新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛と休業要請により、パチンコ店の“淘汰”が始まる。パチンコ店では休業要請に応じないところも多く、都内のパチンコ店が休業すると千葉県のパチンコ店へ、千葉県のパチンコ店が休業すると茨城県へというように、営業しているパチンコ店を求めて客が移動していることも明らかとなり、政府による「休業要請の強化」が実施される方向にあるなど、“逆風”が吹いている。

 実際、4月15日には東京でもパチンコ店「アカダマ」3店舗を営業する愛知県名古屋市の赤玉が東京地裁に破産申請を行うなど、すでに淘汰は始まっている。

 実は、パチンコ店の苦境は新型コロナウイルスによる休業要請に始まったものではない。その背景には、いくつかの大きな要因が潜んでいる。

 第一は、パチンコ店からの“客離れ”だ。ここ数年、多くのパチンコ店では来店客数の減少が顕著だった。その理由にはさまざまなものがあるが、ギャンブル依存症問題が注目を浴びたことと、遊技台の射幸性に対する規制の強化は大きな比重を占める。

 日本版カジノの開設検討の過程で、ギャンブル依存症の問題が大きな注目を浴びるようになった。融資審査にあたって、ギャンブル依存の傾向に注意するように金融庁が金融機関を指導するなど、ギャンブル依存症への対処法が取られた。こうした動きがパチンコ店の来店者減少につながった可能性がある。

 また、出玉を3分の2に規制するなど遊技台の射幸性が低下していることも大きい。「出玉制限が強まると、来店客数の減少に直結する」(都内のパチンコ店)というように、遊技台の魅力の低下は、パチンコ店にとって大きな痛手となっている。

 第2に、4月から受動喫煙防止対策による禁煙措置がスタートしたことがあげられる。

「パチンコ店では自由に喫煙できていたのに、遊技台では完全に禁煙となったことでパチンコ店に出かけなくなった」(30代・男性)という声は多い。

 第3には、客層の変化がある。パチンコ店の客層も高齢化が進んでいる。高齢者のなかには毎日のようにパチンコ店に来店する人も多い。パチンコ店がいわば“高齢者の社交場”となっているのだ。

「高齢者の多くは、出費を少額に抑えるために1円パチンコ(パチンコの遊技は1玉4円だが、1玉1円でも遊技できるもの)で遊ぶ方が多い。

それでも、遊技をしているよりも、友達や知り合いと会話を楽しむ人も多い」(埼玉県郊外のパチンコ店)

 こうした高齢客は、パチンコ店としては売上げに結び付きづらいのだ。

個人経営のパチンコ店は苦境に

 以上のような環境変化による来店客数の減少により、経営が厳しくなっていたところに新型コロナウイルスという“災厄”が襲い掛かった。特に、チェーン店展開をする大型パチンコ店にくらべ、個人経営のような小型のパチンコ店では、新型コロナウイルスによる休業要請以前から、非常に経営が厳しい状況で多くの小型店が淘汰されてきている。

 前述した遊技台の射幸性規制により、旧規制の遊技台は2021年1月末には撤去しなければならない。旧規制の遊技台は、現時点でパチンコ店にとっては“客を呼べる”もので“稼ぎ頭”でもあった。

 新規制の遊技台を導入するためには、多額の設備投資が必要となるわけで、パチンコ店としても旧規制の遊技台があるうちに、なるべく売上を多く獲得したいわけだが、その肝心な時期に新型コロナウイルスによる休業要請が行われるという“最悪の事態”となってしまった。

 全国には9000店のパチンコ店があるが、3年程度で2000店程度が廃業に追い込まれるとの予測もある。「生き残れるのは大型パチンコ店チェーン。個人経営のパチンコ店は姿を消すことになるだろう」(埼玉県のパチンコチェーン店店長)と予想する。

 都内のパチンコ店経営者は、「休業要請に応じなければ、パチンコ店のイメージが悪化し、社会的な批判を受ける。半面、休業すれば業績は一段と悪化する。まさに、“前門の虎後門の狼”の状態だ」と頭を抱える。

(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)