今も昔も、週刊誌やテレビのワイドショーでは有名人の不倫騒動を扱うニュースが流れ、世間の関心も高い。また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の登場により、「これまでより不倫しやすくなった」という声も聞こえてくる。



 それに伴い、不倫は夫婦の愛情やモラルの問題にとどまらず、社会問題として捉え解決策を見いだすべき、という考えも広まりつつあるようだ。確かに、不倫は「家族」という最小単位のコミュニティを破壊し、職場や地域からの評価を下げる。その人の人生に与える影響は、決して小さくない行為だ。

 不倫を社会問題として捉え、解決策まで考察して話題になっているのが、2015年8月に出版された『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社)だ。今回、著者である坂爪真吾氏に、

・日本の不倫の現状
・不倫をやめたほうがいい理由
・不倫を予防する施策(不倫ワクチン)

などについて話を聞いた。

●日本では1200万人が不倫している?

--14年の連続テレビドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)のヒットや、不倫専門SNS「アシュレイ・マディソン」の個人情報漏洩問題などもあり、ここ数年は「不倫」の2文字がメディアを賑わす機会が多くなりました。そもそも、不倫とはどのようなものと捉えていますか?

坂爪真吾氏(以下、坂爪) 一言で表すなら、「表社会のキレイ事では割り切れない、社会の矛盾やツケが集まっているところ」ではないかと思います。そういう意味では興味深いですが、今回1冊の本を書き上げてみて、あらためて不倫を予防することは難しく、不倫予防の万能薬、本書でいう“不倫ワクチン”を開発することは難しいと思いました。

--そもそも、日本ではどれくらいの人が不倫をしているのでしょうか。

坂爪 既婚者の1~2割といわれているので、日本の既婚者が6000万人とすると、600~1200万人くらいになります。また、特定の傾向のある人が不倫をしているわけではなく、成育環境、性別、年齢、学歴、職業を問わず、誰にでも起こり得ることです。出会う場所は、インターネットの登場以来、出会い系サイトやSNSを通じてのケースが多いと思われがちですが、職場が圧倒的に多く、その次に趣味の場や飲食サービス関連施設が続きます。


--高級クラブなどで出会い、お金や権威のある男性が女性を経済的に援助して不倫関係に至る、というステレオタイプなイメージもありますが、そうした飲食関連の出会いは、3番目なのですね。

坂爪 ある性行動の調査結果では、不倫している独身女性の中で、経済的な援助を「してもいないし、されてもいない」と回答したのは全体の74%で、「全面的に援助されている」と回答した女性は、わずか3%しかいませんでした。

●不倫をやめたほうがいい4つの理由

--芸能人やスポーツ選手にせよ、一般人にせよ、不倫は夫婦間や個人の道徳観の問題として扱われることが多いです。本書では、サブタイトルに『「社会問題」として考える』とありますが、これはなぜでしょうか。

坂爪 私は普段、障がい者の射精介助などを手助けする一般社団法人「ホワイトハンズ」の代表理事を務めており、性の問題を個人化や単純化することなく、社会という大きな枠で捉え、公の議論を通して解決していくというテーマで活動しています。そうした背景も、ひとつの理由です。

 そもそも、不倫は夫婦間の問題として捉えられがちですが、最低でも3人の人間が関わっています。例えば、既婚男性が女性と不倫していれば、夫婦と不倫相手で3人です。3人が関わっていれば、それはもう「社会」として捉えていいと思いますし、少なくとも夫婦間だけの問題ではありませんよね。

 また、不倫は職場で始まることが多いと前述しましたが、そこには、長時間労働をはじめ、職場でのさまざまな問題が要因になっているケースもあります。いずれにしても、不倫は第三者を巻き込み、職場や家庭を壊したり、子供にダメージを与えたりするので、夫婦の問題だけに還元するのは違う。そんな思いで、社会問題として考えました。


 第三者を巻き込むこと、法律的・倫理的な観点以外にも、不倫をやめたほうがいい理由は4つあります。まず、高確率で周囲にバレること、仮に現在のパートナーと別れて不倫相手と再婚してもうまくいかないこと、実際に不倫まで発展しなくても、不倫未遂により苦しんだりすること、不倫には中毒性があること、です。

●社会で醸成すべき5つの“不倫ワクチン”とは

--本書では、不倫を「既婚者が配偶者以外と、恋愛感情を伴った肉体関係を持つこと。そして、その関係を相手方と継続する意志があること」としており、一夜限りの関係や性風俗、売買春などの金銭を介した関係は除外するとあります。さらに、互いの感情を抑制できずにハマってしまう婚外恋愛と、肉体関係ありきの婚外セックスに分けて考察していますが、社会として不倫を予防する方法を導き出すことはできたのでしょうか。

坂爪 極論ではありますが、不倫にハマらないようにするには、婚外恋愛に陥る前に婚外セックスでストップさせ、ある種の免疫をつけるのがいいと考え、本書では、そのために5つの“不倫ワクチン”を提案しています。

 ひとつ目は、精神状態や夫婦関係、家族関係が安定している男性が「カウンセラー」として、性生活で悩む女性を導くという古典的なパターンです。本書で取材した男性の場合は奥さんも半ば公認していましたが、これは男性向けの処方箋といえるでしょう。

