レオパレス21は5月29日、運営するアパート計206棟で施工不良を確認したと発表した。「界壁」と呼ばれる、防火性や防音性に影響のある部材が天井裏に未設置、あるいは設置範囲が不十分だったという。

建築基準法違反の疑いもある。

 来年6月までおよそ1年をかけて3万7853棟のアパートを調査し、不備があれば改修するとしている。

 同社はこれまでも、サブリースの一方的な契約解除や賃料減額の問題のほか、管理物件の修繕に関し契約していた修繕をほとんど実施していなかったなどとして、いずれも昨年から相当数のアパートオーナーから訴訟を起こされている。

 そして、続けさまに今回の問題が判明した。実質1年ほどの間に、数々の問題が表面化してきた感がある。不動産関係者からすると、今回の問題も含めてすべて「ようやく今、出てきたか」と思うのは、筆者だけではないだろう。

 かねてレオパレスは、一部で壁が薄いので隣が何をしているのかわかるほど音が漏れると居住者から指摘が上がっていた。実際に平成初期の頃、一時レオパレスに住んでいた友人宅に泊まると、隣の音がひどく聞こえた思い出がある。その後、不動産業界に身を置くことになってからも、時折、レオパレスの居住性については芳しくない話を耳にし、そのたびに壁が薄い、素材が悪いなどという話が聞こえていた。

 ただ、レオパレスのアパートにもグレードがあり、低位のグレードであればコストの面もあり、ある程度はそういった話もあり得るだろう。しかし、今回の問題ではそもそも施工に問題がある建物が相当数見つかっており、普通では考えられない確率で建物に問題があるということになる。結果的に、施工の悪い建物がたくさんあり、それらの実態が明るみに出たのかもしれない。


 また、今回の問題は、間接的に過去の問題とつながる部分もある。問題となっている「界壁」不備によって、防火性能だけでなく、隣室との防音性能が劣ることになると前述した。あくまで可能性にすぎないが、もし、隣室との音の問題で入居者がすぐに退去してしまうような部屋があれば、当然、そのアパートは入居率の悪い物件となり、サブリースしているレオパレス側としては、サブリース契約の履行が難しくなり、賃料の減額やサブリース契約解除の対象となる。

 つまり、レオパレス側がつくった原因で入居率が悪くなり、苦しんだオーナーがさらにサブリース契約を一方的に改悪、もしくは解除されたという事態につながったケースもあったのではないか。これに当てはまるケースは少ないかもしれないが、仮にそうであれば、自分で起こしたミスの責任をオーナーに取らせていたかたちになり、事業者の責任という意味では最悪だ。

 今回の問題も含めたすべてのトラブルで、いつも被害者はオーナーと入居者だ。オーナーのなかには、修繕も約束通り履行してもらえず、サブリース契約の一方的な減額で泣かされた上に、今回の補修問題に該当した方もいるだろう。どれかひとつの問題の被害者となっただけでも、アパート経営では大きな痛手になる。

 一方、入居者にしても正当な賃料を支払って、防火性能や防音性能に著しく問題のあるアパートに住んでいたことになる。

 そして、現在のようにインターネットが発達して情報があいまいなままでも拡散される時代では、今回は建物の性能に関する問題であるだけに、今後、同社アパートの風評被害も懸念される。つまり、レオパレスのアパートというだけで敬遠される事態に陥る可能性がある。そうなると、問題がなかった物件であっても入居者が入りにくくなるという悪い影響が出る可能性がある。


 実際、施工不良が見つかった物件に関して、当該アパートのオーナーの立場を考えれば、情報を公開することは非常に難しいと思われる。だが、入居者の立場からすると、どの物件が施工不良物件かわからないため、「とりあえずレオパレスはやめよう」との考えが生まれてくるだろう。つくづく同社のアパートオーナーが気の毒でならない。

●「界壁」だけの問題なのか

 筆者は、レオパレス21について、今後もまだ何か問題が出てくるのではないかと考えている。今回は界壁の不備だが、果たしてそれだけなのだろうか。建物には天井裏だけでなく、建築中に監理が悪いと見逃す恐れのある隠れた箇所はたくさんある。施工監理が悪かったなら、界壁だけを再度確認すればいいというものではないのだ。

 界壁の問題を耳にして真っ先に思い出したのが、以前、同僚が仲介したレオパレスのアパートのことだ。

 もう10年以上前になるが、当時、同僚がある投資家に、すでに名前は変わっていたものの築19年経過した旧レオパレス物件を仲介した。購入してから数カ月後、その物件の2階のベランダの接合部分が建物から外れ、残された1カ所の接合部だけでかろうじてぶら下がっているという事態が起きた。もし、タイミング悪く、入居者が洗濯物を干すなどベランダに立っていたら、惨事になる出来事だった。

 その後、補修費の問題でもめたが、決着することができた。
その補修の過程で、ベランダの接合部が外れた原因を専門業者に調査してもらった結果は、背筋が寒くなるものだった。すでに20年近い年月を経た建物だったため、経年劣化による腐食等だろうと推測していたのだが、実際は接合部のボルトが1本無かったことが原因だった。これまで何回も売買が繰り返された物件であり、かつ、建物保証期間も過ぎているため、施工者であるレオパレスに責任を求めることはできなかったが、人命にかかわる可能性のある瑕疵があったことはまぎれもない事実だった。

 この事例は、たまたま起こったことかもしれないが、後にも先にも身近でレオパレスの物件を扱った取引はこの1件だけにもかかわらず、こうした問題が起きたことに怖さを感じている。

 同社は、界壁の補修とそれに伴う入居者の引っ越し費用などを負担すると発表しているが、本当に問題のある箇所はそこだけなのか。真摯に顧客であるオーナーや入居者に向き合うなら、そのほかの隠れた箇所も調査する必要があるのではないだろうか。今後、施工者であり事業者でもある同社の対応次第では、続けてほかの問題が出てくる懸念が払拭できない。
(文=小林紘士/不動産ジャーナリスト)

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