価格の乱高下がしばしば報じられている、仮想通貨のビットコイン。
直近の大きな下落としては、テスラCEOのイーロン・マスク氏による“イーロン砲”がきっかけとなったものだろう。
かように、相変わらず“投機的商品”とのイメージも根強い仮想通貨だが、ビットコインをはじめとするこうした暗号資産についてのニュースがこの5月、思わぬところから飛び出してきた。2人の有名セクシー女優(といってもひとりは現役、ひとりは元なのだが)が、暗号資産に関する「投資事案」に関与していることが明らかとなり、日本の一部投資家筋の間で話題となったのだ。
何があったのか?
【後編「元セクシー女優・上原亜衣の“投機的アフィリエイト”に賛否両論…アダルト業界と暗号資産」】はこちら
波多野結衣は中国語圏で圧倒的な人気を誇り、以前より仮想通貨のPR仕事をしていたこの【前編】で取り上げるのは、現役セクシー女優の波多野結衣。
公称1988年生まれで現在33歳とされる彼女は、2008年のデビュー以降、活躍を続ける人気女優のひとり。かつてはセクシー女優で構成されるアイドルグループ「me-me*」のメンバーとして活動したほか、アニソン・ボカロユニット「T♡Project」にも所属するなど、その活動は多岐にわたる。今回のニュースを理解するに当たり、そんな彼女について知っておくべきポイントが、大きく2つある。
ひとつは、彼女が台湾をはじめ中国語圏で圧倒的な人気を誇ること。もうひとつは、彼女が以前より仮想通貨、ブロックチェーン技術関係のPRに関する仕事をしていたことだ。
「蒼井そらをはじめ、日本のセクシー女優が中国語圏で人気なのは知られていますが、この波多野結衣もそのひとり。EXILEのAKIRAと2019年に結婚した台湾の人気女優リン・チーリンに似ていることから“和製リン・チーリン”などの異名を持ち、台湾では電子カードのイメージガールを務めたり清涼飲料水のCMに出演したりするなど、一般層への人気も高い。
そんな彼女は2018年頃、「Animation Vision Cash」(AVH)なる仮想通貨のイメージガールを務めており、「仮想通貨/ブロックチェーンの総合メディア」を標榜するウェブメディア「Crypto Times」のインタビューも受けている。AVHは、「アダルト動画の流通に特化したブロックチェーン」なのだという。
つまり波多野結衣は、以前より中国語圏で人気があり、中国語圏で実際に仕事をしており、そして仮想通貨、ブロックチェーンに関する仕事もしていた……ということになるのだ。
開始7分で全3000枚が完売、総販売価格は2377BNB、つまり、約1億6600万円そんな波多野結衣は5月5日、「自身の“NFT”を正式販売する」ことをTwitterで発表する。販売開始は、日本時間で5月6日の22時からだとアナウンスされた。
NFTとは「Non-Fungible Token」(非代替性トークン)の略で、波多野結衣はこの技術を使い、デジタル資産化した自身の画像を、3000枚限定のトレーディングカード形式で、NFTの販売プラットフォームである「DODO NFT」で販売することを予告したことになる。
この3000枚の画像は、「Common」の1200枚、「Uncommon」の800枚、「Unique」の700枚、「Rare」の200枚、「Epic」の90枚、「Legendary」の10枚と、6種類の希少度で分類されており、購入すればそれらがランダムに出現する仕組み。もっともレア度の高い「Legendary」の10枚は波多野本人のサイン入りとなっていることが告知されていた。
取引にはバイナンスコイン(BNB)と呼ばれる仮想通貨が使用され、最初の800枚が0.3BNB(約2万1000円/5月6日時点の相場による。以下同)で販売、次の750枚は0.6BNB(約4万2000円)……などと段階的に価格が上昇する販売方法が採用され、最後の2枚にはなんと50BNB(約350万円)という価格がつけられていた。売れ残りはバーン(焼却処分)されることも告知されていたのだが……フタを開けてみれば、なんと開始7分で、全3000枚が完売。総販売価格は2377BNB、つまり、約1億6600万円となったのである。
これには波多野結衣本人も驚きだったようで、完売の10分後となる22時17分、「まって、売り切れたの!?!!!」とTwitterに投稿、ネット界隈でも驚きをもって迎えらることとなる。おそらくは中国語圏のリッチなファンが購入したのだと想像はつくが、それにしても驚愕の結果ではある。
「セクシー女優、今後はもはやNFTで作品販売したほうが儲かるのでは?」
「今までFXや情報商材で稼いでいた人たちが、このNFTに押しよせるのでは?」
「ウラで誰か糸を引いている“黒幕”でもいるのかね」
……等々、一般的な商品販売システムを経由せずにこうした場で商品販売したほうが売上規模は格段に大きくなるのではとの声から、グレーな投資商品を得意とする筋がこうした市場に流入するのではないかといった声、そして、裏で今回の“ビッグビジネス”をプランニングした玄人筋がいるのではないかといった声までが、SNSで拡散したのであった。
