少子化という社会的大変動の影響を受けてきたのが教育産業である。学校だけでなく、大手予備校も規模の縮小を余儀なくされて、学習塾や進学塾も講義形式から個別指導へと商品の軸足を移してきている。
学校以外での英語教育に目を移すと、需要は高い一方、多岐にわたるプログラムと教育機会が巷に溢れ、供給側の競争が激甚になっている。大手英会話学校だったNOVAやジオスの倒産も記憶に新しい。
ところが、これら2つの不利が重なっていると見えるセグメントで、小学生から高校生までをターゲットとして英語教育を展開し、急成長している企業がある。この春、東京・渋谷に新校舎を開設したJ PREP斉藤塾の斉藤淳代表に、その志を聞いた。
●1年間で生徒が1250名増加
――先日は新校舎お披露目パーティにお呼びいただき、ありがとうございました。
斉藤淳氏(以下、斉藤) おかげさまで3月10日に新校舎に移設させてもらいました。この校舎は地下1階、地上7階で床面積が1,300平方メートル(約400坪)あります。約20名定員のクラスルームが16教室、地下階には自習ホールと教材を録音する複数のスタジオなどがあります。
――教室以外には?
斉藤 英語教育のほかに学童保育事業を運営しています。学校が終わった後の小学生を預かり指導しています。その施設に1フロアを、そのほかに7階はスタッフルーム、いわば事務フロアです。ここ1階はライブラリー兼ファカルティ・ラウンジ、チューター(個別指導)スペースとしました。
――このラウンジは壁もなく、オープン・スペースですね。
斉藤 はい、タイプが異なるテーブル類やソファまで備えて、カジュアルにリラックスできる空間を目指しました。すべてのテーブルの天板の下に電源があり、パソコンなどをどこでも使えるようにしています。
――居心地がよさそうですね。
斉藤 生徒が気軽にチューターに相談しやすいというか、遊びに来やすいような環境を目指しています。無料で飲めるコーヒー・サーバーも置いて、みんなが集まってくれるように、と。
――本棚に置かれているのは教材だけではありませんね。
斉藤 英語の絵本から始まって、英文学の古典や図鑑など、知的好奇心をそそるものを揃えています。欧米の大学で使われているテキストも置きました。
――本棚のレイアウトやライティング、リラックスできるオープン・スペースのデザインがとても洒落ています。
斉藤 設計してくれたのは、辻本祐介さんという方です。この新校舎の設計では、最先端のオフィスを開発してきたコクヨとチームを組んでくれたこともあり、機能性もとてもよく仕上がっています。
良い仕事をしていただいて、大いに満足しています。
――辻本さんは、グッドデザイン賞を受賞したホテルや予備校のリノベーションなどに、いくつもかかわった方ですね。この校舎も建築作品として取材や見学の対象になるのでは。
斉藤 今でも、外を通りがかる方で中を覗き込む人の割合がとても多いです。学習塾だと気づくまで時間がかかるようです。
――棚にはTOEFLやSATなど留学英語試験の問題集もありますね。
斉藤 当校で一番上の学年というと、大学受験生です。今年度は国内大学受験で50名、海外大学受験で7名を指導しました。近年、卒業学年の約1割が海外大学に進学しています。国内大学受験組では、医学部に進学する生徒が多いです。医師のキャリアに英語力は不可欠ですからね。
――私も留学歴があり、よくわかるのですが、学部への留学は下手をするとMBA留学より難しい。
斉藤:J PREPからの海外進学組は、今まで全員が海外帰国子女というわけではありません。普通の中学生、高校生だったのですが、当校に通っているうちに刺激を受けてそのような志を持ってくれた生徒も数多くいます。
●キモはプログラムと教員の質
――新校舎を開設したということは、生徒の数が増えてきたからですね。
斉藤 昨年3月末での在籍者は学童保育100名、小学校低中学年の英語コースの生徒250名、小学校5年生以上の英語教室で2000名でした。今年3月初めに全体の合計が3600名を超えるまでになっています。
――1年間で5割以上増えたわけですね。よほどPRに力を入れているのでしょうね。
斉藤:J PREPでは広告宣伝については抑制的に展開しています。その費用をむしろ教材開発と、質の良い教師の確保に充てているつもりです。
――ファカルティ(講師)の陣容は?
