7月21日に放送されるスペシャルドラマ『ぼくらの勇気 未満都市2017』(日本テレビ系)が異例尽くめだ。20年前の連ドラ続編、当時のキャストが再集結、国民的アイドルとなった相葉雅紀と松本潤が脇役で共演、17年前に芸能界を引退した小原裕貴さんの出演……。
しかも、連ドラの最終回で「20年後の今日、またこの場所に集まろう」というセリフで別れた登場人物たちが本当に再会するのだから、「よくぞ約束を守ってくれた」と喜びを感じる視聴者は多いだろう。
20年前、「俺たちはあんたたちみたいな大人にはならない。絶対な」と言っていた彼らが、20年の歳月を経て、どんな大人になったのか。役柄と俳優の姿をオーバーラップさせて楽しむドキュメンタリーのようでもある。
●堂本光一と堂本剛はドラマ共演自体が20年ぶり
移り変わりの早い芸能界において、「20年後に同じ役を演じる」のは、俳優として極めてレアな体験。長期密着ドキュメンタリー作品に出演しているようなものであり、過去の記憶をたどりつつ、想像でイメージをふくらませるという役づくりが必要になる。
堂本光一は「大人たちに立ち向かっていた自分たちが今は大人になり、逆の視点から感じた真っ直ぐな思いを再びヤマトを通して表現できる楽しみを噛み締めています」、堂本剛は「あの頃の若さゆえの真っ直ぐな正義感、純粋な気持ちを懐かしく思いながらも、大人になったタケルを生きたいと思います」とコメント。ヤマトとタケルがどうというより、まるで「成長したオレを見てほしい」と言っているように見える。
KinKi Kidsは、1994年の『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』、96年の『若葉のころ』(ともにTBS系)のあと、97年の当作を最後にドラマ共演していない。つまり、2人にとっては連ドラ共演そのものが20年ぶりとなり、久々に俳優として対峙した緊張感のなかで、互いの成長を感じ合ったのではないか。
さらに、連ドラで弱虫キャラのモリを演じた松本潤、ヤンキーのアキラを演じた相葉雅紀が、成長した姿をどのように見せるのか。
そもそもジャニーズのタレントは、少年から大人に成長していく姿をファンが応援し、見守るタイプのタレントであり、「20年ぶりの続編」という当企画はうってつけ。あどけなさやみずみずしさを感じさせた少年時代から、落ち着きと余裕を感じる大人の俳優へ。光一、剛、相葉、松本にとっては、視聴者に成長した姿を見せるとともに、ジャニーズの後輩たちにお手本を示すという意味合いも大きいはずだ。
●ヤマトとタケルを追い詰める向井理に注目
連ドラ版の主なあらすじは、以下の通り。
高校生のヤマト(堂本光一)とタケル(堂本剛)は、「大地震が起きた」という町・幕原を訪れる。しかし、地震というのは政府による情報操作で、実際は国が研究していた微生物によって大人が死に絶え、子どもだけが生き残るという過酷な状況だった。感染拡大を防ぐために封鎖された町は、子どもが食料を奪い合い、暴力が横行する異常事態。ヤマトとタケルは子どもたちとぶつかりながらも結束を強め、勇気だけを武器に政府の陰謀に立ち向かっていった。
97年当時は、同世代の視聴者に向けたメッセージ性の強い作品だったが、続編もその方向性は健在。ヤマトとタケルのような大人になった世代に、「今のような生き方でいいのか?」「あのころ嫌いだった大人になっていないか?」と問いかけるような展開が用意されている。
2017年、ヤマトは中学教師、タケルは弁護士、アキラは一級建築士、モリはレストラン経営者、キイチ(小原裕貴さん)はバス運転手、スズコ(矢田亜希子)はシングルマザーとなっていたが、それぞれに問題を抱えていた。
今回の敵は、前回同様に政府なのか? 20年過ぎてなお、隠蔽体質は改善されていないのか? 現代日本にも通ずる問題だけに、放送後の反響が楽しみだ。
そしてある意味、政府以上に手強いのは、“大人になった自分”。ヤマトやタケルたちが、あきらめ、見て見ぬふりをし、迎合しそうになる自分との戦いも描かれるだろう。若さゆえの純粋さや正義感は残っているのか? 20年前のように再び仲間のために立ち上がるのか? 20年前から続投するキャスト全員に、そんな心の機微を表現する繊細な演技が求められる。
一方、新キャストの注目は、幕原復興本部・本部長付の左山を演じる向井理。ヤマトとタケルを追い詰めるのが、同じ時代を生きてきた同年代の男というのが興味深いところ。クライマックスでは、お互いの思いがぶつかり合うシーンが見られるのではないか。
●唯一の不安は自主規制?暴力シーンの再現なるか
唯一というべきか、20年という歳月の不安を感じるのは、テレビ局サイドの自主規制。20年前の連ドラ版では、少年が少年をナイフで刺すシーンをはじめとする暴力シーンが多く、身を削り合うような戦いが見どころのひとつとなっていた。なかでも、最終回で見せた政府との抗争シーンはド迫力だっただけに、「あのレベルを再現できるのか?」という懸念が残る。
多少の不安こそあるが、もはや都市伝説のようになっていた作品を復活させたこと。
さらにいえば、現在20年前の連ドラ版を動画配信サービス「Hulu」で配信しているが、ユニークユーザー数で上位にランクインするなど、営業面でも貢献している。これで続編の視聴率も獲れたら、話題性に加えてビジネスとしての収支も万々歳だろう。
20年という歳月の重みがある分、見る側のハードルが高くなるのは間違いない。しかし、「見事な続編だった」「続編なんてやらなきゃよかった」。どちらの声が多数を占めたとしても、安定志向のテレビ業界において、これほどの果敢な挑戦は評価されるべきだ。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)