昨年末に解散したアイドルグループ・SMAPの木村拓哉主演の連続テレビドラマ『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)が15日、放送された。

 木村が演じる外科医・沖田一光は、かつて在籍していた壇上記念病院の院長・壇上虎之介の手術のため、10年ぶりにアメリカから戻ってきた。

しかし、沖田の元恋人で虎之介の娘、現在は同病院で小児外科医として働く壇上深冬(竹内結子)と、その夫で沖田の幼馴染、現在は同病院副院長の壇上壮大(浅野忠信)は、沖田が舞い戻ってくることに複雑な感情を抱いている。

 そんな沖田は、第一外科部長の羽村圭吾(及川光博)の反対を押し切り虎之介の難手術を行うが、術後に虎之介の容体が悪化。再び羽村が反対するなかで沖田は再手術を志願し、成功。その一方、今度は深冬に脳腫瘍があることが検診で発覚。その事実を知った壮大は、深冬の手術のため沖田に同病院に残ることを依頼し、沖田が受け入れるところまでが第1話で放送された。キャストにはこのほかにも、若手医師・井川颯太役の松山ケンイチ、オペナース・柴田由紀役の木村文乃、同病院顧問弁護士・榊原実梨役の菜々緒ら、豪華な俳優陣が脇を固める。

 木村にとってはSMAP解散後初の連ドラ主演作となるだけに世間の注目を集めていたが、平均視聴率は14.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の好発進となった。その一方で、ドラマ内で描かれる医療の現場について、現役医師からは疑問の声も聞こえてくる。

「虎之介の難手術をするかどうか悩む娘(深冬)に向かって、沖田が『大丈夫だ。まだ終わりじゃない。絶対に救う』と語りかけるシーンがありますが、これはあり得ません。『絶対』という言葉は、医療の現場では使われません。
こんな発言をして手術に失敗すれば、患者さん側の弁護士から攻撃されます」(現役医師・Aさん)

 また、沖田医師が外科部長の羽村や深冬ら複数の医師たちに、虎之介への手術として「コンノ法による大動脈弁置換術」を提案し、「前例のない危険なオペ」という理由で反対されるシーンについて、現役医師・Bさんは次のような感想を語る。

「手術の内容はともかく、医療の現場では前例のない手術が行われることはあります。保険請求上の問題が生じますが、似た手術があればその点数で保険請求をします。まったく新しい手術であれば、保険請求は比較的簡単な手術で行われます。今回の手術は、大動脈の狭窄なので、型どおりに人工弁置換術でいいかと思います。もっとも、コンノ法は人工弁が入らないほど大動脈弁輪が狭いときに行われる手術で、あまり行われません。また、劇中ではデルニド(=心筋保護液)を使うことに医師たちから反対の声があがっていましたが、デルニドを使うかどうかは別にして、コンノ法は1975年に当時東京女子医科大学の教授だった今野草二氏が発表した方法なので、前例はあります」

●誤解が広まる懸念も

 このほか、深冬に脳腫瘍があることを知った壮大が、心臓外科医である沖田にその脳手術のために壇上記念病院に残ることを依頼し、沖田が受け入れるシーンについても疑問の声が聞かれた。

「現在の日本の医療では専門医制度が普及し、専門分化が進んでいます。しかも極めて難しい脳腫瘍の手術を、専門外の医師が行うなど、あり得ない話です」(現役医師・Cさん)

 ちなみに、沖田が「(虎之介は)オペしなかったら死にますよ」と発言したり、沖田が外科部長である羽村の反対を押し切り、リスクの高い手術を行うシーンもみられたが、こうしたケースは医療の現場でもあり得るという。

「外傷などで出血が止まらなかったり、動脈瘤の破裂などがある患者に対し、『オペしなかったら死にますよ』という意味合いの言葉を言うことはあります。また、たとえ外科部長が反対しても、家族のなかの意思決定者が嘆願すれば、その反対意見が翻ることもあり得ます」(同)

 最後に同ドラマ全体の感想を前出・Bさんに聞いたところ、こう懸念を示した。

「病院側に賄賂を渡して手術の順番を早めてもらうシーンなどもありましたが、そういうことは受け付けない病院も数多く存在します。
ドラマはフィクションなので誇張が混じるのは仕方のないことだと思いますが、一般の人々に誤解や混乱が広まる恐れもあります」

 私たち視聴者は、「あくまでフィクション」という姿勢で楽しむべきだろう。
(文=編集部)

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