2015年10月13日より発売が開始されて以来、半年間で20億円も売り上げたロッテの大人気チョコレート菓子「乳酸菌ショコラ」シリーズに、“景品表示法違反”の疑いが向けられている。

「乳酸菌ショコラ」の発売当初の商品コピーである「生きた乳酸菌が100倍とどく」について、ロッテが消費者庁から問い合わせを受けたというのである。

消費者庁はロッテ側に「本当に生きた乳酸菌が腸まで100倍届くことが立証できているのか?」として根拠を示す資料の提出を求めたとのことだ。

●ロッテ広報室は「万全の科学的根拠あり」と回答

 そこで当編集部でもロッテ側に対し、「100倍とどく」というキャッチコピーが真実なのかどうかを問い合わせたところ、ロッテ広報室から以下のような回答が返ってきた。

「消費者庁からは、『乳酸菌ショコラ』の商品コピー『生きた乳酸菌が100倍とどく』の根拠に関する質問がございましたが、弊社からは万全の科学的根拠があることをご説明しております。詳細につきましては差し控えさせていただきます」

 このようにロッテは「万全の科学的根拠がある」と明言しているのだが、ロッテは「乳酸菌ショコラ」の商品コピーを昨年末から「“生きた乳酸菌をいつでも”の時代」へと変更しているのだ。

 もちろん消費者庁から問い合わせが来る以前から商品コピーを変更する予定だったという可能性もあるが、タイミング的に、急遽コピーを変更せざるをえなかった“何らかの理由”があったのでは、と穿った見方もできてしまう。

●行ったのは人体実験ではなく確証の薄い試験管実験

 本題に入る前に、まず「そもそも乳酸菌とは何なのか」ということを解説しておこう。整腸作用があることなどを知っているかたは多いだろうが、その存在について詳しく説明できるかたは少ないのではないだろうか。

 そこで今回、『あなたの知らない乳酸菌力』(小学館)の著者で新宿大腸クリニックの院長の後藤利夫氏に、乳酸菌について話を伺った。

「乳酸菌とは善玉菌と呼ばれるものの1つで、私たちの健康維持に大きく貢献してくれている必要不可欠なものです。乳酸菌には下痢や便秘を整える整腸作用や、免疫力を高めるといった作用があります。それ以外にも尿酸値を下げたり、血糖値を下げたり、血圧を下げたり、コレステロール値を下げたりもしてくれるのです。

 また、胃や大腸の癌予防をはじめ、胃や大腸以外にも免疫力を高めることにより、感染症を予防したり他の癌も予防する効果も期待できるのです。
また美容的にも肌の健康を保つといった効果も期待できますので、多岐に渡って人間の健康に関与しているのです」(後藤氏)

 話を「乳酸菌ショコラ」について戻し、問題となった「生きた乳酸菌が100倍とどく」という商品コピーについて後藤氏に伺った。

「摂取した全てではありませんが、もともと乳酸菌は粉末、ドリンク、ヨーグルトなど形を問わず生きたまま腸に届くものなのです。ですから『生きた乳酸菌が100倍とどく』という表現は、“生存比率”が100倍ということなのでしょう。

 要するに、ロッテ側は一般的なヨーグルトなどで摂取するよりも、乳酸菌をチョコレートに包んだほうが生きたまま腸に届く比率がより高まったと言っているのです。

 もちろん試験データに基づいた証拠はあり、その試験データは2015年12月22日に日東薬品工業のプレスリリースにて発表されています」(同)

 説明しておくと「乳酸菌ショコラ」は先述のロッテ、日東薬品工業、京都大学の共同開発によって生み出された商品である。

「このプレスリリースを見てみると、行ったのはチョコレートに包んだ乳酸菌とチョコレートに包んでいない乳酸菌に分け、それぞれを人工胃液に入れるという試験管実験。その後にどれくらいの乳酸菌が殺菌され、どれぐらい生き残ったかという比較をしています。

