ヤフーによるZOZOの電撃的な買収劇の主役は、ヤフーの親会社であるソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長だった。

 ZOZO創業者の前澤友作氏は経営から退き、宇宙旅行や別の新事業に専念するという。

10月に社名をZホールディングスに変更するヤフーは、衣料品通販サイト運営のZOZOに対してTOB(株式公開買い付け)を実施して子会社にする。50.1%を上限に買い付け、買収額は最大4007億円。

 9月12日に行われた共同記者会見には、孫氏がゲストとして登壇。この日、社長を辞任した前澤氏とのTシャツ姿のツーショットが翌日の紙面を大きく飾った。孫氏によると、前澤氏が孫氏に「ZOZOの社長は引退して、新しい人生を過ごしたい」と相談したところ、孫氏が「ヤフーと提携してやってみるか」とヤフーの川邊健太郎社長を紹介したという。

「個人の借金で火の車となり、株を売るしかなくなった、という話が各メディアに盛んに出ているが、会社を売却しなければならないほどの額ではない。むしろ、ゾゾスーツに代表されるように、やることなすことが外れて、失敗しまくった結果、ZOZOの経営に興味を失くしたのではないか」(M&A会社のトップ)

 ZOZOは新規事業で迷走が続いた。体形ぴったりの服を提供するとしたプライベートブランド(PB)事業では、採寸専用の「ゾゾスーツ」を無料配布したものの商品購入に結びつかなかった。有料会員になると商品価格を割り引く仕組みを導入したが、「ブランド価値を損ねる」としてアパレル大手などが撤退した。

「むしろ、孫社長による『ZOZO乗っ取り』の側面が見えてしまう」(同)

 前澤氏は孫氏と2010年12月に千葉県のゴルフコースで会い、ラウンド後にソフトバンク本社で一緒に風呂に入った、というエピソードを本人が明かしている。そして2011年10月、ソフトバンクが出資する中国のアリババ集団(創業者の馬雲会長が9月10日に退き、現在は張勇最高経営責任者)と合弁で「ゾゾタウンチャイナ」をスタートさせたが、2013年1月に撤退した。

 この中国での合弁事業には前澤氏は乗り気ではなく「検討する」と答えたら、孫氏が「何を検討するんだ。

お互い社長なのだから、自分で判断できるだろう」と強く迫り、前澤氏が押し切られたという経緯がある。

「あの時、孫社長は将来的な“乗っ取り”まで計算して、中国合弁を勧めたのではないかと勘繰りたくなる」(前出のM&A会社トップ)

4段重ねの「親子上場」

「私はAI(人工知能)革命の指揮者になりたい」

 6月のSBGの株主総会で、孫氏はこうぶち上げた。AI革命のチャンピオンになるため、投資会社に変容したSBGの傘下に置くグループ会社を再編した。

 中核子会社のソフトバンクを東証1部に上場させ、ソフトバンクが6月にヤフーを子会社にした。ヤフーの親会社はSBGからソフトバンクに交代。併せて、ソフトバンクとヤフーが共同で出資するスマホ決済のPayPayはSBGの直轄事業となった。

 孫氏には出資した中国のネット通販最大手アリババ集団での成功体験がある。アリババの事業モデルは、スマホ決済「アリペイ」を入り口に、ネット通販や金融サービス、各種の生活サービスに導かれる仕組みになっている。孫氏はアリババの取締役でもある。

 SBGはアリババの事業モデルをそっくり真似する。PayPayを入り口に、ネット通販や金融サービスに導くというものだ。そのためにPayPayをSBGの直轄事業にして、子会社ソフトバンクがヤフーを子会社にした。

 ヤフーの個人向けネット通販は、アマゾンや楽天に大きく水をあけられてきた。アマゾンや楽天に追いつき追い越すためにアスクルの個人向け通販「ロハコ」が欲しくなり、これに反対する岩田彰一郞社長(当時)の解任騒動に発展した。EC(ネット通販)事業をテコ入れしたい孫氏の意向を忖度して、ヤフーが強硬手段を採ったといわれている。

 アスクル問題では「親子上場」が批判された。SBGが親会社、ソフトバンクが子、ヤフー改めZホールディングスが孫、アスクルとZOZOがひ孫会社の4段重ねの「親子上場」となる。

楽天&アマゾン超えへの重圧

 ZOZO買収が孫氏主導だったとすると、「いつ楽天を抜くんだ」「いつアマゾンを抜くんだ」という重圧は一段と強まる。

 TOB価格は1株2620円。

「ZOZOにそんな価値があるのか。孫さんは高値で掴まされた」(大手証券の営業担当役員)

 9月11日の終値(2166円)に21%のプレミアムをつけた。裏を返せば、「前澤さんはいい時期に、うまく(持ち株を)売り抜けた」(外資系証券会社の流通担当アナリスト)ことになる。話題をSNSで拡散させ、株価を吊り上げるのが、いつものやり方。2度にわたって持ち株をZOZOに自社株買いさせて、キャッシュを手にすると現代絵画や高級車を買い漁るなどやりたい放題だった。

ZOZOの株価は18年7月に上場来高値(4875円)をつけてから、新規事業の失敗で下落を続け、19年2月に1621円とピーク時の3分の1に急落した。19年3月期の連結純利益は21%減り、98年に設立以来、初の減益に陥った。時価総額でみると、およそ1兆円も目減りした。まさに踏んだり蹴ったりだ。

 ファッションのECサイトは、もはやバラ色ではない。国内は若年人口が減少し、アパレル市場は縮小傾向にある。買う人の二極化も進んでいる。シャネルなどの高級品を買っても数回着て、メルカリで高値で売る。その一方、身の回り品は一番安いものを買う。ユニクロより同系列のGU(ジーユー)を選ぶ。ストライプ(縞模様の生地)ならストライプインターナショナルが展開するアース&ミュージック&エコロジーというプチプライスのブランドが一番、売れている。

 そういう意味でも、前澤氏は自分の会社を売るラストチャンスをうまくキャッチしたということだ。

借金をどう返すかを勘案しない大雑把な計算だが、TOBに応じ最大2400億円を手にすると報じられている。

 虎(前澤氏)の威を借りてやりたいことをやってきた“前澤親衛隊”の居場所は当然なくなる。苛烈なリストラを経て、ZOZOは普通の上場企業となり、前澤色は一掃される。9月30日のZOZOの株価は2492円であり、ヤフーに“身売り”発表後の高値は、くしくも9月12日の2575円。それでも上場来高値の、ほぼ半分の水準である。

(文=編集部)

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