首都圏の鉄道で遅延が多い路線はどこか。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは「JR東日本の路線で、遅延証明書がもっとも発行されたのは中央・総武線各駅停車だった。
だが、詳細を調べると『運転見合わせ』の件数が非常に少なかった」という――。
■「JR中央線は遅延が多い」は本当か
筆者のもとにはマスメディア関係者を中心に鉄道に関するさまざまな問い合わせが舞い込む。なかでも多いのは、ある特定の路線を走る列車がよく遅れるのはなぜかというものだ。
そして「ある特定の路線」はほぼ一つに集約される。首都圏のJR東日本中央線のうち、快速電車が走る中央線快速線だ。
中央線快速線は東京駅と高尾駅との間の53.1kmを結ぶ路線で、東京都をほぼ東西に貫く。
大多数はこの区間内を走る通勤電車で、快速のほか通勤快速、特別快速略して特快が運転されている。立川駅で分岐する青梅線に直通して青梅駅方面を発着する列車も設定されているし、同じ中央線でも高尾駅からさらに西方の大月駅や富士山麓電気鉄道河口湖線の河口湖駅を発着するものも多い。
以上を合わせた列車の本数をJR東日本は公表していない。筆者が数えるべきだが間違いも多いので、『2021(令和3)年版都市・地域交通年報』(運輸総合研究所、2024年7月)に頼ると、中野駅から新宿駅までの都心方向限定で2019(令和元)年度は平日に特急列車を除いて快速、通勤快速、特快が1日286本運転されていたという。しかも、ピーク時の朝8時台には2分おきに30本の列車が発着していた。
当時の時刻表を見ると新宿駅では朝6時05分から深夜0時03分までの17時間58分にわたって中央線快速線に列車が運転されていたから、平均して3分46秒おきに電車が発着していたこととなる。

なお、ずいぶん”朝寝坊”に見えるが、実は2020(令和2)年3月のダイヤ改正まで、早朝・深夜には御茶ノ水駅と中野駅との間で快速などが走る線路に列車は通っていなかった。もちろん列車自体はあり、いま挙げた区間では中央線・総武線各駅停車の列車が走る線路を通っており、普段であれば快速が通過する駅にも停車していたのだ。
■首都圏でもっとも本数が多い路線
気になる利用者数も挙げておこう。2019年度の平日に中野駅から新宿駅までの間で乗車した人の数は平均36万2110人であったそうだ。
中央線快速線は列車の本数、通過する利用者数とも巨大ながら、首都圏の主要な通勤路線には中央線快速線を上回る数値を記録する区間も多い。JR東日本では山手線内回りの新大久保駅から新宿駅までが列車の本数、利用者数とも中央線快速線を上回っていて302本、利用者数は38万0780人であった。
ちなみに首都圏の私鉄や地下鉄の場合、列車の本数は小田急電鉄小田原線の世田谷代田から下北沢駅までの473本が最多で中央線快速線を上回る。一方で利用者数は東急電鉄田園都市線の池尻大橋駅から渋谷駅までの35万9511人が最多であったから中央線快速線より少ない。
小田原線の電車の本数は急行用の複線と各駅停車用の複線とで記録された数値という具合に実質的には2つの路線での合算値である。中央線快速線のように単純に一つの複線で記録されたなかで最も多くの列車の本数が走っている私鉄、地下鉄は京王電鉄京王線で、下高井戸駅から明大前駅までの398本が最も多い。
■JR東日本の見解
実は中央線快速線を走る列車には山手線などには見られない特徴をもつ。通勤電車以外の種類の列車が多数走っているのだ。