NFTはデジタルコンテンツの所有権を明確化し、実物の芸術作品や株式のように売買できるさて、とはいえこの手の金融・ITテックに疎い者にはとんと理解できないだろうと思われる今回のニュース。結局のところ何が起こったのか? 法的に何かグレーなポイントでもあるのか?……等々、ITジャーナリストの三上洋氏に解説を願うこととした。
「黒幕云々といった説については、確認しようがないので私にはなんともわかりませんが、結論からいえば、波多野結衣さんが今回このNFTで巨額の売り上げを出してみせたこと自体については、法的にはなんの問題もないでしょう。
そもそもNFTとは、画像や動画の所有権を明確にし、その所有権を株のような形で売買できる新しいしくみです。今まで、デジタルの画像や動画、VR作品などは複製が容易で、ゆえに所有権も明確ではありませんでした。それを、ブロックチェーンと呼ばれる暗号資産にも使われる技術を用いて、『誰の所有物であるか』を明確化できるようにしたもの。つまり、そのデジタルコンテンツは現在「誰が所有」していて、しかも『オリジナルは誰のものか』というデータを、その画像自体に付加できるようになったんですね。
絵画などのアート作品は、物理的にひとつしか存在しないので、それを所有している人が誰なのかは基本的には明らかです。アート界では、それを前提にオークションなどのシステムが成立しているわけです。
それと同じようにこのNFTでは、改ざんのできないデータを用いて、デジタルコンテンツの所有権を明確にすることが可能となったため、その所有権を、実物の芸術作品や株式のように売買できるということですね。なので、今回波多野さんが販売したトレーディングカードのようなものも、ネット上で“それを所有していること”を証明でき、つまりその“価値”を保持して維持することができるというわけなんです」
全米バスケットボール協会、SKE48、そしてデジタルアーティストもNFTで制作物を販売三上氏によればこのNFTの技術は、2017年に発表されたゲーム『CryptoKitties』で使用されたことに端を発するのだという。
「このゲームではブロックチェーン、イーサリアムの技術が利用されており、猫を模した“仮想猫”がNFTとして、暗号通貨イーサで売買されました。
それ以降、2020年10月に全米バスケットボール協会(NBA)とコラボし、NFTの技術を用いた『NBA Top Shot』というゲームが『CryptoKitties』の開発企業からリリースされ、徐々に知名度が上がってきました。日本の芸能界でも、同じく2020年10月にアイドルグループSKE48が、ライブの撮り下ろし画像を、今回の波多野さんと同じくNFTのトレーディングカード形式の5枚パック1000円で販売して注目を集めましたね。
日本のアート界隈でも、今年3月、VRアーティストとして知られるせきぐちあいみ氏が、自らのVRアート作品をNFTとして販売、1300万円で即日落札されるなど、国内でもこの技術を利用したデジタル資産の売買が盛んになりつつあります。また近年は、電子書籍でNFTを導入し、売買を可能にしようといった流れも起きていますね」
今後は、芸能人を含めた多くのクリエイターなどがNFT市場に参入してくることも考えられるこうした説明をされると、知識のない我々は「要はNFTは、違法コピーを防止するためのIT技術なのだろう」と理解してしまいそうになるが、三上氏はその理解を否定する。
「確かにわかりにくいところではありますが、NFTはコピーガード的な技術ではなく、あくまでも“所有権をはっきりさせる”ための技術なんです。
今回の波多野結衣さんやSKE48が出したNFTのトレーディングカード画像も、解像度が低い普通のデジタル画像であれば、販売サイトで閲覧できるんですよ。リアルにものを所有するのとはちょっと違っていて、たとえば、バブル期におけるゴルフの会員権に近いといえばわかりやすいでしょうか(笑)。
そのゴルフ場でゴルフをするには、一緒に行く誰かが会員権を持っていれば可能ですし、夜間にゴルフ場に忍び込んでこっそりとゴルフを楽しむことだって不可能ではないでしょう。しかし、“その会員権を持っていること”自体がステータスであるような状況では、そのこと自体に価値が生まれるわけですね」
今回、波多野結衣が巨額の売り上げを記録したことについては、まさに現在NFTが注目を集めているなかでの象徴的な出来事ではなかったか、と三上氏は語る。
「今回の波多野さんの件に関しては、彼女が中国などで絶大な人気を誇っていることから、ファンである現地の富裕層が多く購入したことも考えられますが、NFTが今後値上がりするであろうことを見越して、転売目的で購入しているケースも多いでしょう。今後は、芸能人を含めた多くのクリエイターなどがNFT市場に参入してくることも考えられます。
とはいえ、NFTの高騰は、半年ほど前からの暗号資産全般の急騰の影響も大いにある。いわば現在のNFTはバブルの状況にあるともいえますから、今後価値が暴落してしまう可能性も否定はできません。現在NFTに興味を持っている方に関していえば、ファングッズの収集や“推しメン”の応援目的での購入なら問題ないでしょうが、転売目的で手を出すのだけは止めておいたほうがいいと思います」
続く【後編】では、暗号資産にからむ投資案件で話題になったもうひとりの元セクシー女優、上原亜衣の一件について解説を加えていこう。
(文=編集部)