日本ハムは1月29日、臨時取締役会を開き、末澤壽一社長が取締役となり、畑佳秀副社長が社長に昇格する同日付の人事を決めた。畑氏は財務・経理部門出身で2015年4月から副社長を務めていた。
この人事の直後の2月15日発売の「週刊新潮」(新潮社/2月22日号)は、末澤氏はセクハラが原因で社長を辞任したと報じた。「新潮」の取材に対し日本ハムは、末澤氏ら一行が昨年10月6日、羽田空港のVIPラウンジで女性アテンダントにセクハラを行ったことを認めているが、この報道前から、今回の電撃辞任劇をめぐってある情報が飛び交っていた――。
●本拠地移転問題
末澤氏は1976年に日本ハム入社。専務執行役員食肉事業本部長などを経て、2015年4月に社長に就任。同時にプロ野球球団、北海道日本ハムファイターズのオーナーに就いた。社長を辞任したが、オーナーにはまだ留まっている。
球団オーナーは創業家の指定席で、創業者の大社義規氏がオーナーを務めてきた。義則氏の甥で、養子の啓二氏が日本ハムの社長に就いたが、牛肉偽装事件で社長から専務に降格。その後、啓二氏は球団のオーナーに就任。12年からはオーナー代行になっていたが、現在ではその職も退いている。
日本ハム社長と球団オーナーを兼務した末澤氏は、最大の課題に取り組んできた。ファイターズの本拠地移転問題である。
札幌市の第三セクターが運営する札幌ドームは、ファイターズが北海道に進出してきた04年から本拠地として使われている。多目的球場のため観客席の傾斜がきつく、巻き取り式の人工芝が選手の体に負担となっている。何よりも札幌ドームの使用料の高さに悩んでいたことから、球団は16年5月、自社所有の新球場を造ることを明らかにした。
ここから札幌市と北海道北広島市との間で、誘致合戦が繰り広げられた。札幌市は2カ所(北海道大学構内と道立産業共進会場跡地周辺)、北広島市は「きたひろしま総合運動公園」を建設地として、それぞれ球団に提案。しかし、札幌市の2カ所は球団が必要とする面積を満たしていなかった。そのため、札幌市は1972年の冬季五輪大会で使用された道立真駒内公園を3番目の候補地として提案した。
札幌市は、屋外競技場を取り壊して新球場を建てる案、北広島市は商業施設やキャンプ場を併設した「アジアNo.1のボールパーク」を目指す壮大な新球場計画をアピールした。球団は、候補地を真駒内公園と北広島市の2案に絞って検討すると表明。2018年3月までに一定の方針を出すことにした。
そんななか、1月30日付毎日新聞・東京版朝刊が、「球団が移転先の候補地について、北海道北広島市のきたひろしま総合運動公園に絞り込んだ」と関係者の話として報じた。北広島市の公園は最寄り駅から遠く、交通の便が悪い。球場を建てるには新駅設置などが不可欠になる。北広島市に絞り込んだという報道に真駒内公園派は大反発。その最中に、北広島派と真駒内公園派の板挟みにあった末澤氏の、突然の辞任となった。
「球団の北広島市への本拠地移転報道が、末澤氏の事実上の解任の引き金になったともいわれていました」(関係筋)
前出「週刊新潮」の取材に対し日本ハムは、末澤氏の社長退任の理由について「いろんな心労が重なって辞任しました」とコメントしているが、自身のセクハラ問題に加え、本拠地移転という難題をめぐる心労も影響しているのではないかと、関係筋の間ではみられている。
●大谷選手の“功績”
日本ハムの18年3月期の連結決算予想は、売上高が前期比5.6%増の1兆2700億円の増収。営業利益は人件費上昇の影響で520億円と3.3%減の減益だが、最終利益は5.7%増の370億円になる見込み。傘下のファイターズから大リーグ・エンゼルスに移った大谷翔平選手の移籍金22億7300万円が入り、これを収益に計上するため最終増益となる。本業の不振を大谷選手が救ったわけだ。
ファイターズは、怪物ルーキー、清宮幸太郎フィーバーに沸く。数年後、清宮選手のホームランを見ることができる球場は札幌の真駒内公園か、北広島市のボールパークか――。
(文=編集部)