「レジで誤差を出したら、給料からその分を天引きされた」

 コンビニエンスストアでアルバイトをしている人たちから、こうした困惑の声が上がっている。「レジの誤差」とは、レジの機械で記録されている額と、実際にレジの中にある金銭の合計額が一致しないことだ。



 最近では、客から預かった金銭を機械の取り込み口に入れるだけで、自動的に機械が正しい額のお釣りを機械の釣り銭口に出してくれるレジが設置されている店舗もあるが、それはまだ少数だ。多くのコンビニでは、いまだに店員の手作業によって客からのお金の預かりとお釣りの返金を行っている。

 コンビニなどでレジを手作業によって操作する場合において、店員がレジで誤差を出してしまうことはよくある。このような手作業で金銭の授受をするアルバイトを経験したことがある人なら誰でも、多少の誤差を出してしまったことがあるのではないだろうか。

 しかし、誤差が出るということは、裏を返せば店舗に損害が出ているわけだ。労働関係の法律問題に詳しい藤井哲也弁護士は、「もしレジで誤差を出してしまった場合には、店員に過失が認められれば、雇い主と労働者の間の労働契約において、いわゆる契約違反があることについての損害賠償として、誤差の金額を支払わなければなりません」と話す。

 ただ、形式的にはそうだが、実際に店がアルバイトに請求するためには、高いハードルがあるという。誤差を生じさせたのが、その店員であることについて特定ができて、その店員に過失があることまで店側が証明しなければならないという。

「レジは複数の店員が担当するため、誤差を生じさせたのが特定の店員であることを証明することは相当困難ではないかと思います。もし複数の人がレジを担当しており、誰が誤差を生じさせたか特定できない場合には、担当した人の連帯責任だとして担当した人全員に責任を取らせるようなことはできません。具体的に誰がいくらの誤差を生じさせたのかを、雇い主のほうでしっかりと特定しなければならないのです」(同)

 また、もし誤差を出した人を特定したとしても、必ずしもすぐに過失を証明できるわけではないようだ。

「レジが著しく混雑していて、ミスをしても仕方がないという環境であれば、誤差を生じさせた店員が特定されたとしても、その店員が責任を負うことはありません。
このような場合には、ミスが起きないような環境を店側が整備しているかどうかも問題となり、場合によっては店側に責任が認められるケースもあります」(同)

●天引きは明確に違法

 では、誤差の金額を支払わせるのではなく、給料から天引くことは許されるのであろうか。藤井弁護士は、そうした行為は明確に違法だと語る。

「労働基準法24条によると、原則として雇い主は賃金を必ず全額従業員に支払わなければならないと規定されています。この規定は強行法規です。つまり、この規定に反して当事者間で給与から天引きすることを定めたり、店員と個別に天引きすることを合意したとしても無効となります。あらかじめ契約書に、レジの誤差についての店員の損害賠償義務を明記していても、労働基準法16条によって無効です」(同)

 では、店員がこのように主張したのに、店側からしつこく誤差額を請求されたり、給料から天引きされたりした場合には、どうすればいいのだろうか。

「近くの労働基準監督署や労働局に相談することがよいと思います。もちろん弁護士に相談することもできますが、費用がかかります。市役所など、行政が行っている弁護士による法律相談があれば、それを利用されるのもひとつの方法かと思います。地方公共団体によって実施しているところとしていないところがありますので、お住まいの市役所に問い合わせていただくとよいかと思います」(同)

 一生懸命働いたのにレジで誤差が出てしまい、さらに店からは誤差額の支払いを求められたり給料が減らされたりして、働いている側としては納得いかないという声をよく聞く。法律は、労働者が自分のミスではないことを証明するように求めてはいない。自分に非がないと考える場合は、しっかりと店側に支払いの拒否や給料の全額支給を主張したほうがいい。
アルバイトに不当に責任を押しつける雇い主に泣き寝入りする必要はないのだ。
(文=Legal Edition)

【取材協力】
藤井哲也(ふじい・てつや)弁護士
東洞院法律事務所所属。オギ法律事務所での4年の勤務を経て、テレビに多数出演している三輪記子弁護士をはじめ、西枝康一弁護士、竹中重治弁護士の4人で現在の事務所を設立し、共同経営をしている。人の悩み・トラブルを聞くことを第一とし、民事事件・刑事事件とも幅広く取り扱っている。労働事件でも、労働者・使用者問わず、相談を受け付けている。

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