日本代表の快進撃でラグビーワールドカップがものすごい盛り上がりを見せている。大会前までラグビーの試合を観たこともないような人までもが、日本戦の中継にくぎ付けだ。

試合が行われた地方の会場も大盛況である。

 10月中旬の3連休、取材で福岡と熊本を訪れたが、両市ともにアイルランドやウェールズなどのサポーターの姿が街中で見られた。アイルランド対サモア戦の前夜(11日)、博多の屋台街や清流公園のナイトマーケット「千年夜市」には、アイルランド人サポーターの姿が随所に。ある屋台で隣り合わせたアイルランドのシニア夫婦も応援のために駆けつけたという。名物の焼きラーメンをつまみながらビールを飲んでラグビー談議。日本には約4週間滞在し、ラグビー観戦のほか各地を巡り、最後は東京を訪れると言っていた。1次リーグでアイルランドを破った日本については「グッドチーム!」と褒めたたえ、「明日はサモアに勝ってベスト8に行く」と自国の勝利を確信しているようだった。

 福岡では1次リーグの予選3試合が福岡市の東平尾公園博多の森球技場で行われたほか、アメリカ、イタリア、サモアが福岡市、アイルランド、カナダ、フランスが春日市、ウェールズが北九州市でキャンプを行った。9月下旬、春日市で行われたカナダ代表選手の歓迎セレモニーでは市民ら約650人が歓迎したという。盛り上がりは試合会場だけではなかった。

熊本では中心部のファンゾーンに期間中3万人が訪れた

 10月13日に熊本市の県民総合運動公園陸上競技場で行われたウェールズ対ウルグアイの一戦。国内外から集まった観客は約2万7000人。

送迎バスが発車する花畑広場から競技場までは通常なら30~40分ほどで行けるのに、渋滞で約1時間かかった。サポーターの数は圧倒的にウェールズが多く、試合開始前から1杯1000円のビールを片手に、ご機嫌の様子。

 試合はウェールズがけがをしている選手など主力の多くを休ませたこともあり、ノックオンやスローフォワードなどミスが多く、7-6とウェールズの1点リードで前半を終了。場内には「ひょっとして大波乱も」というムードが流れ、ウルグアイサポーターの応援に熱が入った。結果は後半、ウェールズが地力の差を見せつけ35-13で順当勝ちを収めた。

 この試合、赤いユニフォーム姿のウェールズサポーターが多くいたのだが、後ろに両親と来ていた子どもが「ウルグアイがんばれ」と叫んでいた。試合の途中、父親に「僕、大きくなったらラグビーを習いたい」と訴えているシーンが印象的だった。

 熊本市内の中心部にある花畑広場には、ワールドカップ期間中、パブリックビューイング(PV)を楽しめるファンゾーンが設けられたが、こちらもファンでぎっしり。ウェールズ戦終了後には、横浜で行われた日本―スコットランド戦のPVを観ようと続々と人々が訪れ、入場規制が行われたほどだった。結局、9月20日から10月13日のファンゾーン最終日までに延べ3万人以上が訪れたという。

 熊本ではラグビー以外にも明るいニュースが続いている。熊本城の復旧はまだ途上だが、10月5日から日曜日、祝日に限って一部の特別公開が始まり、外観がほぼ復旧した大天守などを近くから見られるようになった。

さらに、市内中心部のバスターミナル跡地で進められてきた大型複合商業施設「サクラマチクマモト」が9月に開業。国内最大級のバスターミナルやホテル、ショッピングゾーン、熊本城ホールを併せ持つ熊本のランドマークが誕生した。総事業費755億円、149のテナントが入る大型複合商業施設は、2016年の熊本地震からの復興を進める熊本県、熊本市の期待の星だ。

 そしてもうひとつ。11月30日から12月15日にかけ、熊本市のパークドーム熊本をメイン会場に、2019女子ハンドボール世界選手権大会が開催される。日本をはじめ24カ国のチームが参加するビッグイベント。ラグビーの次はハンドボールで盛り上がりを見せることになりそうだ。

ワールドカップの経済効果は全国で4372億円

 ラグビーのワールドカップについては、昨年3月に大会組織委員会が「大会開催における経済波及効果は4372億円と予測される」とのレポートを発表している。そのなかでスタジアムでの観戦者は最大180万人、訪日観光客は40万人に達する可能性があると指摘、雇用創出効果も2万5000人になると予測している。

 ラグビーのワールドカップの開催期間は44日間と長く、全国12会場で試合が行われる。その前のキャンプも含めると地方への経済効果が大きく見込まれるのが特徴だ。博多の屋台で出会ったアイルランド人夫妻のように長期滞在で、全国各地を観光するファンも多い。

アジア系の観光客に比べて欧米系の訪日客のほうが旅行消費額が大きいことも、巨額の経済効果予測の背景にある。今年夏以降、韓国人観光客が激減している福岡、熊本、大分の各県にとってラグビーW杯はまさに救世主ともいえる。熊本では女子ハンドボール世界選手権も加わる。復興の後押しになってほしいものである。

 キャンプや試合観戦を通して、認知度、知名度の低かった地域に、サポーターというかたちで多くの欧米の旅行者が訪れた実績が重みを増すことになる。彼らがそうした地域の良さ、素晴らしさを世界中に発信し、新たな需要を掘り起こしてくれる可能性が出てきた。もちろん、今回の訪日客がリピーターとなって来年以降、各地を訪れてくれることも計算できる。

 そうした大きなチャンスを地方の自治体や観光関連業界がどう活かしていくのか。ラグビーW杯は来年の東京五輪で訪れる外国人旅行者を、再び呼び込むことができるのかの試金石ともなる。ラグビーW杯の盛り上がりを過去形とはせずに、今後の地方活性化の礎にしたいものである。

(文=山田稔/ジャーナリスト)

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