今年1月、YKKのグループ会社であるカフェ・ボンフィーノが、東京・墨田区にカフェ店舗をオープンさせたことが話題になった。YKKといえば、スライドファスナーの生産で世界シェア約45%を誇る有名企業だ。
そのYKKが、なぜ今カフェをオープンさせたのか。サードウェーブコーヒーがブームだからだろうか。いろいろな疑問を抱えつつ、実際に店舗に行ってみた。
JR両国駅が最寄りのカフェ・ボンフィーノ本店は、いわゆるテナントではなく、YKKグループのビル敷地内に建てられた独立型の平屋建てカフェだ。外観、内装ともにオフホワイトやベージュが基調となっており、落ち着いた佇まいである。
店内に入った際の第一印象は、「なんか広い!」。天井が高いこともあるが、それ以上に椅子の数が少なく、わずか10席ほどしかない。思わず、「これで経営が成り立つのか? もしかして、客単価がすごく高いのでは?」と心配になったが、「ハンドドリップコーヒー」は1杯400円。上質なコーヒーでこの値段は、むしろ良心的なほうだろう。
肝心の味は、うまく言えないが、丁寧な味わいを感じた。コーヒーカップとソーサーは使い捨てではなく白い陶器製で、店員の接客もガツガツしていなくて居心地がいい。悪くはない。
後に調べると、ボンフィーノ本店の機能は、
(1)「カフェ・ボンフィーノ」を紹介する施設
(2)カフェ提供
(3)メニュー開発のためのスペース
(4)焙煎業務の基地
(5)フランチャイズ加盟店開拓の拠点
となっていた。ボンフィーノ本店は、不動産会社のモデルハウスならぬ、営業もしている“モデルカフェ”というわけだ。店内のレイアウトに余裕があるのも、商売っ気が少なく感じるのも、そこが提案や開発の拠点でもあるからだ。
●ブラジルの自家農園からコーヒー豆を直輸入するYKK
YKKは1972年にファスナー事業でブラジルに進出、85年にはグループ会社のYKK農牧社がコーヒー事業をスタートし、現在もブラジルに自家農園を持っている。
その自家農園でつくられる高品質なコーヒー豆を直輸入し、自家焙煎したコーヒーを短時間で供給する基地および他店舗展開への中核拠点。それが、ボンフィーノ本店なのだ。決して、サードウェーブコーヒーブームに乗っかってカフェを始めたわけではないようだ。
YKKといえば、北陸新幹線開業に際して、本社機能の一部を富山県黒部市に移転させることを発表して話題になった。人事、経理、財務などの管理部門をはじめ、今春までに計230人が異動、社員の家族も一緒に移住するケースが多いという。
これに伴い、富山県における同線停車駅のひとつに黒部宇奈月温泉駅が選ばれたともいわれている(もちろん、観光客の乗降者数が多いことも理由だろう)。YKKグループが新たな局面に転換しようとしていることは確かであり、その表れのひとつがカフェ事業なのかもしれない。
よく考えれば、ボンフィーノ本店は大きな窓とアルミサッシが特徴的なレイアウトになっていたが、これはYKKグループの住宅建材部門・YKK APの得意技である。メイド・イン・YKKがふんだんに盛り込まれた「カフェ・ボンフィーノ」。今後、自家焙煎のこだわりコーヒーを味わえる憩いの空間が全国に増えることを期待したい。
(文=編集部)