一つは特急列車である。東京駅方面の都心方面に向かう平日の特急列車の本数は2019年当時で松本・南小谷(みなみおたり)―新宿・東京・千葉間の「あずさ」が18本、甲府―新宿・東京間の「かいじ」が12本(うち1本は河口湖―新宿間の「富士回遊」と一緒に連結して運転)、八王子―東京間の「はちおうじ」が2本(2025年3月に廃止)、青梅―東京間の「おうめ」が1本(同)、高尾~成田空港間の「成田エクスプレス」が2本(2024年3月に廃止)、すべて合わせて35本であった。
もう一つは西国分寺駅と高尾駅との間を走る貨物列車の存在だ。中央線快速線では2019年当時西国分寺駅方面に向かう貨物列車が平日に10本運転されていた。いまも同じ本数の貨物列車が走っている。
列車の本数が元来多いうえ、多彩な列車、特に長距離を走って途中で遅れる要素が大きくなる特急列車や貨物列車が多数運転されていることで中央線快速線は他の路線と比べて遅れやすいのかもしれない。
JR東日本にこの点を問い合わせると「首都圏の各路線のなかでも利用者は多く、列車の本数も多いので、輸送障害が発生した際に、遅延が波及しやすい傾向がある」(担当者)という。ただし、JR東日本によると中央線快速線が実際にどの程度遅れているのかについて、中央線快速線で発生している遅延の件数、そして同社の他の路線での同様の件数ともども公表していないそうだ。
■「20日中19.0日遅延」の真相
国土交通省は首都圏の通勤路線で生じている遅延の「見える化」を目指し、JR東日本や私鉄、地下鉄の45路線を選んで遅延証明書が発行された件数を取りまとめている。
少々データは古いのだが、最新の2018(平成30)年度の平日では、20日間につき45路線平均で11.7日遅延証明書が発行されたという。
中央線快速線はどうであったかというと、高尾駅と甲府駅との間を含めて19.0日であった。つまり遅延証明書が発行されなかった平日は1カ月に1日しかなかったことを意味する。

平日20日中19.0日という遅延証明書の発行頻度は同じJR東日本の中央・総武線各駅停車と並んでワースト1位だ。ちなみに、この路線は千葉駅と三鷹駅との間を結んでいて、御茶ノ水駅と三鷹駅との間では中央線快速線の線路の隣を通っている。
全45路線中では東京メトロ千代田線の19.2日が遅延証明書の発行頻度が最も高くなっている。
中央線快速線はよく遅れているのは国土交通省のデータから確かだが、中身を見ると混乱しているとまでは言いづらい。
というのも、遅れの内訳は「10分以下」が9.0日、「10分超~30分以下」が9.2日、「30分超」が0.9日であったからだ。少々の遅れに目をつぶれとは言わないが、10分以下の遅れ、特に数分程度の遅れであれば案内放送でもない限り、気づかない利用者も多いのではないだろうか。
となると、20日中19.0日遅れているとはいうものの、さすがに気になる10分超の遅れは20日中ちょうど半数の10.0日となる。
■なぜ「10分未満の遅延」が起きるのか
国土交通省によると10分未満の遅延の原因を2018年11月の平日21日間でとりまとめたところによると、件数不明ながら48.3パーセントが乗降時間の超過、6.0パーセントが無理な乗車などに伴うドアの再開閉と「乗車時の要因」が約54パーセントと過半数を占める。
残る約40パーセントは「突発的な要因」でなかでも乗客のトラブル、酔客対応、ホームドアの支障が最も多い(16.1パーセント)。中央線快速線での割合は不明だが、おおむね同様であろう。
ところで、国土交通省の遅延証明書のデータは有益ではあるのだが、遅れの詳細な内容はわからない。
乗車時の要因などで1本の列車だけ遅れるのも、事故などである路線のある区間を走る列車の運転見合わせが一斉に生じるのも、どちらも統計としては遅延として計上されるからだ。