斉藤 現在日本人講師が約50名、ネイティブ・スピーカの講師が30名ほどの構成です。ひとつのクラスで日本人講師とネイテイブ講師がチーム・ティーチングを行うのが当校の特徴です。
――ネイティブの講師は、すでに日本に居住している外国人を採用しているのですか。
斉藤 多くの外国人講師は世界中から応募して来てくれています。私がイェール大学で教鞭を執っていたネットワークからも来てくれています。出身大学としてはハーバード大学院、オックスフォード大学院、ロンドン大学などで学んだ外国人講師がいます。
――海外での採用は書類選考なのですね。
斉藤 いいえ、有力候補者ということになったら、飛行機代と宿泊費を当校が負担して来日してもらい、審査します。模擬授業までやってもらって、良い人を採用しています。
――採用する外国人はどんな人たちですか。
斉藤 博士号や修士号を持っている人もいますし、文学などそれぞれの分野での専門家の先生も多くいます。
――厳格な教育者なのですね。
斉藤 その反対のイメージだと思います。教育とは厳しい修行のようなものではない、と私は考えています。興味のあるものを皆で知ろうではないか、というアプローチを取ってもらっています。
選抜に当たって重視するのは、陽気で辛抱強く教えてくれる講師かどうか、という点です。日本人の生徒はシャイな子たちが多いので、その学習意欲を外向きに引き出してくれる、指導力のある講師を採用するように努めています。
――日本人講師には、どんな人がいるのですか。
斉藤 私自身イェール大学の大学院で博士号を取得していますが、ほかにアイビーリーグではプリンストン大学やブラウン大学を卒業した講師もいます。TOEICやTOEFLで満点を取った講師もいますし、博士号取得者も何名も在籍しています。
――J PREPで教えているのは小中高校生ですが、それぞれの学年の英語教科書を復習、予習するという教え方ですか。
斉藤 いいえ、J PREPでの英語教育は、日本の学年別英語カリキュラムに準拠していません。
――社会人向け英語スクールでは、「TOEICで730点取れるようにしよう」「英語検定2級を取ろう」などと標榜しているところが多いですが、J PREPはどんなコンセプトで英語教育を展開しているのですか。
斉藤 英語力そのものを向上させる、ということです。英語力のなかでも特に「先行逃げ切り型英語力への準備」ということを考えています。英語の4技能は、「読む・書く・聴く・話す」です。J PREPでは加えて「考える」の5技能を修得してもらいます。
この5技能を学生時代から先行して培って、あとになって実践的な英語力が必要な時が来たら、ただちに活用できる英語能力の開発を狙っています。そうした準備がない人たちとは決定的な差ができる、つまり「逃げ切り」ができるのです。
言語を習得する上では、年齢に合った適切なアプローチで学ぶことが大切です。大学受験を学習のゴールとして設定するのではなく、本当に使えるレベルまで鍛えた上で受験を迎えるのが私どもの考え方です。そのために、クラスのなかで文法などを解説する日本人講師と、その実践をデモできるネイティブ講師とのチーム・ティーチングを多く行っていますし、iPadを使って自習できるアプリも開発して生徒に使ってもらっています。
●倍々ゲームで増えてきた生徒数
――先ほどのお話では、昨年1年間で5割も生徒が増えてきたのはPR活動によるものではないということでした。
斉藤 実はJ PREPでの新入生徒の半数近くが、現在通っている生徒とその保護者による紹介、推薦なのです。私が当校を設立したのは2012年のことですが、その時は生徒の数は20名だけでした。最初はすべてのクラスを私が教えていました。その時から5年連続して、生徒数が前年対比2倍以上になった実績があります。
――ネイテイブ講師の充実のほかに、評価されてきた大きな要因はどんなものがあるとお考えですか。
斉藤 私は、新しい生徒をもっと集めるよりも、今通って来てくれている生徒、そしてその保護者の満足度を上げることを第一に考えています。J PREPが提供している英語教育への顧客満足、これを上げ続けることに最大の力を注いでいますし、講師やスタッフの力を結集していくつもりです。企業として若いので、さまざまな分野で経験やリソースも不足しています。それでも毎年、教材や授業内容を改善し、より良い学習経験を生徒に提供するために努力を重ねてきました。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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