おいしいはずの「新生姜」をめぐって、2つの食品メーカー間であまり“おいしくない”トラブルが発生している。何が起こっているのか。
ことの発端は、「いーわしーたのーしんしょうが♪」で知られるロングセラー商品「岩下の新生姜」で知られる中堅食品メーカー・岩下食品(栃木県栃木市、従業員数:225名【2020年2月1日現在】)の社長氏によるツイート。1月12日、同社社長の岩下和了(いわした・かずのり)氏が、自社の総務部からメールが届いたとして、そのスクリーンショットを公開。その内容といえば、同じく中堅食品メーカーである山本食品工業に電話したという消費者が、対応した同社社員から恫喝的な態度をとられた……というものだった。
氏は「山本食品工業、なんという対応だろう。お客様のお申し出に対してブチ切れるとは、あまりに酷すぎる」と、この対応について批判。名の知られた企業の社長が、ライバル社を名指しで批判するという事態にネット上はざわつき、この投稿には、7000件弱のリツイートや、1万5000件以上のいいねがつくなど、注目を集めた。
今、岩下の総務部から、私宛てに届いたメールを読んで愕然。
山本食品工業、なんという対応だろう。お客様のお申し出に対してブチ切れるとは、あまりに酷すぎる。そのお客様に申し訳なくて、本当に胸が痛い。 pic.twitter.com/SWYWrQQQ3a
岩下食品は、1899(明治32)年に乾物や野菜の小売業を営む「八百源」として栃木県で創業され、戦時中の1942(昭和17)年に漬物製造業に着手。その後、岩下商店、岩下食品工業と名称を変え、1986(昭和61)年に現在の岩下食品に。
一方、2004年に同社社長に就任した岩下和了氏から名指しで批判された山本食品工業(埼玉県行田市)は、1921(大正10)年に岩下食品と同じく青果店として創業されたのち、1952(昭和27)年に山本食品工業を設立。その後、1987(昭和62)年に「あさづけ風新生姜」という商品を発売している。
つまり、偶然か否か、同じ新生姜の商品を同じ年に販売開始した両社なわけだが、実は近年、まさにその新生姜のパッケージデザインをめぐり、確執が続いていたことが業界内では知られていた。
2019年11月、岩下食品は山本食品工業に対して、商品パッケージが「岩下の新生姜」のそれに「複数の点で同一である」とし、商品名やデザインなどの使用停止を求める警告書を送付。以降同社は、2020年11月までの間に、計6回にわたって同様の警告書を出したという
岩下食品の岩下社長が今回、ツイッター上でいくぶん“過激な投稿”を行ったのも、こうした確執が背景にあるものなのか。この投稿の3日後に当たる1月15日、今回の岩下社長の投稿の意図について岩下食品に直接問い合わせてみると、なんと岩下社長本人が直接回答するという。以下、岩下社長への電話インタビューを中心に本稿を展開していこう。
1月10日に放送された『噂の! 東京マガジン』で岩下食品が取り上げられたことがトラブルのきっかけ「まず、私の今回の投稿のそもそもの発端となったのは、1月10日に放送された『噂の! 東京マガジン』(TBS系)で岩下食品が取り上げられたということなんです。このなかで、弊社と山本食品工業さんの新生姜の商品パッケージが似ているという問題を取り上げていただいたのですが、番組中、山本食品工業さんが書面で反論するシーンがあったんですよ。
その内容というのが、(パッケージは似ておらず、消費者は)商品を間違えるはずがない、ということと、岩下食品よりも売り上げ高の大きい山本食品工業が、岩下の商品の真似をするはずがない、というものでした。確かに、グループ合算では岩下食品のほうが売り上げ規模は大きいのですが、先方のおっしゃる通り、漬物の領域では山本食品工業さんのほうが規模の大きい会社になっていまして。
とはいえ私も番組中では、売り上げ規模と真似する・しないは関係ないだろうと反論しましたが、これを観たお客様が、山下食品工業さんに電話をかけてくれた……というのが、私の今回のツイートに繋がっていくのです」
ちなみに岩下食品の売り上げ高は公式サイトには未掲載であったが、就活サイト「マイナビ」に記載された会社情報によると、2019年1月期の単体売り上げ高は約77億円となっている。一方の山本食品工業は公式サイトの会社沿革欄に、2019年に売り上げ高が90億円に達したとの記載があるので、確かに山本食品工業のほうが、売り上げ高に関しては大きいといえるようだ。そしてこちらも岩下社長が述べた通り、岩下食品のグループ連結売り上げ高は約140億円となっており、確かに山本食品工業を上回っているようである。
とはいえ、岩下社長の主張する通り、企業規模と模倣の問題は、本質的には無関係であろう。岩下社長は続ける。
お客さまの話のディテールの細かさや迫真性などから、事実ではないかと判断した「このお客様は、以前より弊社の商品の類似品を誤って購入されたという経験もあったそうでして。そのため、番組を観て『商品を間違えるかどうかは消費者が決める』『会社の売り上げの大小はまったく関係がない』と、私どもが以前より主張しているのと同じことを、山本食品工業さんに伝えてくれたらしい。その際に、電話で対応してくれた山本食品の担当者の方の名前を聞いたところ、『お前に名乗る筋合いはない。ふざけるんじゃねえ』と、かなり威圧的な対応をされたというんですよ」
冒頭に掲載した岩下社長の投稿によれば、山本食品側に電話をかけたこの人物は、その後ことの顛末を岩下食品側に電話で報告。「こんな会社はのさばらせてはいけない、ぜひ、岩下食品には毅然とした戦いを続けてほしい」と応援のメッセージを伝えたのだという。
しかし、以前からの確執といった背景はあるにせよ、名の知れた食品メーカーの担当者が、消費者の問い合わせ電話に対してそのような威圧的な対応をするだろうか? 電話をかけてきたその人物が、岩下食品に対して嘘の報告をしたという可能性もあるのではなかろうか……?
