4月、安倍昭恵首相夫人と、その「内閣総理大臣夫人秘書=夫人付職員」が相次いで刑事告発された。森友問題で一躍有名になった、経済産業省の谷査恵子氏も告発の対象となっている。

この刑事告発が安倍政権に与えた衝撃は相当なものだという。政権にパイプを持つ関係者が指摘する。

「安倍首相にとって、かなりの痛手となるかもしれません。最悪のシナリオは政局が混乱し、自民党内部で『安倍おろし』が加速するという、第1次政権末期と同じ状況が生まれることです」

 大手メディアも一部は報じたが、部分的な短信にとどまっている。インターネットでは膨大な情報が積み上がっているが、錯綜と混乱が著しく、全体像が見えにくい。

 そのため、まず時系列で確認しておこう。第1弾の告発は4月18日、政治経済誌「日本タイムズ」発行人の川上道大氏が行った。容疑は国家公務員法違反。対象者は昭恵夫人と谷氏。告発状の送付先は検事総長と大阪地検特捜部。川上氏はネット版の『日本タイムズ』で告発内容などを説明している。

 告発の要旨は2015年11月、谷氏が森友学園からの問い合せに対してFAXで回答を行ったが、その中で「予算措置の内容」という秘密情報を漏洩した容疑があるとし、昭恵夫人は谷氏に漏洩をそそのかした疑いがあるとしている。


 第2弾は4月20日。元大阪高検公安部長で、「市民連帯の会」会長を名乗る三井環氏が東京地検特捜部に刑事告発を行った。三井氏は詐欺罪などで実刑判決が確定し、静岡刑務所で服役したという異色の経歴を持つ。三井氏の告発状も、ネットにアップされている。

 告発の対象者は4人。昭恵夫人と経産省の青田優子氏、国家公務員の堀口恵美氏、もう一人は同じく国家公務員で氏名不詳だ。いずれも夫人付職員であり、容疑も同じく国家公務員法違反となっている。

 内容は昭恵夫人と国家公務員の3人が「共謀の上」国政選挙で選挙運動を行ったとし、「人事院規則に定める政治的行為をしてはならない」と定める国家公務員法に違反した疑いがあるとしている。

 さらに今後、刑事告発を行うと明言しているのが、市民団体「森友デモ実行委員会・告発プロジェクト」だ。同委員会は4月20日に昭恵夫人と谷氏に対して刑事告発を行うと事前予告していた。そのため広範囲から注目されていたが、同日午後に行われた会見では、告発の延期を発表し、謝罪を行った。

 委員会は延期の理由を「自由党の小沢一郎党首など、複数の国会議員から告発は時期尚早だと忠告された」「支援者の中でも反対意見があり、運動の分断を回避した」などと説明。
しかし国会で野党の追及が一段落すれば「必ず告発を行う」と断言した。会見での説明によると、告発の容疑は、やはり国家公務員法違反。内容は国政選挙での運動を問題視したものだ。三井環氏の告発と基本は同じだが、こちらは谷氏が告発対象者となっている。

 以上が時系列のまとめだ。

 前出の関係者が解説する。

「今回の告発ラッシュは、安倍政権の判断ミスが原因です。3月14日に政権は『昭恵夫人は私人』とする答弁書を閣議決定しましたが、特に川上氏の告発は、これを逆手に取ったものといえます」

 もし昭恵夫人が公人なら、さまざまな陳情に「秘書」的な役割の国家公務員を使い、国の方針を説明させても問題にならない──かもしれない。だが、私人となると事情は一転する。我々と同じ立場の「一市民」が自由自在に国家公務員を使いこなすことなど許されるはずもない。

 それにもかかわらず、安倍政権は森友問題で潔白を証明しようと焦り、昭恵夫人を私人と押し切った。この判断ミスが巨大なブーメランとなって、安倍首相に返りつつある。


●昭恵夫人は「公人」のほうが都合がよかった?

 一方、三井氏の刑事告発は、昭恵夫人が公人だろうが私人だろうが成り立つ。夫人付職員たる国家公務員が選挙応援に同席することは、人事院の定めた「政治的行為の禁止」に抵触する可能性があるからだ。

 しかしながら、この告発に関しても、実は昭恵夫人が公人か私人かという問題が影を落としていると、先の関係者は語る。

「政権が昭恵夫人を私人だと決定し、すべての責任は自動的に『夫人付職員』が負うことになりました。これを一般的には『とかげの尻尾切り』と呼びます。三井氏の告発は煎じ詰めると、『夫人付職員に責任を押し付けるようですが、ならば昭恵夫人と一緒に刑事責任を負ってもらいます』と急所を衝いた格好です」

 結局、昭恵夫人が「公人」だったほうが、むしろ都合がよかったのではないか。首相夫人は公人であり、だからこそ24時間365日、国家公務員がスタッフとしてサポートする。「そのため選挙応援にも同行させてしまったが、これは私のミスで申し訳ない」と昭恵夫人が陳謝すれば、追及は終わりだったかもしれない。

 いずれにしても「反アベ」的な告発だ。大手マスコミの報道と検察の動きは密接な関係にあるが、果たして捜査は行われるのか。関係者は「捜査しなければ、逆に大変なことになります」と断言する。

「半ば流行語になっている『忖度』ですが、安倍政権に批判的な告発を無視すれば、財務省の次は検察が忖度したのかと世論がヒートアップすることは確実です。
安倍政権に対する批判的な声が強まることは絶対に避けたいわけです。となれば、森友学園本体への捜査と並行して進めざるを得ません」

●さらに長期化、泥沼化する可能性

 今後、大手メディアが告発問題を本格的に報道する場合、世論の反応が注視される。

「世論の反応は2通りの可能性があると思います。ひとつは『職員のせいにするなんて、昭恵夫人はひどい人だ』という夫人への批判がわき起こるパターン。もうひとつは『責任は昭恵夫人が負うべきで、なんの責任もない職員をいじめるのはけしからん』と告発側を非難する風潮が出ることです」(同)

 政権の命運は、まさに世論が握っているわけだ。

 それにしても、もう終わりかと思った瞬間に新しいネタが登場する。森友問題の息の長さには驚かされるが、関係者は「さらに長期化、泥沼化する可能性もあります」と言う。

「野党が森友問題をどれほど追及しても、野党の支持率は回復しません。都議選は小池百合子新党の一人勝ちの可能性が高い。自民党も敗北し、党内の勢力図が書き替えられるはずです。昭恵夫人に批判的な世論が形成されるほど、問題の幕引きは困難になります。一部の大手メディアは安倍政権の『倒幕』を目指して本気モードだといいます。
安倍政権側が強気で封じ込めようとしても、難しい状況に追い込まれてきました」

 安倍首相の支持者でも不支持者でも、東京都民でなくとも、やはり6月23日告示の都議選は大注目のようだ。
(文=編集部)

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