元国税局職員、さんきゅう倉田です。おすすめの公務員試験は「東京都庁」です。



 国税局には、特別国税調査官という役職があります。「トッカン」と呼ばれ、数年前にドラマの題材にもなりました。正確には、ドラマになったのは「特別国税徴収官」ですが、この「特別○○」にはいくつかの種類があります。

 国税局や税務署の職員の名簿は一般に公開されていますが、その中には税務署の総務部に所属し「アツガミ」と呼ばれるトッカンと、税務署の各課税部門に所属し「ウスガミ」と呼ばれるトッカンがいます。アツガミは税務署副署長級の役職で、若い頃から継続してある程度優秀でないとなれません。ウスガミは、定年退職前の“ご褒美”で上席国税調査官から昇級することがあります。

 そんなひしめくトッカンの中には、ひとつの税目に縛られずに調査を行う総合調査担当がいます。通常、法人課税部門のトッカンは法人税や源泉所得税、消費税だけの調査を行い、個人課税部門のトッカンは所得税や消費税の調査を行い、資産課税部門のトッカンは贈与税の調査を行い、総務部のトッカンは法人税担当なら法人税や源泉所得税、消費税・所得税担当なら所得税や消費税の調査を行います。それは、支給された質問検査章の税目の調査しか権限がないからなのですが、総合調査担当はこれらの税目を股にかけることができるのです。

●悪魔的所得隠しが判明

 ある総合調査担当特別国税調査官と特別国税調査官付の管轄の繁華街に、活況を呈しているキャバクラがありました。ホームページでは、在籍する女の子たちの写真やシフトを公開しており、記載に誇張があったとしても、ある程度のホステスの数が確認できます。

 会社名で国税局内のシステムに照会をかけたところ、該当する法人はありません。
よって、「無申告」であることが想定されます。法務局に照会をかけ、この法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を確認すると、事業内容は「イベント企画会社」となっており、飲食店の運営は記載されていませんでした。

 代表取締役は数年前に変更され、登記簿上の代表者住所に出向くと、築50年は超えていそうなトタンのアパートが建っており、水商売の社長の家とは到底考えられません。日中に店舗の前で様子を伺っていると、高級車で乗り付けた「社長」と呼ばれる30代の男性がやってきました。登記されている代表取締役は、70歳であることがわかっています。この社長の自動車のナンバーを控え、陸運局に照会をかけると、名前や住所が判明しました。

 調べていくと、社長は美容院、ネイルサロン、ドレスのレンタルなど、手広く事業を行っていることがわかってきました。キャバクラのホステスは、店で働く際には、系列の美容院とネイルサロン、ドレスのレンタル店を利用させられ、その費用はすべて給与から天引きされていました。同時に、源泉徴収も行っているようでしたが、この会社からの源泉所得税の納付実績はありません。源泉徴収で預かったお金も、社長が個人的に費消しているようです。税金も払わず、従業員からも搾取するという、なんとも“商売上手”な悪人です。

 店舗を運営する会社も社長も無申告、美容院、ネイルサロン、ドレスのレンタル店もそれぞれ別法人が運営していましたが、いずれも無申告という、悪魔的所得隠しが行われていたため、帳簿の破棄や隠匿を回避するために、無予告で一斉に調査をすることになりました。
いわゆる「ガサ入れ」です。

 社長にはキャバクラのホステスの中に愛人がおり、彼女への多額の贈与も想定されました。課税逃れは、所得税、法人税、消費税、贈与税など他税目にわたり、継続的な調査が必要となります。このように、総合調査担当の特別国税調査官は、税目を横断して税務調査を行うこととなります。

 幸い、今回の事案は裏帳簿が作成されており、それを基に課税所得を復元し、社長の役員給与は、預金通帳や愛人宅の家賃、自動車の購入記録などから把握、すべて無申告加算税と重加算税を賦課して、40%の加算税となりました。

 このように、悪質な事案に関しては、厳正に対処するとともに、通常の調査部門を超えて調査できる特別調査官が対応することがあります。「天網恢恢疎にして漏らさず」なのです。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)

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