街中で、超細身のスーツを着たビジネスパーソンを見かけることがある。

 しかし、「細身のスーツはビジネスにおいて信用されない服装です。

『仕事ができるように見せたい』『モテたい』という目標があるなら、手出しは無用です」と語るのは、『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。 会話術を磨く前に知っておきたい、ビジネスマンのスーツ術』(CCCメディアハウス)の著者でイメージコンサルタントの石徹白未亜氏だ。

 細身スーツの問題をはじめ、スーツにまつわる間違った価値観や社会に出ても教えてくれない“スーツのルール”について、石徹白氏に話を聞いた。

●スーツを着たときに大切な「後ろ姿」とは?

――ものすごく細いスーツを着ている人を街中で見かけます。

石徹白未亜氏(以下、石徹白) そういう人は、「スーツは細ければ細いほどいい」という価値観なのでしょう。わずかなゆとりすら「もたつき」と悪いことのように感じ、スキニージーンズを探すような感覚でスーツのスラックスを探しているのでしょうね。


 スーツのスラックスとジャケットのサイズは対になっているので、細身のスラックスを着る場合は、ジャケットもボタンを留められないか留められたとしてもはち切れんばかりの過剰なほど細身のものになります。

 そういう人は「前から見た状態」だけで服を選んでいます。ですが、試着した際は自分の後ろ姿を鏡で見てほしいのです。体に合わない過剰に細身なジャケットを着ると、ジャケットのベント(切れ込み部分)がパカッと開いてしまいます。実際に、こういう方をよく見かけます。

――確かに、これはみっともないですね。


石徹白 本人は鏡で正面しか見ずに満足しているのかもしれませんが、他人からは後ろ姿も見えています。そもそも、後ろから見てベントがぱっくり開いているようなスーツを着ている状態は、まわりから「無理に細いのを着ているなぁ」と思われるだけです。カッコいいと思っているのは本人だけでしょう。

――スタイリッシュに見せたかったはずなのに、周囲に「無理している」と思われるのは悲しいですね。

石徹白 はい。悲しいだけでなく、「脇の甘い人」「ナルシストな人」などと思われることもあります。
はたして、「仕事ができそう」「信用されそう」「モテそう」という印象につながるかどうか、よく考えてみてほしいですね。

 バブルの頃にはやったゆるいスーツの反動で、今は過剰なほど細身のスーツを着ている人が少なくありません。「ゆるい」も「過剰に細身」も、どっちもダメです。ジャストサイズが一番洗練されて、賢そうかつモテそうに見えます。試着すればすぐにわかることなので、スーツを買う際には必ず試着しましょう。試着できないインターネット通販で買うのはNGです。


――ベントの開きについて話がありましたが、後ろ姿を自分で見るのは難しいですよね。

石徹白 スーツを買う際に、お店に合わせ鏡があれば自分でも確認することができますが、ない場合は店員さんを上手に頼りましょう。ジャケットのボタンを留めた状態で後ろのベントが開いていないか、店員さんに見てもらってください。

 なお、ボタンは二つボタンなら一番上のボタンだけを留めるのが正しい状態です。ボタンは立っていたら留め、座っているときは外して大丈夫です。「どのボタンを留めればいいのか」といった基本的な着方のルールは、本来は家庭科の授業で教えるべきだと思います。


 ルールを知らないから、「スーツは細ければ細いほどカッコいい」という間違った思い込みにハマッたり、チャラい先輩の真似をしたり、ごく一部でしか通用しないローカルルールを鵜呑みにしたりしてしまうのです。そのため、印象で損をしている人は非常に多いです。同僚も取引先もみんながチャラい職場であれば超細身のスーツでもいいでしょうが、そんなケースはほぼありません。

●スーツを買いに行くときのベストな格好は?

――先ほど「店員を頼る」という話がありましたが、「店員が来ると逃げ出したくなる」という人は少なくないでしょうね。

石徹白 気持ちはわかります。ですが、ユニクロでカジュアルウェアを選ぶときと違って、スーツは自力で選ぶのがとても難しい商品です。
売り場に吊るされている状態では、ほとんど違いがわかりませんよね。

 スーツのサイズは、店舗によっては「身長170cm、やせ型の人向け」などと表記されていますが、JIS規格でも定められています。たとえば「A-5」の場合は前半の「A」が胸囲とウエスト幅の差であり、差が大きい人、つまりウエストが絞られた逆三角形体型の人の順からY→A→AB→BEになります(※ほかにもサイズあり)。

 後半の数値は身長で「5」は「身長170cm」を表し、5cm刻みで変わるため、「4」なら「身長165cm向け」になります。

――それがわかれば、自力でも選べそうな気もしますが。

石徹白 ただ、同じ「A-5」でも、店舗によっていくつかの形やデザインが用意されていることが多いです。その違いは、ハンガーに吊るされた状態で見てもわからないですよ。店で用意している型を知り尽くし、日々接客を通じて研鑽を積んでいる店員さんに自分の好みを伝えて持ってきてもらうのが、楽で失敗しない方法です。

 店員さんの接客によって満足度が高く気持ちのいい買い物ができた場合は、今後も「ご指名」するのがいいでしょう。スーツ選びのコツは、プロの力を上手に頼ることです。

 しかし、店の中にいるのにスマートフォンで「似合う服の選び方」みたいなライフハック系サイトを必死で見ている人すらいます。目の前の店員さんに聞けば3秒で解決し、さらに自分に合った回答を与えてくれるのに……。

 そういったサイトに匿名やハンドルネームで書いている人の素性なんてわかりませんが、目の前の店員さんは服で食べているプロです。目の前の生身のプロよりもスマホの誰が書いたかわからない情報にすがる姿を見ると、情報化社会の暗黒面を感じますね。

――スーツの「買い方」について、コツなどはありますか?

石徹白 たくさんありますが、まずは今持っているものよりもいいスーツを選びたいのであれば、「今一番だと思っているスーツ」を着て買いに行きましょう。たとえ休日であっても、スーツを着て買いに行ってください。

 この程度のことを面倒だと思うなら、スーツの着こなしは一生向上しません。今よりスーツ姿をよくしたいなら、「今」と比較しなくてはいけません。「頭の中にイメージがあるから大丈夫」という人もいますが、イメージなんて自分に都合よく脚色されるので、まったくあてになりません。

 また、マイベストのスーツを着ていけば、店員さんにも「この人はこのくらいのサイズ感やデザインが好きなんだな」と的確に伝えることができます。

 私服でも「この服は手持ちのあの服に合いそう」と頭の中で考えて、いざ買って帰宅して合わせてみると「あれ?」となったことのある人もいるはずです。比較対象や合わせたい服を必ず着ていくこと。この一手間が、センスアップのカギです。
(構成=編集部)