日本マクドナルドホールディングスが6月6日に発表したところによると、5月の既存店売上高は前年同月比21.3%増で、6カ月連続プラスとなった。「クラブハウスバーガー」や「ロコモコバーガー」といった比較的単価の高い期間限定メニューを発売したことが功を奏したかたちだ。



 売り上げだけではなく、客数も5カ月連続増となる7.0%増、客単価も6カ月連続増の13.3%増で、回復基調が鮮明になってきた。同社も「ファミリー層が戻ってきている」との見方を示し、手ごたえを感じているようだ。

 消費者が戻りつつある状況を受けてか、マクドナルドの株価も上昇中だ。1月22日に付けた年初来安値の2215円からは上昇を続け、5月下旬から6月上旬にかけては2900円台での取引となっている。

 そんな上り調子に見えるマクドナルドだが、極めて大きな懸念を抱えている。

 それは人材不足だ。全体を統括する幹部クラスの人材も十分とはいえないが、現場は極めて深刻な人手不足に陥っている。

 マクドナルドは、店舗を運営させるにはクルーと呼ばれるアルバイトスタッフが3人以上必要と定めている。24時間営業をしている店舗のうち、深夜帯に3人を確保できずに営業時間を短縮しているところが続出している。3人確保して営業しても、誰かが清掃や休憩などをすると、ほかのクルーの負担が非常に重くなる。

 また、当然ながら昼どきなど忙しい時間帯には多くのクルーを確保する必要があるが、それもままならない状況だ。アルバイトが確保できない場合には、社員のマネージャーや店長も現場に出て対応するが、限界がある。


●マクドナルドの人手不足の原因

 この人手不足は一部の店舗に限ったことではなく、全国的な問題となっている。その原因としては、以下の3つが挙げられる。

(1)マクドナルドへの信用失墜

 期限切れの食肉使用から始まり、相次ぐ異物混入などでマクドナルドの商品は「安かろう、悪かろう」の代名詞となった。そのような企業は、積極的に働きたいと思う対象ではなくなっている。

 また、若者の間では、「パワハラがすごい」「労働環境が悪い」「長時間労働させられる」などの情報が流れ、「マクドナルド=ブラック企業」というイメージが強い。実際にはすべての店舗がそのような悪い労働環境ではないはずだが、悪い情報はネット上で拡散されやすいうえ、業績の悪さに乗るかたちで広まった。

(2)業界全体の人手不足

 昨年、商工会議所が全国の企業を対象に調査したところによると、飲食店業界では「人手が足りない」と答えた企業が約半数に上った。つまり、今は売り手市場となっているため、条件の良い店でなければ働き手は集まりにくくなっているのだ。

(3)給与の低さ
 
 マクドナルドのアルバイト時給は、それぞれの地域の最低時給に近い。全国で700~800円台がほとんどだ。東京都内でも900円台だ。今や飲食店のアルバイトは都内であれば1000円を超すところが多くなっているなかで、900円台で人手を集めるのは厳しいだろう。


●アルバイト確保の施策

 このような状況に対し、マクドナルドが打ち出した施策は次の5つだ。

(1)本社主導でのアルバイト募集

 アルバイトを募集する場合、通常は店舗ごとに費用を負担する。だが、全国おしなべて人手不足の異常事態に、本社が費用を負担して全店舗のアルバイト募集の情報をアルバイト情報誌に掲載している。

(2)コンシェルジュの導入

 2月から「おまかせ!マック」と命名した制度を導入し、アルバイト希望者一人ひとりに合った場所、時間、働き方などを提案するコンシェルジュサービスを導入し、働く人をサポートする体制を整えた。

(3)店頭でのスカウト

 店頭でクルーが「私と一緒に働きませんか」などとお客に声をかけるプロジェクトを展開している。

(4)メディア展開

 3月からは「クルーになろう。」とのキャッチコピーで、マクドナルドでのアルバイトをアニメにして公開している。また、アイドルグループのAKB48とコラボしてアルバイト募集のキャンペーンを展開させている。

(5)ポスター掲出、チラシ配布

 店舗にポスターを貼り、街頭でチラシを配るなど、地道な募集活動も同時に展開している。

●人材をおろそかにするマクドナルド

 マクドナルドが、これだけ力を入れて人材をかき集めたことはかつてなかった。それだけ、人手不足が深刻で、かつ人材確保が喫緊の課題となっているのだ。

 せっかく客足が戻ってきていても、店員が少ないために商品の提供が遅くなったり、ミスが多発するなど、サービスの質を保てなければ、客は完全に離れてしまう。

 だが、クルーリクルート担当者は「大幅に人手が足りないということはない」と語り、現場とは温度差がある。


 もちろん、ただアルバイトを多くすればいいというものでもない。従業員やアルバイトで構成する労働組合の日本マクドナルドユニオンの根岸和弘・中央書記長は、「採用活動に宣伝費をかけるより、クルーの人件費に回すほうが先だ」と指摘する。 すでに働いている人たちの保護にも力を入れなければ、流出してしまいかねない。

 日本マクドナルドの創業者である藤田田氏は、最高の給与を与えて最高の人材を確保することを旨とした。だが、今のマクドナルドは人材を軽んじているきらいがある。

 マクドナルドを辞めた元幹部たちは現在、軒並みほかの飲食チェーンで活躍している。元取締役の村尾泰幸氏はバーガーキング・ジャパン社長、友成勇樹氏はモスダイニング会長、紫関修氏はフレッシュネス社長、臼井興胤氏はコメダ社長、興津龍太郎氏はすき家本部社長に就いている。極めて皮肉な状況だ。

 業績が悪くなれば人を切り、上向けば慌てて採用活動を展開するという方針では、企業は成長しない。マクドナルドは人材育成に力を注ぐ必要がある。
(文=編集部)

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