日本航空(JAL)がコロナ後を見据えて先手を打った。11月6日、公募増資などで最大約1680億円を調達すると発表した。
11月18日、公募増資の発行価格が1916円に決まり、調達額が最大1826億円になりそうだと発表した。6日の終値に比べ18日の株価が7%値上がり、調達金額が当初想定より147億円増えた。株高の恩恵である。
11月6日、オンラインで記者会見した木藤祐一郎財務部長は「財務的な余力があるうちに資金を調達して、ポストコロナを牽引する航空会社になりたい」と公募増資の狙いを語った。公募増資は国内外で実施する。国内が3分の2、海外が3分の1となる。最大で1億株を新たに発行、現在の発行済み株式数(3億3714万株)の3割に相当する。
調達した資金のうち800億円をエアバスA350型機の購入に充てる。既存の主力機のボーイング777型機と入れ替える。二酸化炭素(CO2)の排出削減や燃費向上により収益を高める。
コロナの収束後の観光需要を取り込むため、格安航空会社(LCC)事業の強化に150億円を充当する。50億円は完全子会社のジップエア・トーキョー(千葉県成田市)が使う航空機の改修費用に充てる。
100億円はJALが50%出資するジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)と、少額を出資している春秋航空日本(千葉県成田市)への投融資に使う。木藤氏は両社への出資比率を上げるかどうかについては明言を避けたが、「われわれのLCC戦略の一翼を担っていただきたいとの意味で(2社への)関与を深めていく」と述べた。
北米路線など国際線の中長距離路線に注力するジップエア、国内線のジェットスター、中国路線に強みを持つ春秋航空日本と組み、成田空港を拠点にLCCネットワークを構築していく。ジェットスターの連結子会社化を視野に入れており、現在、ほぼゼロに近い連結売上高に占めるLCC事業の割合を引き上げる。
700億円強は社債の返還や借入金の返済、航空機リースの返済用だ。
JALは10月30日、20年4~9月期の連結決算(国際会計基準)の発表にあわせ、未定としていた21年3月期通期の連結最終損益が2400億円~2700億円の赤字(前期は534億円の黒字)になりそうだと発表した。JALは前期まで日本会計基準を適用しており、単純比較はできないが、最終赤字は12年の再上場以来、初めてとなる。
売上高に当たる売上収益は5300億円~6000億円(前期比62~57%減)を見込む。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に国内線、国際線とも旅客収入の大幅な落ち込みが続く。そこで、一定の幅を持たせて、一部の需要回復を決算予想に織り込んだ。国内線の需要は政府の「Go Toトラベル」などを追い風に最悪期を脱しつつあるとみている。
20年4~9月期(21年3月期第2四半期)の売上収益は前年同期比74.0%減の1947億円、最終損益は1612億円の赤字(前年同期は541億円の黒字)だった。それでも同業他社と比べて財務は健全だ。4~9月期の自己資本比率は43.6%。
全日本空輸を傘下にもつANAホールディングス(HD)の21年3月期の最終損益(日本会計基準)は5100億円の赤字の見込み。JALの最終赤字の約2倍だ。4~9月期の最終赤字は1884億円。自己資本比率は32.3%。JALの自己資本比率は欧米の航空会社やANAよりも高い。
というのもJALは2010年に会社更生法の適用を申請し、3500億円の公的資金の注入など国の支援を受けて再生した。繰越欠損金の控除を受け、12年の再上場後から19年3月期まで税負担が少なかったこともあって、20年3月末までの7年間で自己資本比率は12ポイント上昇した。
政府は公平な競争環境を保つべく、全日本空輸(ANA)に羽田空港の発着枠を多く割り当てた。国土交通省はJALの投資と路線の開設を抑制した。その結果、コロナ禍で需要が激減したにもかかわらず、世界の航空会社のなかでJALは飛び抜けて高い財務の健全性を保つことができた。
世界の航空業界は総崩れ世界の航空会社の経営状況は厳しさを増している。
倒産する航空会社も出た。タイ国際航空は会社更生手続きの開始を決定した。国内ではエアアジア・ジャパン(愛知県常滑市)が11月17日、東京地裁に破産手続きの開始を申し立てた。負債総額は約217億円。同社はアジア最大のLCCエアアジアグループの日本法人で楽天などが出資して2014年に設立。新型コロナに伴う需要減で今年4月に全便運休。12月5日付で事業を停止すると発表していた。
海外大手と比べて財務体質が良好なJALは、コロナ後をにらみ勝負に出た。勝算のほどは、いかに。
(文=編集部)