■運転見合わせの要因
中央線快速線がよく遅れるのは、「一定の時間、全列車が運転を見合わせるケース」をもっとも想起するのではないだろうか。実際はどうなのか。
国が定めた鉄道事故等報告規則では、輸送障害が生じて列車の運転を休止した場合や旅客列車が30分以上遅れた場合、鉄道会社は国土交通省の地方運輸局長あてに鉄道事故等届出書を発生した翌月の20日までに提出する必要がある。この届出書をもとにした統計があればよいのだが公表されていない。
それでは新聞記事から探せばよいのではないかと考えた。しかし、紙面の制約があるので列車が運転見合わせとなってもすべてのケースで掲載になるとは限らない。そこで筆者が考えたのはテレビ番組放送データだ。
テレビのニュースでは速報として列車の運転見合わせを報じる度合いが高く、比較的漏れが少ないと考えられる。時間の制約で詳細な路線名や区間が抜け落ちる可能性もあるだろうが、その場合は可能な限り、新聞記事などと照らし合わせればよいであろう。こうして、2024(令和6)年4月1日から同年9月30日までの半年分を集計してみた(記事末尾にデータ添付)。
もちろん、集計はあくまでもテレビ番組で取り上げられたかどうかに頼っている。この場合の「運転見合わせ」は、”混乱を生むような遅延”が起きていることを指すと考えられる。
影響の大きな新幹線の動向が注目され、首都圏の路線と言えども時間の関係で報じられなかったとも考えられる。あくまでも参考にとどめておいてほしい。
■まさかの結論
基本的に運転見合わせの件数は運転が再開されるまでを1件として数えた。たとえば3日間列車が走らなかったとしても1件となる。
ただし、大雨や大雪などが予想されて鉄道会社が事前に列車の運休を告知する計画運休で実際に列車の運転見合わせが発生したケースでは、件数をその日1日で区切って1件とした。大雨が降り続いて計画運休が3日続いたときには3件と数えている。
もう一つ、同じ日に運転見合わせが2回以上起きたとしても1件とした。というのも、その日最初の運転見合わせと次の運転見合わせとの関連がわからないケースとが多く、2度目の運転見合わせの原因を検証すると最初の運転見合わせの復旧が不完全であった可能性が高いからだ。
なかには同じ日に明らかに別の原因と見なされる運転見合わせも見受けられたが、公平を期すために1件としている。
結論から言うと、2024年4月から同年9月までの半年間で、全国の鉄道で168件の運転見合わせが発生したなか、中央線快速線の運転見合わせは1件しか起きていない。
6月26日午前8時40分ごろに飯田橋駅付近で線路のダクト内にあるケーブルが燃え、東京―高尾間で約1時間運転を見合わせたという内容だ。なお、この日は午前11時になってさらに別のケーブルが燃えて再度東京―高尾間で運転見合わせが発生して14時過ぎに運転を再開している。
先にお断りしたように、最初のケーブル火災に関連しているのかどうかがよくわからないので2件とは計上していない。
■最も運転見合わせが多かった路線
気になるのはどの路線で運転見合わせが最も多かったかであろう。それは、JR東海の東海道新幹線で13件であった。
JR東海の名誉のために言っておきたいのだが、東海道新幹線での運転見合わせのうち、同社に責任があるのは7月6日の停電と7月22日の保守用車の衝突との2件で、残る11件は大雨または大地震と天災が原因だ。
大雨によるものは6月18日・28日、8月7日・16日・21日・27日・30日・31日・9月1日の9件、大地震では8月8日・9日の2件であった。2024年8月は7日に台風5号、8日に宮崎県の大地震、9日に神奈川県の地震、16日に台風7号、21日に東京都心のゲリラ豪雨、28日から31日までと9月1日に台風10号と徹底的に自然に傷め付けられた。
件数が多くなったのは台風の接近に伴って計画運休を実施したからでもあり、土砂崩れなどが発生して何日も運転見合わせにはなっていない。
次点は5件で2路線あった。JR東日本の東北新幹線、JR九州の九州新幹線だ。原因は東北新幹線の場合、4月2日が作業車の故障、8月9日が大地震、8月16日が大雨、9月7日が人身事故、9月19日が走行中の列車で起きた連結器の外れである。九州新幹線は6月21日、7月14・15日、8月28日の4件が大雨、8月8日は大地震によるものだ。
