「りらくる」の屋号でリラクゼーション・チェーンを展開している株式会社りらく。2009年創業以来、8年目で580店を達成(11月1日現在)。
●すべてが紙とファックスで廻っていた
――御社の店舗には店長がいないのに驚きました。受付や事務担当のスタッフもいない。
出上幸典氏(以下、出上) どのセラピストがどの店に入店するかは流動的です。出勤したセラピストは誰でも予約の電話を取り、予約を受けます。セラピストは社員ではなく個人事業主で、当社は皆さんと業務委託契約を結ばせてもらっています。お店自体がセラピストによる商店街といった構造です。
――お店の掃除や現金管理は、誰がやることになるのですか。当番制などですか。
出上 掃除についても、売上金を銀行やコンビニのATMに入金してもらうのもセラピストにやってもらいます。若干ですが、それらに対する報酬を払います。売上金の入金トラブルが起きたことはありません。
――正直、床屋さんと同じような直接的なサービス業だと思っていたので、そんな先進的な経営モデルを意識的に実践されていることに感心しました。出上社長がこういう先進的なモデルをお考えになったのですか?
出上 私が主導してIT化へ舵をとりました。私は2012年に入社しまして、事業推進部という部署で店舗管理を行っていました。当時の店舗数は100店ほどでしたが、じきに150店となりまして……。
――業容が拡大して、問題が起きたと。
出上 はい。当時からビジネスモデルそのものは現在と同じだったのですが、その管理を紙で行っていたのです。
――店長がいないシステムですから、本社に紙が来ていたと。
出上 店の日報がファックスで来ていました。それ以上に、何千人にもなっていたセラピストの入店希望表がファックスで来ていました。本社ではそれらをITに再入力して、ヒトが判断して入店予定表をつくって、セラピスト各自にファックスで送り返すと。月々の支払いも事前に紙とファックスでセラピスト個々人に確認してもらっていました。
――それは、想像を絶するような管理体制ですね。
出上 これではさらなる成長、店舗やセラピストの増大に対応できない、ということで大胆にIT化に踏み切りました。今では店でもセラピストさんもタブレットなどで当社のシステムに入り、直接報告や登録を済ませることができます。
――顧客管理も大したものですね。
●入社面接で社長就任を要請された
――社長はオペレーションのシステム化など、IT分野にお強いようですが、どのようなご経歴なのですか。
出上 大学を出てシステム会社でSEとして6年勤めました。転職していくつかの会社で経営企画の部門に10年ほどおりました。
――SEと経営企画ですか。りらく社のオペレーションをIT化するのに、本当に適したバックグラウンドだったのですね。りらく社にスカウトされたのですか。
出上 いいえ、12年に一般応募で普通に入社しました。ただ入社面接で創業者の竹之内教博(たけのうちゆきひろ)にいきなり「将来、社長になってもらうから入社してほしい」と言われたのには驚きました。
――創業者の方というのは?
出上 大阪で美容室を5、6店やっていた実業家でした。ビジネスの仕組みを考えるのに優れた経営者です。竹之内は基本的な当社のビジネスモデルを最初から展開していました。しかし、それをIT化することにより、さらなる業容拡大を志向していたのだと思います。
――りらく社に応募したのは、どんなところに惹かれたのですか。
出上 私は以前からもみほぐしが好きだったんですね。当時は月に1回ほど行っていたでしょうか。でも、好きだからこそ、「もっと行きたい」「さらに行きたい」という気持ちが強かった。そんな自分だったので、りらく(当時の屋号)の価格やシステムは魅力的に映りましたし、伸びていくだろうと思いました。そして実際に急速に伸びていました。
――入社してからは事業推進部に属され、前述したIT化を推し進められたわけですね。
出上 おかげさまで、直面していた成長限界は打ち破ることができたと思います。
――ヒラで入社して3年間の間に3回昇格して、社長ですか。やはり、その路線が敷かれていたように聞こえます。欧米の会社だとファスト・トラック(特別昇格予定路線とその対象者)といいます。
●38歳の若手経営者、1,000店を達成して海外展開へ
――ITを活用したオペレーションのシステム化のほかには、どんな戦略をお打ちになってきたのですか。
出上 たとえば店舗同士は5km以上離す、というのもノウハウでした。しかし、IT導入のおかげでPOS(店頭)情報が充実し、需要があるとわかれば既存店へ近接する出店も行うようになってきました。
――出店戦略の見直しですね。
出上 はい。それから、以前はりらくるの出店戦略としてはロードサイドで家賃が安い、駐車場がある、といったモデルでした。必然的に都市部や繁華街は避けてきました。
――これからさらに業容を拡大していく上で、経営上のネックはなんだとご判断ですか。
出上 「25年に1,000店を達成」という目標を16年に掲げました。これには3つの要素が必要です。ひとつはお客様、つまり市場です。2つ目は店舗立地の確保。そして最後がセラピストの確保です。りらくが提供しているリラクゼーション業の市場というのは大きくなる、と確信しています。ですから、市場の存在については問題ない。社員数は現在250名ほどですが、これもIT化を進めているので、そんなに増えることはないと思います。
――フランチャイズを考えていない、直営店路線なわけですね。自ら発掘しなければならない店舗の候補地はどうでしょう?
出上 店舗開発についても十分自信があります。
――では、課題はなんでしょうか?
出上 セラピストの確保、これが最大のチャレンジだと思っています。現在でも週末などはお客様のご予約を30-40%お断りしているのが現状です。需要をこなしきれていない、セールス機会ロスが発生しているのですね。
お客様からセラピストになる方も多いなど、私どもが提供している就業機会は魅力的なものだと思っています。就業の自由度は高いし、やり方次第で高収入も可能です。これらの魅力をますます高めて、就業へのハードルをさらに下げていくことによって、多くの方にセラピストとして参画してもらいたいと思っています。
――現在の売上金額などは?
出上 公開企業ではないので細部は公表していませんが、17年12月期は年商280億円ほどを予定しています。15年12月期は250億円ほどでして、対前年比110%の伸びを達成しました。
――本日はありがとうございました。ご発展をお祈りしています。
出上 ありがとうございました。またお店のほうにおいでください。
●対談を終えて(山田の所感)
りらくるといえば、2,980円(ニッキュッパー)という安値攻勢をかけて急成長をしてきたという印象を一般に持たれているのではないか。出上社長との対談で、その価格を実現できている店舗オペレーションの究極のコスト削減、そして先進的なITシステムによる入退店管理の構築に感心した。シェアリング・エコノミーのなかでも、特にワーク・シェアリングという分野で先行しているモデルケースだろう。
今の段階では、セラピストの入退店マッチング、つまり内向きのシステムとしてIT管理システムを同社は使用している。次の段階としては、ウーバーのように消費者が使えるアプリを導入して、客の予約、そして自動的にセラピストの指名まで完了するところまで昇華させるとよい。
そしてそこまでシステムをつくりこめば、本部側の管理業務は大幅に低減され、あるいは関与がまったく不要となる。そうなれば、現時点での目標、国内1,000店を達成した後には海外展開、特にアジアのマーケットが狙えるのではないか。ITのアプリ化を整備すれば、グローバルにそれを駆使することができる。ウーバーのように各国での直営モデルでもよいし、それぞれの国で地場パートナーにライセンシングするのもいいだろう。
出上社長、38歳、りらくるのビジネスを在任中どこまで拡大していくのか、とても楽しみな経営者だ。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)