日産自動車は11月22日、子会社の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイを米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却することを決めた。KKRが全額出資するCKホールディングス(HD)が、2017年2月下旬からカルソニック株に対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、日産の持ち分40.68%を含め全株の取得を目指す。

買収総額は4982億6100万円の見込みで、日産は1140億円の売却益を得る。この資金を安全・環境分野の次世代技術の投資に振り向ける。

 カルソニックは11月22日、TOBの成立を前提に、従来7円50銭としていた17年3月期の期末配当をゼロにし、1株当たり570円を上限とする特別配当を実施すると発表した。

 CKHDはカルソニック株を11月22日の終値(1450円)と比べて28%高い1860円から特別配当額を差し引いた価格で買い付ける。CKHDは全株を取得し、完全子会社とする。予定通りTOBが成立すると、カルソニックは上場廃止となる見込み。


 日産は当初、一般事業会社への売却を検討していたが、有力な候補が見つからず投資会社などによる入札を実施することになった。6月に1次入札を実施。KKRのほか、日中韓の企業を投資対象とするMBKパートナーズや、米投資ファンドであるベインキャピタルなどが参加した。10月中旬に締め切った2次入札で好条件を示したKKRに優先交渉権を与えていた。

 カルソニックは日産系列最大の自動車部品メーカー。16年3月期の連結売上高は1兆533億円、営業利益は382億円で、売り上げの84%が日産向けだった。
KKRによる買収後は、大手自動車メーカーに属さない独立系として取引先を広げる。製品ごとの寡占が進んでいる自動車部品分野での競争力を高めるため、熱交換器やエアコンなど得意分野のシェア向上を図る。

 日産は株式売却で得た資金を三菱自動車の買収に充てるとともに、電気自動車(EV)や人工知能(AI)、自動運転技術の研究のほか、AI関連のベンチャー企業に投資する。

●「コストカッター」ゴーン流の系列解消

 日産がルノーと資本提携した1999年、仏ルノーから「コストカッター」の異名をとるカルロス・ゴーン氏が送り込まれた。ゴーン氏は系列取引の解消に大鉈を振るった。完成車メーカーを頂点に系列の部品メーカーや下請け企業がピラミッド形に連なる日本式の系列を、非効率経営の元凶とみなした。
そして日産の再生計画「日産リバイバルプラン」で部品メーカーの大幅な絞り込みを掲げた。保有する1400社もの部品メーカーの株式は「緊密な4社」を除いて売却を進めた。カルソニックは、その4社に含まれていた。

 2000年、エアコンや熱交換器が主力のカルソニックと、メーター類などを手がけるカンセイが合併した。その後、日産は仏ルノーと提携し系列解体に乗り出すが05年、日産がカルソニックカンセイの第三者割当増資を引き受けて子会社にするなど両社は関係を強めてきた。

 日産がカルソニックを重用したのは円滑な海外展開のためだった。
日産の生産ラインに近接した建屋の中で車の部品をつくるオンサイト生産を得意とするカルソニックが、日産の海外生産を支えてきた。

 日産は完成車工場に供給する部品企業の立地を4つに区分している。工場建屋内のオンサイト、工場敷地内のインサイト、工場近隣のニアサイトと、それ以外である。カルソニックはオンサイト企業だった。

 その一方で、部品会社が自社工場内にあると切り替えが難しくなる。売り上げの8割超を日産に頼る硬直的な関係だと、グループのコスト競争力を失わせる懸念が強い。


 この間、自動車の技術開発の方向性は大きく変わり始めた。従来からの環境対応に加え、大手自動車メーカー各社はAIを搭載した自動運転車の開発にしのぎを削り、インターネットとつながるクルマの進歩は著しい。自動車メーカーの重要な提携先は、今やIT企業になっている。

 完成車メーカーが求める部品や技術が大きく変わるなか、「聖域はない」が持論のゴーン氏は、再び系列関係にメスを入れた。「日産に依存しているだけでは部品メーカーの競争力は高まらない」としてカルソニックを切った。カルソニックの業績は好調だが、日産への依存度が高すぎるのが最大の難点だった。

 
●鬼怒川ゴム工業、オートモーティブエナジーサプライも系列から切り離す

 日産は同様の理由で、今夏、鬼怒川ゴム工業を系列から切り離した。日本政策投資銀行が実施したTOBに応じ、日産が保有する20.2%の株式を売却した。日本政策投資銀行のファンドが500億円を投じ、鬼怒川ゴムの株式を議決権ベースで92.4%取得、10月21日に上場廃止となった。

 鬼怒川ゴムは自動車の防振ゴムを製造しており、16年3月期の売上高は761億円。売り上げの過半が日産グループ向けだった。上場企業でなくなり、経営の自由度が増したことから、今後、日産以外の販路を拡大する。

 日産は車載電池事業からも撤退する。電池子会社、オートモーティブエナジーサプライ(AESC)の株式も売却する方針だ。AESCは日産が51%、NECグループが49%出資する合弁会社。日産の電気自動車リーフ向けのリチウムイオン電池を生産している。

 車載電池事業を切り離す背景には、製造コストが高すぎるという事情がある。電機メーカーと合弁会社を設立し、独自の電池を開発してきたため標準化が進まず、製造コストが下がりにくい構造になっている。電池のコストが高いことがEV自体の価格を高止まりさせてしまい、EVが売れない原因のひとつになった。

“EVの盟主”を自負するゴーン氏は、車載電池の汎用化を進めて製造コストを飛躍的に下げ、EV普及の起爆剤にする狙いを秘めている。売却先の候補としてはEVベンチャーである米テスラモーターズへ車載電池を供給しているパナソニックや中国メーカーが挙がっている。

 一方で、日産はルノーと共同で9月21日、フランスのクラウドコンピューティングを使ったデータ解析に強みをもつベンチャーのシルフェオを買収した。自動運転車やネットワークに接続するコネクテッドカー(つながる車)に関するソフトウェア技術を吸収する。

 日産とルノーは20年までに10車種に自動運転技術を採用する。これまで日産はIT分野での買収や提携企業は少なかったが、シルフェオの買収を機に、次世代車の開発に即応できるよう系列企業の組み替えを加速する。
(文=編集部)