飲食店開業のコンサルティングをしていると、しばしば「キッチンカー・移動販売車」(以下、キッチンカー)の起業について相談を受けます。最近のオフィス街では、カラフルなキッチンカーがカレーライスや鶏唐揚げ、角煮丼、ハンバーガー、かき氷、ピザ、串焼きなど、さまざまな食品を売っています。
では、キッチンカーは儲かるのでしょうか? また、初期投資額や注意点はなんでしょうか? 今回は“キッチンカー請負人”こと石井浩昭氏(株式会社和空企画代表)に話を聞きました。
――キッチンカーの商売は儲かるのでしょうか。
石井代表(以下、石井) 売上は、狸の皮算用です。どこで・何を・誰が売るかによって変わってしまう不確定要素に大きく左右されるものです。儲けとは「売上-費用」ですから、売上よりは「費用が抑えられるから儲かる確率は上がる」という視点でキッチンカーの商売をおすすめしたいと思います。
その理由には大きく分けて以下の3つあります。
(1)初期投資額が低い
一般的に固定店舗の飲食店開業の平均開業資金は1,000万円といわれています。しかし、現在その開業資金を全額すんなりと金融機関で借りることは困難な状況です。金融機関での平均融資額は、一般的に自己資金と同額といわれています。つまり、1,000万円の開業資金をつくるためには、まず500万円の貯金をする必要があります。多くの飲食店希望者は、その自己資金をつくるために、まず5~10年以上を費やすことになります。
それに対してキッチンカー開業にかかる資金は、すでに使用する車両を保有している場合、最低限保健所の許可を得られる設備を整えても、30万円あればキッチンカーをつくれます。
もし現在車両を持っていない場合でも、100万円あればつくれます。当面の運転資金を50万円と考えると150万円あれば開業できます。この初期投資の低さこそが、最大の魅力だと思います。
(2)リスクが低い
もし固定店舗で出店した場合には、たくさんのリスクが潜んでいます。私が厨房機器のリサイクルを通じて多くの飲食店閉店に携わった経験から言うと、「人の流れが変わるリスク」「家賃値上げのリスク」「立ち退きのリスク」「撤退時のリスク」「不可抗力のリスク」があります。
「人の流れが変わるリスク」は、隣駅で大きな商業施設が建って客足が激減したなど、特に立地勝負の飲食店において、このリスクが高いです。
「家賃値上げのリスク」は、うまくいっているお店であればあるほどこのリスクが伴います。そういうお店ほど、契約更新時に家賃値上げを要求され泣く泣く要求を呑んだり、移転せざるを得なくなりがちです。
「立ち退きのリスク」としては、駅前開発や道路拡張などで立ち退きを余儀なくされる飲食店も決して少なくありません。特に都心の場合は年に数件、このケースに関する相談を受けます。
「撤退時のリスク」は、原状回復やスケルトン工事など物件契約で撤退にも費用がかかることです。
「不可抗力のリスク」の例としては、近年では2011年の東日本大震災で多くの飲食店がダメージを受けました。日本は地震大国という点も、忘れてはいけないリスクです。ビルや設備の老朽化に伴う漏水被害などの影響で、休業を余儀なくされるお店も決して少なくはありません。最近では病気や怪我などの健康問題や、親の介護でお店をたたんで故郷に帰らざるを得ないという飲食店オーナーも増えています。
(3)拡張性が高い
初期投資を可能な限り抑え、損益分岐点をできるだけ短期間で超え、利益率の高いビジネスモデルに変換できれば、未来に向けて大きなアドバンテージになります。
固定店舗に比べて大きく違う点は、毎月固定的な家賃を払う必要がないという点です(移動先の出店料や駐車場代等はかかります)。固定の店舗では、営業が続く限り家賃を払い続ける義務がありますが、キッチンカーではその心配はありません。
開業資金額が低い上、回収も早く利益体質が早期に実現可能なこと、その実績を持って本来やりたかった固定店舗を始めるもよし、新たにキッチンカーを増車して業務拡大をするもよし、最初の飲食店開業を固定店舗にするかキッチンカーにするかで、次の一手に大きな差を生みます。
●出店場所を確保する
――移動販売ビジネスは場所を確保できていなければ警察とのいたちごっこで苦労するといわれますが、注意点はなんでしょうか。
石井 確かに、出店場所が決まらないままで、行き当たりばったりの出店では難しいですね。
・自由市場 PAWMO(パウモ)
・軒先.COM
・移動販売ナビ
・ネオ屋台村
・YF PLANNING
・移動販売どっとこむ
・ドリームピノキオグループ
・エムズカンパニー
・CBケータバンク
・イベントワールド
・みんなの町の移動販売と屋台
・イベント.jp
――いろいろありますね。販売場所を確保できれば、キッチンカーは起業の1形態としておすすめだと思います。ほかに注意点はありますか。
石井 キッチンカーの許可申請は都道府県ごとに内容が異なるので、事前にしっかりと内容を確認することが必要です。出店場所・エリアをある程度意識しながら行動に移すほうがいいでしょう。
――キッチンカーは初期投資が低い分、その後の展開が早いですし、フェスや催事、季節的なレジャー地へ攻めてゆく機動力もあります。家賃の低い居抜き店舗を借りて、そこをセントラルキッチンにして販売はキッチンカーでというやり方に力を入れる商売も、今後増えてゆくことでしょう。今回は貴重なお話ありがとうございました。
(文=江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部代表)