プロスケーターの織田信成氏が29日、ブログで自身が所属していた関西大学アイススケート部で大学側から嫌がらせやモラハラを受けていたと告発した。織田氏は9月9日付で関大アイススケート部の監督を退任していたが、関大側はその理由を「多忙」と発表。
デイリースポーツなどの報道によると関大は9日、織田氏のアイススケート部の監督退任を発表した際、「(多忙で)監督としての時間が十分に取れない」と申し出があったと説明。大学側が織田氏を慰留したとも主張していたという。
「嫌がらせとモラハラ」で監督退任織田氏は29日に日本語、30日に英語でブログを更新し、この報道を完全否定した。織田氏はブログで退任の理由を次のように語った。
「多忙を理由に監督を辞任したわけではなく、また関西大学との話し合いの場で『多忙で監督として十分な時間が取れない』とは一言も話していません。
辞めた本当の理由は、リンク内で私に対して嫌がらせやモラハラ行為があり、その影響で今年春頃から体調を崩すようになり、辞任するまでの3カ月間リンクに行く事が出来なくなった事とそれに対する関西大学の対応が誠意あるものに思えなかったからです。
今回の件で、7月に弁護士の方もふまえて関西大学と話し合いを行いました。
関西大学が調べて報告をあげるという事で結論に至り、そこから2カ月待ちましたが、誰がどのように調べているのかわからず、また結果報告もありませんでした。
報告を待っている間も指導を待っている生徒がいるので、なんとかリンクに戻れる環境にしてくれないかお願いしましたが、実施されないまま、このままでは何も変わらないだろうと半ば諦めた気持ちで、監督の職を辞する決意を致しました。
他の仕事への影響もあり、体調が優れないまま監督を続ける事は私にとって厳しいものでした。
関西大学が私に対して引き続き指導を頼んだ旨の記事がありましたが、そのような事はなく、辞める時は大学側に辞意を伝えるとすぐに承諾されました。
またどんな理由を言って辞めても嘘になるので、前向きな言葉だけで終わらせてほしいとお願いもしましたが、大学側から『あくまで多忙が理由』と証言する記事が出ました」(原文ママ)
調査は誰が行っていたのかもし、織田氏のブログの内容が事実だとすれば、関大側は織田氏の退任理由について事実とは異なる内容を発表しただけではなく、彼へのモラハラなどの事実を隠したことになるのではないか。
神奈川県内の大学でパワハラやモラハラ、セクハラの相談業務を行っていた心理カウンセラーは次のように話す。
「ブログでは『大学がこの件に関して誰がどのように調査しているのかわからない』という記述がありますが、被害者の織田氏に調査の状況を知らせていないとすると関大の姿勢はあり得ないと思います。学生や職員からのモラハラなどに関する相談窓口は他の部局から独立するかたちで設置されるのが一般的です。織田さんがどのような部署に相談されたのかがまず気になります」
今回の問題について、関大のどの部署が対応していたのか。運動部を統括する部局が対応したのか。それとも学内の専門窓口が対応したのか。仮に専門窓口が動いた場合、コンプライアンスの常識に則れば、被害を訴える人と緊密に連絡や面談を行いつつ、職場や研究室の環境改善を図るだろう。場合によっては、労働基準監督署や医師など外部の機関に、被害者や相談者をつなげる仕組みが最近の大学には構築されつつある。
「当然、専門窓口には相談記録も残ります。相談を受けてから、対応がどう終了したのか一連の報告書にまとめられるので、今回の織田さんのように当事者が退職したり退学したりしても、モラハラが訴えられた事実は残っているはずです。
通常、手続きとしてはモラハラが行われた事実確認を行うことになりますが、聞き取りにせよ質問状形式にせよ、事実関係を照らし合わせるために被害を訴える方との連絡は必須です。相手がどれほど多忙な人物でも事実確認は2カ月間もあればできるでしょう。いずれにせよ、被害者側になんの連絡もとらないで調査ができるのか疑問です」(前出のカウンセラー)
嫌がらせをなかったことにするのか今回の件に関して、関西大学は30日、次のような見解をホームページ上に公開した。
「本年4月以降、織田信成さんに関係して、指導方法をめぐって同部内で意見の相違があったことは認識しています。その後、織田信成さんからは、本年7月1日に学長に対して所属事務所、弁護士が同席のもと、指導方法等に関する強い要望がありました。そこで、織田信成さんのご意見もお伺いし、その内容に基づき、時間をかけて複数の関係者に対してヒアリングを行ってまいりましたが、総合的にみてその要望を受け入れることは妥当ではないと判断しました。
織田信成さんのご体調も考慮しつつ、こうした結果を織田信成さんにお伝えすべく、慎重に準備を進めておりましたところ、先に織田信成さんから辞任のお申し出があり、やむなく本学として了承することとなりました。なお、9月9日の退任の報道にあたっては所属事務所と十分に協議の上、発表しておりますことを申し添えます」
関学の見解について、織田氏が所属するアスリート・タレント事務所トラロックエンターテイメントに問い合わせた。織田氏の担当者は次のように不快感を示す。
「まず、退任の発表内容に関して大学と協議したのは事実ですが、当初のプレスリリースには『多忙』という文言は入っていませんでした。
関大の発表にはモラハラや嫌がらせに関する記載は一切ありません。弁護士と同席で嫌がらせやモラハラに関して大学側に対応を求めたのは事実です。それを無かったことにするのでしょうか。論点のずれを感じますし、大学側の誠意を感じません。当人と話し合ったうえで、今後の対応を決めたいと思います」
織田氏はブログでこうも語っている。
「どんな状況でもスケートを教える事がすごく楽しかったので、自分がもっと強くいられればきっとこんな風にはならなかったのだと反省しています。人前で笑う事が辛く感じる時期もありましたが、今は家族との時間を多く取り、他のお仕事をする事で精神的にも安定してきました」
織田氏は男子ファイギアスケートを盛り立ててきた日本の大切な功労者の一人だ。その功労者がこんな告発をしなければならないというのは異常事態だ。大学は調査の詳細と事実関係を明らかにする必要があるのではないか。
(文=編集部)