昨年12月4日、東京・飯田橋にある「梅酒ダイニング 明星」というレストランで「梅酒ヌーボープレス発表会」が行われた。梅酒ヌーボーとは聞き慣れないが、文字通り梅酒の新酒のこと。
梅酒は通常、梅の収穫時期の6月に仕込みを始める。醸造アルコールと砂糖が入ったホーロー製のタンクに梅の実を漬け込み1年間熟成させるのだ。ヌーボーの場合は11月下旬に実を取り出し、できたばかりの“新酒”として瓶詰めする。中野BCでは昨年、6月6日の「梅の日」に約20万粒の梅の実を漬け込み、11月27日に実を取り出した。
「2014年は梅の収穫開始時期の6月に好天が続き気温上昇も順調だったので、しっかりとした実に生育しました。このため酸味のあるエキス分を実から十分に抽出でき、すっきりとキレのあるできに仕上がりました」(同社関係者)
熟成前だからこそ味わうことができる梅本来のフレッシュさと、鮮やかな黄金色が特徴だ。発表会では、タンクから取り出した梅の実(梅酒梅)を活用した特製のタレで食べる福幸豚のしゃぶしゃぶ鍋とせいろ蒸しという期間限定メニューが提供され、参加者はフレッシュなヌーボーと琥珀色の長期熟成梅酒を比較しながら豚料理とのコラボを楽しんだ。
中野BCはこれまで、長期熟成の梅酒とヌーボーのセットを贈答品として一般向けに販売してきたが、昨年からは梅酒ヌーボー単体で飲食店向けに720ミリリットル(税込1404円)と1.8リットル(同2160円)を主力商品として販売し、忘年会や新年会の乾杯の酒としての定着を狙うという。一般向け商品は、梅酒ヌーボーとヴィンテージ梅酒瓶詰め合わせ(各200ミリリットル、セット価格2160円)で1月31日までの期間限定で全国の酒屋、同社HPなどで販売する。
梅酒ヌーボーで新たな食文化を提言し、顧客拡大を図ろうというわけだ。
●世界の和食ブームに乗り海外進出にも積極的
和食がユネスコの無形文化遺産に登録されてから1年。海外での和食に対する関心と評価は確実に高まっている。この数年、日本酒の輸出が増え認知度も上がってきている。国税庁の統計によると、酒類の輸出金額(13年)は251億円で10年前の2.3倍になった。なかでも日本酒は03年の39億円から2.7倍の105億円に増え、人気ぶりがうかがえる。梅酒を含むリキュールも13年の輸出額は25億4500万円で、規模では日本酒の4分の1程度だが、前年比24%増と好調だ。昨年、NHK連続テレビ小説『マッサン』の影響もありブームとなっているウイスキーも輸出額39億8000万円で前年比60%増と大きく伸びている。
当然、梅酒業界は海外市場でのさらなる需要拡大を狙っている。中野BCの中野幸治副社長は次のように語る。
「日本食に対する評価が高まる中、海外市場では日本酒の需要が上がっていますが、梅酒に関しても需要拡大の可能性があると考えています。フランス料理などでは最後にデザートワインのように甘いワインを楽しむ文化がありますし、南国では甘いリキュールを飲みます。弊社としても現在、フランス、アメリカ、アジア圏などを訪問し、市場視察、展示会参加、和歌山県とのプロモーション活動などに積極的に取り組んでいます。
同社はユニークな取り組みも行っている。昨年6月、香港のショッピングモールで酒蔵の管理者である梅酒杜氏による梅酒の漬け込みセミナーを実施したのだ。梅酒コンテストで日本一に輝いた「紅南高」を生み出した造り手山本佳昭氏(中野BC梅酒杜氏)を講師に、収穫したての南高梅と日本の焼酎、氷砂糖を使い伝統的な仕込み方法や、おいしく作るコツ、その科学的解説、梅酒を使ったカクテルのレシピなど梅酒の魅力を伝授した。参加した40代の女性は「梅酒を10年間漬けてきたがヘタを事前に取り除くことなど、初めて正しい方法を学びました」と述べ、満足した様子だったという。
香港はここ数年来、日本の農林水産物最大の輸出相手国である。リキュールの輸出先としても台湾に次いで2位となっている。中野BCは12年から輸出を強化し、香港で開催されるアジア最大級の食品見本市への出展、試飲会イベントなどを開催してきている。今後は香港を中心にアメリカ、シンガポール、オーストラリアなどへの輸出を強化し、市場拡大を図っていくという。
●酒類消費が落ち込む国内市場での活性化策はあるのか
話を国内に戻そう。酒類メーカーに共通した悩みは、少子高齢化の進行に伴う酒類消費量の落ち込みである。成人1人当たりの酒類消費量は1992年の年間101.8リットルをピークに減少傾向にあり、12年には82.2リットルへと2割も減少した(国税庁データ)。
そうした中で、例外的に大幅に伸びたのが梅酒である。健康志向の高まりを背景に04年からの梅酒ブームで、梅酒の出荷量は2000万リットルから11年には3900万リットルとほぼ倍増した。しかし、12年は3800万リットルとなっており、頭打ちの傾向にある。そこで海外市場の拡大が急務となっているのだが、国内市場の再活性化も同時に取り組まなければならない課題だ。それについて中野副社長はこう語る。
「梅=健康をキーワードにしていきたいです。その戦術として各種イベントや、東京でも開催している梅酒の漬け込みセミナーを考えています。『祖母が梅酒を漬けていた』といった声を聞く機会が多いのですが、それを『家で漬け込んだ梅酒がある』との声が増えるようにしていきたいです。梅酒市場は飽和状態といわれますが、さまざまなメーカーから新商品が発売され、和リキュールとしての広がりが出てきたのも事実です。その中で中野BCにしかできないことを実現させたいと考えています。その一つが“原点回帰”です。和歌山が本場であることも含めて、本物の梅酒を追求していきたいですね」
梅酒の本場・和歌山の酒類メーカーとして、「健康」と「本物」をキーワードに、梅酒のブランド価値をさらに高いところに持っていく。
(文=編集部)