 2つ目は、経済的にも精神的にも自立した女性が、不特定多数の男性と性的な関係を持ち、オーガズムを通して社会的な責任や罪悪感、当事者意識を吹き飛ばして、非日常の世界に接続する「アスリート女子」というものです。ただ、これは取材を通じて、実践はかなり難しいと感じました。

--その2つは、「絶対に相手と婚外恋愛に発展しない」という強い精神力や自立心が求められそうですね。そのほかには、どのような“ワクチン”があるのでしょうか。


坂爪 3つ目は、1960~70年代の「性革命の時代」にアメリカで生まれた「オープンマリッジ」です。一般的には、夫婦がお互いを社会的、性的に独立した個人として認め合い、所有欲や独占欲、嫉妬心に妨げられず、お互いの合意の上で自由に愛人をつくることができる結婚のスタイルを指します。

 こう聞くと「愛人つくり放題」などと思うかもしれませんが、従来の一夫一婦制では、配偶者を所有や支配することで、夫婦関係が閉鎖的になってしまいがちです。オープンマリッジでは、夫婦が互いの能力や魅力を最大限に発揮することで成長し、その成果が他方にも及ぼされるというフィードバックループに特徴があります。しかし、この実験は基本的に失敗に終わり、実際にはごく少数の人にしか実践できません。

●江戸時代は婚外セックスが盛んだった?

--オープンマリッジが生まれた時代のアメリカはヒッピーがはやりましたが、ヒッピー文化の中にはスワッピングもありましたね。

坂爪 ヒッピーとスワッピングは、かなりリンクしています。ただ、今の日本で夫婦同士がお互いを交換するような正統なスワッピングは少なく、夫婦間のマンネリの打破や、複数の相手とのセックスを楽しむための娯楽として行われているのが実際だと思います。スワッピングの本来の目的は、ほかの相手との性行為により、身体感覚がリセットあるいは更新され、パートナー間の愛をさらに深めることです。

--ヨーロッパの小説を読んでいると、時々そういったシーンが登場します。

坂爪 スワッピングにしても、オープンマリッジにしても、基本的には欧米の文化で、アジアにはそういった文化は見当たりません。

--そうすると、日本では、婚外セックスはどのようにされていたのでしょうか。


坂爪 例えば、江戸時代では武士階級のルールが厳格化されていた半面、一般の人たちは盆踊りで乱交を行ったり、雑魚寝や歌垣(男女が集まり、歌の掛け合いを行う行事)で年に一度、婚外セックスをする機会があったようです。

●一番のワクチンは「結婚生活を極めること」

--話を戻しますが、そのほかの不倫ワクチンはどんなものでしょうか。

坂爪 4つ目は「ポリアモリー」という、責任を持って同時に複数の相手と恋愛関係(性的関係を含む)を結ぶ形態です。これはスワッピングや不倫とは違い、複数の相手と誠実に、全員の合意を得た上で関係を結ぶことを指します。

 この場合、合意の有無が非常に重要になります。仮に自分に複数の子供がいた場合、基本的には平等に愛情を注ぎますよね。それと同じように、パートナーが何人いても、平等に愛情を注ぐことは可能という人もいます。

--論理的には、確かにそうかもしれませんね。

坂爪 ただ、嫉妬にかられてしまうなど、これも実践するのは相当難しいと思います。極論を言えば、ポリアモリーを実践できるのは、心身ともに健康で体力と時間に余裕があり、経済的にも精神的にも自立している人くらいでしょう。

--5つ目のワクチンは、なんでしょうか。

坂爪 交際クラブです。
これは、既婚男性に婚外での交際相手や愛人となってくれる女性を紹介してくれるサービスです。所定の審査を通過した女性で、男性側は年会費と紹介料を支払います。

 男性側は、あくまで素人女性との出会いを求めているのですが、結果的にセックスを売りにする女性の人気が高いため、「セミプロ」もしくは「プロ」の女性と出会ってしまうことが最大のジレンマだと思います。

--5つの不倫ワクチンの中で、どれが一番有効だと考えていますか。

坂爪 婚外セックスや婚外恋愛を円満に行うには、肉体的、精神的に健康で、なおかつ経済的にも時間的にも余裕があり、夫婦関係や家族関係が安定している必要があるという矛盾があります。また、どのワクチンも合わなかったり、ハードルが高かったりします。そう考えると、一番の不倫ワクチンは「結婚生活を極めること」でしょう。

 ただ、強いて挙げれば、男性なら交際クラブ、女性なら信頼できる相手やサークルでのスワッピングが一番安全だと思います。交際クラブならお金が、スワッピングなら個人情報を隠して交流することが、安全装置になるのではないでしょうか。

--最後に、婚外セックスを不倫ワクチンとして肯定する理由は、なんでしょうか。

坂爪 あくまで現在の夫婦関係を維持するための婚外セックスを条件付きで認める理由は、2つあります。ひとつは、それ以外に不倫を予防する現実的な方法がないこと。
もうひとつは、それにより効果的な不倫ワクチンを生み出せる可能性があるからです。

--ありがとうございました。
(構成=本多カツヒロ)

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