※この記事は2018年3月2日に掲載されたものです。
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第1章 なぜ、個人投資家は、儲かっていないのか?
<第3話>投資で儲かった、と言う人がいない理由
「ところで、先生、投資で儲かったという人があまりいないように思うのですが、なぜでしょう?」
「ハハハ。それは、<あなたの周りには、いない>の間違いでしょう。
嫌味なオヤジだなと思いつつ、隆一は「株で儲かった人って、そんなにいるんですか?」と聞いてみた。
「もちろん、たくさんいます。というより、世界のお金持ちの多くは、株で資産を増やしています。ビル・ゲイツ氏の資産の大半はマイクロソフトの株ですし、ウォーレン・バフェット氏は投資家として数兆円の資産を築き、日本有数のお金持ちの孫正義氏や柳井正氏は、自分の会社であるソフトバンクやファーストリテイリングの株で、資産を築いたのです」
「先生、それはその通りかもしれませんが、そういったお金持ちは一部の起業家だけで、僕みたいな庶民とは違いますよ」と、やはり隆一の中では、お金持ちと株式投資の関係がピンときていなかった。
先生は、隆一の反応は気にせず話を続けた。
「もちろん、あなたがこれから売上げ何兆円もの企業を起こすのは難しいかもしれません。でも、それらの企業も元々はベンチャー企業であり、上場したときにその会社に投資をしていれば、そこから資産は何百倍にもなっているのですよ」
「先生、何となくはわかりますが、ちょっと私には壮大です。もっと庶民にもできるレベルの話をしてもらえませんか?」
「確かに日本では、投資で成功した、投資で資産を築いたという人の数が絶対数ばかりでなく人口比でも、アメリカなどと比べると少ないのは事実です。そこには、日本経済の問題もあったのですが」
<あまりレベルが下がってないし、むしろややこしい話になってきたな>と隆一が感じたのを見てか、先生はこんな話をした。
「日本の株価は、直近では上げ下げはあっても、長い目で見ると回復基調の中にいます。と言っても、私の若いころ、1989年12月に日経平均株価は、3万8,915円を付けたんです。あれは忘れられません。
「私なんか、たまの新橋飲みで2,000円使うのもせいぜいなのに、タクシーをつかまえるだけで1万円ですか」
隆一は、時代が違うなと感じつつも、先生の話に興味を持ち始めた。
「そういう時代をバブルというのです。バブルの仕組みや歴史は投資をする上では知らないといけないので、また別の機会にやりましょう。ざっくりと話すと、日本の不動産、株式バブルが崩壊した1990年からは、株価は大きく値を下げていきました。いったん戻り基調になっても2000年代初頭にはITバブルの崩壊、2008年にはリーマンショックによる急落があり、その後の民主党政権の時代も8,000円台の株価が続きました。とにかく日本株は長いこと低迷していたわけです。ようやく最近になって、世界景気の回復とアベノミクスで株価は回復基調をとりもどしていますが、リーマンショックから10年経ってやっと今の水準です。バブル崩壊など30年近く前の話なのに、当時の株価にはまだまだです」
隆一は、日々ある会社の株価を追いかけてはいたが、いまの日本の株価が高いのか、安いのかをあまり考えたことがなかったな、と思っていた。先生は、続けた。
「では、アメリカはどうか。1990年代から今日まで上げ下げはあっても、株価はトレンドとして上昇を続けてきました。これは、アメリカでは、特別な知識がなくとも株に投資して長く保有していれば、財産が作れたことを意味します。
隆一はアメリカの株価など気にしたこともなかったので、素直に「20年前というか、今のダウもわかりません」と答えた。
「アメリカは世界経済の中心を成す国です。ぜひ、今日からNYダウぐらいには興味を持つようにしたいですね。20年前のNYダウは約8,000ドル、いまが2万4,000ドルくらいです。つまり、20年間、日本株がほとんど上がっていない間に、アメリカの株価は3倍になっていたということです」
隆一は、「日本とアメリカでそんなに違ったんですか。いやあ、アメリカ人に生まれたかった」と相槌を打った。その反応をよし、と見たのか先生の言葉は熱を帯びだした。
「もう1つ、これはさきほどの日本とアメリカの株価の動きの結果でもあるのですが、日本では自分の金融資産を投資商品に振り向けている人が欧米に比べて極端に少ないのです。日本の家計金融資産は1,800兆円以上ありますが、その50%以上は現預金。投資に該当する株式・投資信託の割合は16%。それがアメリカでは逆で、現預金は13%程度で株式・出資金・投資信託が48%です。そもそも日本株も上がってないし、投資にお金を回している割合も少ないので、一般的には投資で家を買ったとか、クルージングに出かけたとかいう話を聞かない、ということです。
儲けている人の仲間に入りたい
先生の話が一段落したところで、隆一は一番聞きたいことをおもむろに持ち出した。
「先生、日本でも儲かった人がそれなりにいるなら、私もその仲間に入りたいと思うのですが」
「そうでしょうね。そうでなければ私を訪ねてはこなかったでしょう」
欲が出すぎてしまったかと思い、「いや、勉強させていただきたいと思いまして・・・・・・」と、隆一は「勉強」という言葉をことさらに強調した。
「あなたは、まず、2つのことを理解しなければいけません。1つは、投資にしろ、トレードにしろ、それは丁か半か、上がるか下がるか、という『当てもの』ではないということです。正確な情報と確立された理論か信頼できる経験知にもとづいて分析して、リスクをとるということです」
隆一は身を乗り出していた。難しい話になりそうだと思う一方で、知りたい儲け方の話には近づいてきたと思ったからだ。
「利益を上げようとすれば、それなりの情報収集や勉強と訓練が必要になります。しかし、いくら情報を集めても、いくら分析しても、利益が出るか否かは将来のことですから、必ず予想した結果になるとは限りません。だから、利益になるか損失になるか不確定な将来にむけて、今、決断するという意味でのリスクテイクも必要になります。」
「情報収集、勉強と訓練、それにリスクテイクですか・・・」
隆一はふと、学生時代に抜き打ちで難しい長文英語のテストを出されうなだれたときのことを思い出し、やはり自分には無理ではないかという思いがこみ上げてきた。
隆一の様子を見慣れた光景のように先生は、話してくれた。
「不安にさせるようなことを言ってしまったようですね。確かに、投資を体系的に学ぶことは簡単ではありませんが、これまで私のところにきた中で一人の脱落者もいませんよ。
その言葉で隆一の気持ちはいくぶん明るくなった。
「先生、それではこれから毎週金曜日の夜7時にお邪魔してもよろしいですか」
「それはいい心がけですね。世間が花金で飲んでいる時間帯にちゃんと来られますか」
「先生、何度も言っていますが、私は本当に投資のことを体系的に学びたいのです」
「わかりました、ではまた来週お待ちしています。次回は資本主義の仕組みについて学びましょう」
足取り軽く、隆一は新橋の飲み屋街を気にすることなく、家路についた。
第5話:「資本主義より、マシな仕組みがないだけ」を読む
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(中桐 啓貴)