。

ホテルが入る読売並木通りビルは、1~5階を無印良品の店舗が占め、6階にホテルのフロント、7~10階が客室と、良品計画一色となっている。無印のホテル事業は、インバウンド需要が見込める上に大規模な宣伝も兼ねているわけだ。

「『無印良品銀座』の4月の来店客数は30万人を超え、順調な滑り出しです。訪日外国人に対して無印良品をアピールすることでグローバルな支持を獲得しつつ、ほかの雑貨ブランドと差をつける。そこで、冷え込みつつある国内消費をどれだけ取り返せるかどうかが勝負でしょう」(同)

 ファミリーマートという併走者を失ったものの、ホテル事業を本格化させる良品計画の戦略は、どう出るだろうか。

(文=藤野ゆり/清談社)