 この試験データによると、1時間経過で1ml当たり、チョコレートに包んでいなかった乳酸菌は100以下にまで数を減らし、逆にチョコレートに包んだ乳酸菌は100万もの数が生き残っていたとのこと。倍率で言うと“約1万倍”も生存比率に差が出たわけです。また2時間経過した時点ではチョコレートに包んだ乳酸菌の数はほとんど減らず、結果的に“約3万3千倍”にまで生存比率を伸ばしたという結果になっています」(同)

●断言するには100億円規模の人体実験が必要

 しかし、後藤氏曰く、「100倍とどく」と宣伝するためには人工胃液を用いた試験管試験では根拠として欠ける、とのこと。消費者庁が“景品表示法違反”の疑いを持ったのもこの点からなのだ。

「胃を通過した直後に十二指腸に行くわけですから、胃で生きているという試験をしたら腸まで生きて届くというのはあながち嘘ではありません。


 ですが、問題はロッテが行った試験はあくまで“試験管内”であって、人間の“生体内”ではないこと。一般的に試験管内での試験結果が生体内で立証されないことは多々あるため、実際に生体内での試験を行わなければ『生きた乳酸菌が100倍とどく』と断言できないはずなのです。

 つまり試験管を用いた試験によって、3万3千倍もの乳酸菌が生き残るということが立証できたとしても、人間の体内でもチョコレートに包んだ乳酸菌が胃酸を通過し、生きたまま腸まで届く“可能性がある”としか言えないのです」(同)

 2月14日に配信されたニュースサイト『ダイヤモンド・オンライン』の記事によれば、「乳酸菌ショコラ」の開発に携わった京都大学の小川順教授は「現在の科学技術では人間の腸内でどれだけの乳酸菌が生きているかは人間を解剖して検証する以外に定量的に測れない」と発言しているが、どうすれば証拠を提示することができるのだろうか。

「いえ、人間を解剖しなければわからないということはありません。腸へ生きた乳酸菌が届いたかどうかを調べる方法としては便を利用した方法があります。

 まずは、普段の便内に含まれた生きた乳酸菌量と、チョコレートに包まずに乳酸菌を摂取した後の便内に含まれた生きた乳酸菌の数の増減値を出します。

 次に、同じように普段の便内に含まれた生きた乳酸菌量と、チョコレートに包んだ乳酸菌を摂取した後の便内に含まれた生きた乳酸菌の増減値を出すのです。

 この2つの数値を比較し、チョコレートで包んだ乳酸菌を摂取した便のほうが100倍以上、生きた乳酸菌が検出されれば、しっかりと腸まで生きたまま届いたという証明になります。

 このように、乳酸菌の“生存比率”を医者と患者の協力があれば可能なのです。

 ただこういった人での試験は莫大な費用がかかることが多いですし、安全性を確保する必要があるため、今回は行われなかったのかもしれません」(同)

●“チョコに包むと100倍届く”という仮説に意義はある

「生きた乳酸菌が100倍とどく」と謳うには人体解剖まではいかずとも、費用と手間がかかる人での実験をする必要があるということか。

 ただ、後藤氏はロッテが行った試験管実験の結果自体は注目に値すると続ける。

「このロッテの試験で注目すべきは、人工胃液という強酸にチョコレートに包んだ乳酸菌を2時間もつけ込んだにも関わらず、ほとんどの乳酸菌が死んでいなかったということ。
実際にこの試験では3万3千倍という結果が出ていますし、もしこれが体内でも同じような結果となるならば、100倍どころではない数の生きた乳酸菌が腸へ届くことになります。

 ですから、チョコレートで包むだけで乳酸菌がほとんど死なないという仮説を立てたというだけでも、とても意義があることだと思います。

 ただロッテは、現在は『生きた乳酸菌が100倍とどく』というコピーは使用していませんから、やはりそう断言できる人での実験はしていなかったのではないかと思います。消費者を騙すつもりだったということはなく、よかれと思って勇み足の宣伝をしてしまったということではないでしょうか」(同)

 消費者庁が“景品表示法違反”と判断した場合、違反対象期間における売上の3%分の課徴金がロッテ側に課される可能性があるという。今後の消費者庁の対応にも注目していきたい。
(文・取材=A4studio)

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