■「遅延の多さ=運転見合わせ」とは言えない
首都圏の路線では、JR東日本の山手線と東京―熱海間の東海道線とが3件ずつで最も多かった。平日20日で遅延が最も多かった東京メトロ千代田線では運転見合わせは起きていない。
運転見合わせが生じた全168件のうち、94件は大雨によるものであった。割合は56パーセントと過半数を占める。大雨に伴って起きたと考えられる倒木によるものが3件、土砂崩壊や土砂流入が1件ずつ起きているので、広義の大雨は99件と考えてよい。
次点は地震の14件、続いては強風で9件であった。以上、自然災害によると考えられるものは合わせて122件で鉄道がいかに自然の脅威に翻弄されているかがよくわかる。
さて、停電など鉄道会社側に責任があると考えられるものは26件であった。最も多かったのは電気設備の故障の7件で、1件起きた架線の切断や3件起きた停電を含めると11件となり、列車の脱線事故の3件、変電所の火災が2件と続く。
残る10件分はすべて1回しか起きていない。列車の異常振動警報が鳴った、線路の近くで解体中の車両が燃えた、保守用車の故障、車両の故障、信号の点検、線路の火災、保守用車の衝突、保守作業の遅れ、レールが歪んだ、走行中の列車の連結器が外れた、であった。
■中央線快速線だけが遅れやすいわけではない
自然災害でもなければ鉄道会社の責任とも言えない偶発的な要因と考えられるものは20件起きている。内訳は人身事故が7件と最も多く、人身事故の6件、線路内への公衆立ち入りが2件と続く。残る5件分はすべて1回しか起きていない。
沿線で火災、線路に自動車が進入、列車の車内に包丁を持った男が座り込んでいる、不審物が列車の車内で発見された、列車の車内にヘビが侵入、の以上だ。
あくまで今回の検証の結果だが中央線快速の遅れは、「10分未満の遅延」が主だということが考えられる。先述したように、「10分未満の遅延」は乗降時間の超過、無理な乗車などに伴うドアの再開などで起きている。
もちろん、ある時期の中央線快速線では長時間にわたる運転見合わせが恒常化していて、たまたま2024年度上半期は少なかったのかもしれない。今後も集計を続ける必要がある。
日本の鉄道は大変正確に運行されているが、些細な理由で列車は遅れてしまうこともまた事実だ。中央線快速線だけが遅れやすいというよりも、どの路線も同じようなものだと言える。鉄道会社の取り組みで減らすことができるものはあるが、そうでないものも多い。
いましばらくはそうした鉄道の特性を理解したうえで利用するのが得策かもしれない。
最後に中央線快速線での列車の遅れや運転見合わせを防止するための取り組みについて、JR東日本から回答が寄せられたので紹介しよう。
「運行管理を司る指令員へのシミュレーター装置などを活用した教育、地上設備や車両設備の信頼性向上、輸送障害時の早期運転再開のルール整備、及びお客さまへの情報提供の改善の他、運行ダイヤの見直しや、遅延の原因の一つとなっている駆け込み乗車や荷物挟まりの防止、マナー向上等につきまして、アナウンス等による啓発を継続的に実施しております。
弊社といたしましても、毎日の列車運行が安定していて、お客さまに安心してご利用いただけることが最も重要なサービスであると認識し、日々列車の運行管理には細心の注意を払い、さらなる安全安定輸送並びにサービスの向上に努めます」

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梅原 淳(うめはら・じゅん)

鉄道ジャーナリスト

三井銀行(現三井住友銀行)に入行後、雑誌編集の道に転じ、「鉄道ファン」編集部などで活躍。2000年からフリーに。

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(鉄道ジャーナリスト 梅原 淳)
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