山口組元最高顧問が5月、警視庁に逮捕された事件が憶測を呼んでいる。事件としては地味な上、あまりに「筋が悪すぎる」(関係者)のに被害者とされる人物が、アングラ勢力につながる「バブル紳士」であるため、「警察は被害者と取引し、別のなんらかの事件につながる重大情報を得たのではないか」と推測されているのだ。
逮捕されたのは山口組系二次団体「芳菱会」(静岡県浜松市、現・國領屋一家)元総長、滝沢孝容疑者。直接の逮捕容疑は4年前、不動産会社役員の男性に「その絵をよこせ」と時価1000万円相当のダリの銅版画を脅し取った――との恐喝容疑だ。滝沢容疑者は「ガセネタだ」と容疑を否認しているが、あながち嘘に聞こえないのは、被害者とされる「不動産会社役員」の正体が正体だからである。
2000年に経営破綻した在日韓国人信用組合の東京商銀から32億円、1998年に経営破綻した第二地方銀行・国民銀行から80億円を不正融資させ焦げ付かせていた、バブル政商の種子田益夫氏なのだ。
種子田氏といえば、演歌歌手の石川さゆりのパトロンだったことで有名だ。国民銀行の巨額焦げ付き事件では、石川に連帯保証させていたことが判明、石川に一部支払い判決が出たことで、種子田の名は一躍お茶の間にも広まった。関係者が語る。
「種子田氏は国会議員のスポンサーをしたり、東京商銀からの融資のうち30億円近くを仕手戦に投入していた。多くのバブル紳士と離合集散し、山口組の強硬武闘組織だった旧後藤組の後藤忠政組長やハンナングループの浅田満氏らアングラ勢力と太い関係がある。種子田氏の訴えを聞き入れてこんな筋悪の事件を無理やり立てたのだから、警視庁は種子田氏と何か取引したのではないか――との憶測が乱れ飛んでいるのです」
恐喝容疑で逮捕された滝沢容疑者は、かつて山口組本部の若頭補佐という事実上のナンバー3の要職にあった人物だが、すでに引退しており過去の人物。事件の筋書きはすべて種子田氏の主張に沿っていて、「過去の極道の細かい埃を無理やり立件しようとしている。たぶん起訴は難しい」(関係者)のが現実的な見方だ。
ではなぜ警視庁は、起訴が困難なこのような細かい事件を摘発したのか。関係筋が注目するのは今回の事件の捜査統括者だ。
「今回の事件は町田署が手掛けているが、同署の組織犯罪責任者はA警部。後藤元組長逮捕などで実績がある敏腕警部です。政財界摘発につながる裏情報を仕入れるために、種子田氏の頼みを聞いて滝沢容疑者を“排除”したのではないか」
あまりに不自然な山口組元最高幹部摘発。被害者である「かつての石川さゆりのパトロン」から重大情報が警察にもたらされた――との見方がもっぱらなのである。
(文=編集部)