かつて、NHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)は「若手女優の登竜門」と言われていた。しかし、ここ数年は、すでに実力と知名度を兼ね備えている女優(俳優)が主人公に起用されていて、2018年度後期作品『まんぷく』から6作連続で、オーディションではなくキャスティングにより決定している。
それに伴い、2013年度前期作品『あまちゃん』で能年玲奈が大ブレイクしたようなスター発掘要素はなくなりつつあるように思える。その代わり、脇役が注目される機会が増え、そこで視聴者に鮮烈な印象を残した女優(俳優)がブレイクするという流れが生まれている。2021年度前期作品『おかえりモネ』のヒロインを務める清原果耶も、2019年度前期作品『なつぞら』でヒロインの妹役を演じて注目を集めていた。
現在、好評放送中の『エール』でも、SNSで話題に上るのは脇役たちであることが多い。早稲田大学応援部団長の田中隆(三浦貴大)、新聞社の社長令嬢である堂林仁美(春花)など、まだ世間一般に浸透していないニューフェイスの話題で盛り上がっている印象がある。
そこで今回は、朝ドラに脇役で出演した後にブレイクした女優・俳優たちを紹介したい。
十代田八郎役/松下洸平(スカーレット)まずは、前作の『スカーレット』でヒロインの夫・十代田八郎を務めた松下洸平だ。八郎の誠実でまっすぐな好青年っぷりに魅了される女性が続出して、ツイッターでは「#八郎沼」というハッシュタグが生まれた。『スカーレット』放送後は、一時中断していたシンガーソングライターの活動も再開。今後のバラエティ豊かな活躍が期待されている。
五代友厚役/ディーン・フジオカ(あさが来た)2015年度後期作品『あさが来た』でディーン・フジオカが演じた五代友厚も、多くの女性を虜にした名脇役だ。端正なルックスとバツグンのスタイル、紳士的な人柄で「五代様」と呼ばれ、ドラマ内で五代が亡くなると「五代ロス」が続出した。
2014年度前期作品『花子とアン』で、ヒロインの妹の安東もも役を務めた土屋太鳳。北海道へ嫁いだ後にすぐに夫が亡くなり、冷遇された末に東京に逃げてくるという不遇な役柄を演じて一躍有名に。また、『花子とアン』放送中に2015年度前期作品『まれ』のヒロインに選ばれたことも大きな話題となった。
若き日の天野春子役/有村架純(あまちゃん)近年で類まれな大人気作となった『あまちゃん』では、まだヒロインのオーディションが行われていた。そのため、ヒロインの天野アキ役をつかんだ能年玲奈はシンデレラガールとなり、日本中の注目の的となった。
そんな能年玲奈に負けじと存在感を発揮して人々の記憶に残ったのが、ヒロインの母親・天野春子の若き日を演じた有村架純だ。聖子ちゃんカットが似合う“ザ・アイドル”といったかわいさで注目され、後に2017年度前期作品『ひよっこ』でヒロインの谷田部みね子役に選ばれた。
入間しおり役/松岡茉優(あまちゃん)松岡茉優も、『あまちゃん』に出演して大きく飛躍した女優の1人。ヒロインの天野アキが所属するアイドルグループ(GMT47)のリーダー・入間しおり役を演じた。個性的なメンバーをまとめる若干空回り気味な熱血漢アイドルとして視聴者の目を引き、『あまちゃん』放送終了後には大河ドラマ『真田丸』(NHK)にも出演した。
安岡信郎役/松坂桃李(梅ちゃん先生)2012年度前期作品『梅ちゃん先生』で、ヒロインの幼なじみで夫の安岡信郎役を演じた松坂桃李。ヒロインの下村梅子(堀北真希)は同じ医学生に恋をしており、誰もがこのままゴールインするのだと予想していた。
その後、松坂は2017年度後期作品『わろてんか』でもヒロインの夫役に選ばれている。
周防龍一役/綾野剛(カーネーション)2011年度後期作品『カーネーション』はギャラクシー賞大賞をはじめとする数々のドラマ賞を獲得するなど、「朝ドラ史上最高傑作」と言われた話題作だ。注目の的となったのはヒロインの小原糸子を演じた尾野真千子だが、その不倫相手となる周防龍一役の綾野剛にも、多くの女性から熱い視線が送られた。
それまでは、やや癖のある役どころを演じることが多かった綾野剛だが、健気でひたむきな好青年の周防役がフィットして、2013年の『空飛ぶ広報室』(TBS系)ではさわやかな好青年の主人公・空井大祐役を、2015年には『コウノドリ』(同)で心優しい医師・鴻鳥サクラ役などを演じている。
以上、朝ドラに脇役として出演してブレイクした女優・俳優たちを紹介した。きっと、「言われてみれば、朝ドラに出ていたな」と思う人ばかりだっただろう。
果たして、今作からは誰がブレイクするのだろうか? ストーリーや登場人物だけでなく、それを演じている女優・俳優にも注目しながら、今後の『エール』を楽しもう。
(文=安倍川モチ子/フリーライター)