鳴り物入りでスタートしたセブン-イレブンのスマートフォン決済サービス「7pay」は、不正アクセス問題により9月末でサービスを終了した。今や数多くのスマホ決済サービスが乱立しており、消費者の間からは「“○○ペイ”が多すぎる」という声も多い。

 そのため、今後は淘汰が始まるともいわれているが、各種“ペイサービス”の現状と生き残り戦略はどのようなものか。ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。

ポイントから“○○ペイ”への戦略変化

 昨年の「PayPay」による「100億円あげちゃうキャンペーン」を皮切りに、各社が「○○ペイ」と銘打つサービスを打ち出している。現状の勢力図を理解するためには、「まず『ペイ』の基本的な考え方を理解しなければならない」と三上氏は言う。

「各社とも、これまではポイント戦略が主でした。ポイントの目的は顧客の囲い込みです。消費者にグループ内のお店でポイントを利用してもらい、いわば自社の経済圏を築くことが目的だったわけです。しかし、QRコード決済は誰でもどこでも使えることを目的としており、囲い込みとは対極の考え方です。つまり、事業のやり方自体が、顧客の囲い込みからすべての業態・お店を取りにいくというふうに変わったのです」(三上氏)

 ビジネスモデル自体がガラリと変わったことで、各社が乗り遅れまいと参入を図ったということだ。そして、そんな市場から早々に退場したのが7payだ。サービス開始翌日の7月2日から不正利用が相次ぎ、被害者は808人、被害額は3861万5473円(7月31日時点)。この騒動をきっかけに、7payは9月30日をもって廃止された。

「7payは既存のセブンのアプリに内蔵させたのが間違いでした。セブンのアプリ自体のセキュリティが甘く、過去に流出したパスワードなどを元にしてアプリ自体を乗っ取られたのが不正利用の原因です」(同)

加盟店の多さではPayPayが他社を圧倒

 7payなき今、今後のシェア獲得レースはどう動くのか。重要なのは、前述した「囲い込み」の強さだ。

「囲い込み色がもっとも薄いのは『LINE Pay』とPayPay。この2つは場所や人を選ばずに展開されており、キャンペーンの規模や目指している市場も大きいです。この2強と比べて囲い込み色がやや強まるのは、『メルペイ』や『楽天ペイ』などのネットサービス組、また『d払い』や『au PAY』といった携帯キャリア組です。より囲い込み色が強いのは、ファミリーマートの『FamiPay』ですね。囲い込み色が強いサービスはユーザーが限られるため利用者が増えず、今後は淘汰されていくと思われます」(同)

 もうひとつ大事なのは、加盟店の数だ。いかに自社サービスの加盟店を増やすことができるかが、シェア獲得のカギとなる。その加盟店競争では、すでに3つの勢力が形成されている。

 d払い、LINE Pay、メルペイは「Mobile Payment Alliance(以下、MoPA)」という加盟店アライアンスを結成し、加盟店を共有する方向で動いている。さらに、楽天ペイとau PAY の2つは提携し、こちらも加盟店を共有することになっている。

この2グループのほかに、単独勢力のPayPayがあるという構図だ。

「各業種のトップシェアが集まったMoPAは、いわば強者連合です。それに対抗したのが、“2位連合”ともいうべき楽天とauグループ。ただし、これらをしのぐ加盟店を持つといわれているのがPayPayです。PayPayは圧倒的な営業力で、地方や商店街の小さな店舗でも使用が可能です。クレジットカードが使えなくてもPayPayは使えるお店も増えています。加盟店の多さでは、PayPayは他社よりも頭ひとつ抜きん出ています」(同)

次に消える“消滅可能性ペイ”は?

 10月から実施された消費増税において、QR決済はひとつのヤマ場を迎えているという。

「増税に伴い、キャッシュレス決済でポイント還元が受けられます。当然ながらキャッシュレス需要が盛んになり、特に還元率が高い中小企業はキャッシュレス導入を進めるでしょう。この10月からの需要のために、各社は去年から大々的なキャンペーンを展開してきたのです」(同)

 キャッシュレス決済を推し進めようと、政府も優遇措置を取っている。事業者がキャッシュレス対応のレジを新たに購入する場合、政府が3分の2を負担し、3分の1はキャッシュレス事業者が負担するというものだ。しかし、申し込みが多いため、政府の対応は滞っているという。

「『○○ペイ』の特徴は従来のレジがいらない点です。これは、特に中小の事業者にとって非常に魅力的でしょう。そこで攻勢をかけているのがPayPayの営業部隊というわけです。こう見てみると、加盟店の掘り起こしができないサービスは廃れていくと予想します」(同)

 そうなると、今後の存続が厳しい“消滅可能性ペイ”はどのあたりになるのだろうか。

「以上のことを加味すると、前述した3つのグループに入らないと生き残りは厳しいと思います。普及のために加盟店手数料を取ってないサービスもあるため、現状のQR決済では、各社とも儲けはほぼありません。仮に手数料を取っても利益はわずかですが、大きなシェアを獲得すれば決済システムが続く限り儲かるというビジネスです。スパンの長いギャンブルのようなもので、体力のないサービスは統合や提携でブランドがなくなっていくでしょう」(同)

 囲い込み色が強く加盟店も限られるという点で、次に消えるペイサービスはFamiPayなどの1社独自の決済サービスかもしれない。いずれにしろ、今後も「○○ペイ」のシェア争いから目が離せない状況が続きそうだ。

(文=沼澤典史/清談社)

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