しかし岩下社長は、その可能性は低いと判断したのだという。
「まず、そのお客様が、我々に対してわざわざそうした虚偽の報告をするメリットなどないのではないかというのが一点。
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について|岩下食品 https://t.co/0Ghl3ohQyC pic.twitter.com/S9ajJmOwYI
— 岩下 和了 (@shinshoga) November 21, 2019食品メーカーとしては、最終的には消費者の方がお客様なわけですそれでは、そもそもの発端である「パッケージのデザインの類似」という問題について、岩下社長はどのように考えているのか尋ねると、氏の語気は強くなり、舌鋒は鋭さを増した。
「もちろん、食品メーカーとしては、直接の顧客は卸売業者さんやスーパーなどの小売店さんであるわけです。しかし最終的には、消費者の方がお客様なわけですよ。ところが山本食品工業さんには、そうした意識が少し希薄なのではないかと思わされることが、以前からあったんです。
例えば公式ウェブサイトの更新頻度も少なく、商品紹介の部分は2013年から更新されていない。その上、弊社の商品と先方の商品とを消費者が混同するという事例があっても、何も手を打つ様子がない。これでは、消費者に自社商品を覚えてもらおうという気がないのかなと思えてきますよね。その上で今回、消費者に対して恫喝的な態度をとったというわけですから……。今回の私の一連のツイートでも述べましたが、そんな会社と弊社とを同列に並べてほしくないというのが正直なところです」
そう語る岩下社長はしかし、今回の投稿を行った理由は怒りや義憤ではなく、あくまでも「注意喚起」であると主張する。
「『噂の! 東京マガジン』でもそうだったように、山本食品工業さんと弊社とが対立しているという見方をされることが多いのですが、こちらとしては、シンプルに『我々が模倣されている』というだけのことなので。こういう模倣があるよ、というのを消費者に周知するために行ったということですね。
2004年に岩下食品の社長に就任した岩下氏は、『噂の! 東京マガジン』や警告書の送付のほかにも、2020年11月には山本商品工業の社長と駐車場で“直接対決”したことをツイッターに投稿。一連の模倣問題について「デイリー新潮」から取材を受けるなど、近年岩下社長は、この問題を対外的に積極的にアピールしている。
「私はよくネット上でお客様の声をリサーチしておりまして。そうしたネット上の声を見ていくと、弊社のお客様が、弊社の商品と山本食品工業さんの商品を混同し、迷惑をこうむっているという意見も多かった。それで、『ああ、うちだけの問題じゃなかったんだ、お客さまをも苦しめてるんだ』と思ったんです。それで、こうした“注意喚起”を行うのは岩下食品のつとめであると考えるようになったわけです。
もちろんそれ自体は消費者の方にとっても面白い話ではないでしょうし、早期に解決したいと思っています。しかし、相手のあることですから……。だから解決するまでは今後もこうした活動を続け、さらに間違いにくいパッケージをこちらで作ることも検討していくつもりです」
その言の通り、岩下氏は今回の投稿をした日の翌1月13日に、「岩下の新生姜」の3月発売分から、そのパッケージの「岩下の」の部分のフォントを大きくすることをツイッターで発表。こちらも界隈で大きな注目を集めている。
今回の件について、山本食品工業サイドの考えを聞くべく問い合わせをしたが、期限までに回答はなく、同社の意見を聞くことは叶わなかった。
(文=編集部)