「Getty Images」より

1.ステルス・マーケティングに要注意!― ハーディング現象

 お笑いトリオ「ダチョウ倶楽部」のギャグをご存じですか?

(上島)「俺は絶対やらないぞ!」

(肥後)「お前やらないの? じゃあ俺がやるよ!」

(寺門)「いやここは俺がやるよ!」

(上島)「……じゃあ俺がやるよ」

(肥後&寺門)「どうぞどうぞ!」

 結局、絶対やらないと言っていた上島が、他の2人に引きずられて、やるはめになったのです。これは同調効果、あるいは鳥が群れて同じ行動をとることに由来してハーディング現象と呼ばれるものです。

 アメリカの心理学者アッシュが1951年に報告した同調実験を紹介しましょう。

 まず、実験室に学生8人を集めますが、このうち7人は「サクラ」で真の被験者は1人だけです。次に参加者に2つの図を見せます。図Aには1本の線が描かれており、図Bには長さの異なる3本の線が描かれています。

 そして、サクラ7人と最後に被験者に1人ずつ、図Bの3本の線の中で図Aの線と同じ長さのものを答えさせます。3本の線の長さは明確に違っており、誰が見ても答えは明らかです。線の長さを少しずつ変えながら18回の実験が行われ、そのうち12回は、7人のサクラが全員、同じように間違った線を解答しました。

 その結果、被験者がサクラに同調して不正解の線を選んだ確率は、約3分の1でした。また、同調して一度でも間違った線を選んだ被験者の割合は75%にものぼりました。

 ハーバード大学の経済学者ライベンシュタインの1950年の論文「消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、およびヴェブレン効果」では、「モノの価値が他人との比較に影響される」、消費の外部性という概念が示されました。

 バンドワゴン効果は「人が持っているもの、人気のあるものが欲しい」という正の外部性効果、スノッブ効果は「他人と同じものはいや」という負の外部性効果、ヴェブレン効果は「価格が高いものを所有して自慢したい」という自己顕示性を表します。

 価格の持つ3つの心理的意味「支出の痛み」「品質のバロメーター」「プレステージ性」のうち、最後のものがヴェブレン効果に該当します。

広告のキャッチフレーズ「人と違う」「他人とかぶらない」「あなただけの」は、すべてスノッブ効果を狙ったものです。

 一方、「人気No.1」「売れ筋No.1」「話題の商品」「みんな使っている」はバンドワゴン効果を意図しています。消費に関する同調効果(ハーディング現象)がバンドワゴン効果になります。

 この効果を悪用したのがステルス・マーケティングです。

1.行列の「並び屋」

2.パチンコの「おとり」

3.イベントやライブを盛り上げる「サクラ」

4.健康関連の「ヤラセ」

5.有名人のブログやツイートにおける商品紹介

 本来、これらは詐欺まがいのことをやっているので、「マーケティング」と付けてほしくないですね。

2.まとめサイトには要注意

 ネットにより世の中に流通する情報量は飛躍的に増えましたが、人間が処理できる情報量は限られているため、情報過負荷の問題が指摘されています。その結果、近頃は複数情報源を同時に低関与(直感的、非合理的)に処理する「ながら」接触、まとめサイトやランキングサイトなどの「要約情報」の重視、マスメディアより口コミなど「パーソナルなメディア」への過剰信頼、といった情報処理行動が見受けられます。そしてこれらの情報を、利用可能性ヒューリスティックや代表性ヒューリスティックを用いて、評価、判断、行動の基礎にしてしまうのが、最近の傾向です。

 情報過多から生じる消費者の負荷を減らし、企業とのマッチングを促進する情報中間業者も多数出現しています。たとえば、価格ドットコム、食べログ、トリップアドバイザーのようなメタサーチ・エンジンを利用するのも一つの対策でしょう。

 ただし、これらの過信は禁物です。特に無料で利用できる場合、業者はユーザーではなく他から収益を得ているため、情報提供が中立でない可能性があるからです。

 たとえばGoogleやYahoo!などで検索した際、画面上で一番目立つ上部と右側には、その検索キーワードの入札金額が高かったスポンサーのサイトが表示されます。これらはリスティング広告(スポンサードサーチ)と呼ばれています。それに続いて、通常の検索結果(オーガニックサーチ)が、特に線引きもなく提示されます。スポンサードサーチをオーガニックサーチから区別する「広告」の表記は小さくて、見逃してしまいそうです。

 同様に、ポータルサイトの見出しに「提供リンク」や「PR」と書かれているものは、編集記事のような体裁をした広告です。これらは記事広告(advertorial)、あるいはネイティブ広告(native advertising)と呼ばれます。その他に、中古車下取価格比較サイトの買取業者が、すべて裏で同じ企業によって運営されていたという事例もあります。

 フェイクニュース、デマ、炎上などに踊らされないためには、なるべくオリジナル(リツイートや拡散されていない)で信頼できる情報源を参照することが大切です。

(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)

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