元国税局職員、さんきゅう倉田です。小学生の時の夏休みの自由研究は「BEPSについて」です。
「横目調査」とは、銀行に調査に入った際、調査対象者と異なる人の預金口座を盗み見ることです。銀行に協力を要請して調査を行う場合は、誰の口座情報を調査するか、書類で提出します。しかし、その調査中に他の納税者の情報を見ることも、物理的には可能です。よって、横目調査によって、銀行に知らせた人以外の口座情報を見て、脱税者を見つけることがあります。その手続方法によっては、横目調査は違法とされます。
そもそも、国税局のルールなどが書かれた国税通則法の第七四条の二には、次のように書かれています。以下抜粋。
「国税局の職員は、調査について必要があるときは、質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、物件の提示若しくは提出を求めることができる」
つまり、逆にいうと「必要があるときしか調査してはいけない」と解釈できます。横目調査では、まだ必要かどうかわからない納税者の預金口座を調べることになるので、国税通則法に反する可能性があります。今回は、横目調査をされ、懲役を言い渡された納税者の事案を紹介します。
●違法な横目調査で馬券収入が判明
大阪国税局査察部が、ある犯則事件の調査で銀行調査を行いました。そのとき、ある口座に、日本中央競馬会(JRA)から約2億3000万円の入金があるのを見つけたそうです。
JRAからの入金がなんなのかは、特別な事情があって事業としての取引がない限り、馬券の払戻金であることは簡単に推察できます。今回、銀行にやってきた理由となる犯則事件との関連性はなさそうです。
しかし、査察部は横目調査を行って、このJRAからの入金があった預金口座の情報を持ち帰りました。そして、この2億3000万円の申告状況を確認し、この馬券の払戻金による収入を得ていた人物が、この収入を申告していないことがわかったのです。
申告しないのは悪いことですが、この納税者の立場からすると、あまりにも不運。逃れていた所得税は6200万円余りになりました。しかし、この人は「その横目調査は公平性を欠き、正義に反する」と主張したのです。
そもそも、なぜ銀行調査が行われたかというと、犯則事件の犯則嫌疑者が不正行為で得たお金の使い途がわからず、仮名や借名預金での不正蓄財も考えられたからです。そのなかで、JRAから多額の振込入金がある預金口座を発見し、犯則事件との関連性を確認するため、3年分の情報を持ち帰ったそうです。競馬の収入が、この犯則事件とは関連がないことが客観的に見て明らかなのに、「関連があると思った」と主張したそうです。
裁判所は、犯則事件の具体的内容、銀行を調査対象とした具体的事情、口座等の開示を求めた具体的範囲とその理由、調査の具体的手順、JRAからの高額入金が犯則事件と関連性があると判断した具体的根拠については、次のような理由から拒否しました。
・公務員が知り得た事実で職務上の秘密に関するものである。
・公にすることによって、将来における査察調査において関係者の協力が得られなくなる。すなわち、脱税の発覚を防ぐ機会を脱税者に与え、脱税犯の発生を助長し、犯罪の予防や犯則事件の調査に重大な支障を及ぼすおそれがあり、国の重大な利益を害する。
この横目調査は、違法性はあるものの、その程度が重大であるとはいえず、横目調査による証拠資料の証拠能力を否定するものではありませんでした。払戻金を申告していなかった納税者は、地裁で「懲役6月及び罰金1200万円に処する」という判決が言い渡されてしまいます。このように、タレコミなどがなくとも、多額の収入があった場合は、その申告漏れを国税局に掴まれてしまうのです。常に、どんな収入であっても、正しく申告しないといけません。
ちなみに、この裁判の主文を読んでいると、次のような記述がありました。
「その罰金を完納することができないときは、金5万円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する」
つまり「罰金が払えないなら働かせる」という意味なのですが、1日が5万円に換算されるなら、労役場に行ったほうがいいのではないかと、ちょっぴり思った次第です。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)
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