いきなりですが、クイズです。

「ジハイドロジェンモノオキサイド(Dihydrogen Monoxide:DHMO)」という物質を知っていますか?

 インターネットで調べると、次のようなことが書かれています。



・DHMOは超危険である
・水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である
・温室効果を引き起こす
・重篤な火傷の原因となりうる
・地形の侵食を引き起こす
・多くの材料を腐食させ、さび付かせる
・電気事故の原因となり、自動車のブレーキの機能を低下させる
・末期がん患者の悪性腫瘍から検出される

 しかも、「DHMOを吸引すると死亡する」とまで書かれていました。また、この危険な物質は、日本全国の工場で冷却・洗浄・溶剤などとしてなんの規制もなく使用・排出され、結果として湖や川、果ては母乳や南極の氷からも高濃度のDHMOが検出されていることが指摘されています。

 さらに最近、筆者が独自に行った調査で、日本の水道管の中にこのDHMOが、とてつもなく大量に含まれていることも明らかになりました。

 ここで、質問です。皆さんは、このDHMOの使用を、日本で禁止あるいは規制すべきだと思いますか? 

 自然破壊を起こし、命にかかわる怪我や病気にも関連している危険な物質ですから、禁止や規制に賛成という人が多いのではないでしょうか。

●50人中43人が「規制すべき」

 ここで、種明かしをします。すでに、ご存知の方もいたかもしれませんが、DHMOは「一酸化二水素」のことで、化学式では「H2O」で表される「水」のことです。1990年代、実際に米国で流行ったジョークで、ウェブサイトもつくられています。

 そして、米国で行われた調査では、前述のような質問をしたところ「DHMOを規制すべき」と回答した人が、50人中43人もいたそうです。

 今回紹介したDHMOでは、水であることを伏せたまま、事実ではあるものの極端な説明をしたうえで、相手に恐ろしい物質のように思わせることができてしまっています。

 食品添加物や医薬品を否定するような記事についても、このDHMOと同じようなテクニックがしばしば使われています。

 たとえば、薬の効果については伏せたまま、事実ではあるものの副作用を極端に強調した上で、薬を否定する。
これまで、薬は効くものだと信じていた人が、「患者は騙されている! 医者がひた隠す薬の恐ろしい副作用!」などといったセンセーショナルな記事を目にすると、つい引き寄せられてしまいます。

 そこで、重要なのは情報を無批判に鵜呑みにするのではなく、また頭ごなしに拒絶するのでもなく、客観的・批判的に読み解いていく「健全な懐疑主義」になります。そして、健全な懐疑主義に基づいて情報を吟味することで、バランスの取れた理解ができるようになります。

●大腸がんの原因?

 では、もうひとつ質問です。

・オリザサティバ(OS)の恐怖! 大腸がんが急増?
「大腸がんの原因を突き止めるため、大腸がん患者1000人に綿密な聞き取り調査をしたところ、なんとただひとつ、過去に全員が体内に摂取していた物質が明らかとなった。それはOSと呼ばれる粒形の物質を熱水処理した結果、大量につくり出されることも確認された」

 さて、OSは本当に大腸がんの原因なのでしょうか。

 この文章だけで「OSは危険だ」「OSを食べてはいけない」と短絡的に判断してはいけません。まずは、健全な懐疑主義に従ってOSをインターネットや辞書で調べてみてください。

 おそらく、この連載を読んでくださっている全員が、大腸がんの有無にかかわらずOSを食べたことがあると思います。

 なお、OSは大腸がんの原因ではないということは過去の調査で明らかになっていますので、ご心配なく。
(文=大野智/医師、大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄付講座准教授)

【ご参考】
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター
「多目的コホート研究(JPHC Study)」

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