人から「眠そうだね」と言われる、おでこにしわが増えた、視界が狭くなった……こんな症状が気になる人はいないだろうか。
もしかすると、それは「まぶたのたるみ」が原因かもしれない。
眼瞼下垂とはどのような病気なのか。そして、なぜ若い世代にも増えているのか。専門医に取材した。
●肩こりや頭痛、重い眼精疲労の原因にも
「眼瞼下垂は、上まぶたにある『上眼瞼挙筋』という筋肉が加齢に伴いたるむことによって、さまざまな症状が引き起こされる疾患です」
そう話すのは、北青山Dクリニックの形成外科医・増子貴宣氏だ。上眼瞼挙筋とは、まぶたの先端から目の上の骨に向かい、膜状に広がっている筋肉のことをいう。
「この筋肉が収縮することにより、皮ふや筋肉が骨側に引っ張られてまぶたが開きます。しかし、老人性眼瞼下垂を発症すると、上眼瞼挙筋がたるんでしまい、目を開くことができなくなってしまうのです」(増子氏)
原因となるのは筋肉だけではない。加齢によってたるんだ皮ふがまぶたに覆いかぶさり、目が開けにくくなった場合も眼瞼下垂と診断される。
「診断方法はさまざまですが、一般的には、眉毛を上げずにまぶたを開けたとき、まぶたで目の角膜が半分近く隠れていたり、少しでも瞳孔にまぶたがかかっていたりすれば『眼瞼下垂がある』と判断されます。また、眼瞼下垂は進行性の疾患のため、自然に治ることがないのも特徴です」(同)
では、眼瞼下垂になると、どのような症状に悩まされるのだろうか。
「目が開けづらくなると視界が狭くなるので、テレビ画面の上のほうが見にくくなったり、クルマの運転中に信号が見えづらくなったりします。その際、視界を広げるために無理に目を開けようとすると、まぶたの筋肉に過度な負担がかかる。その結果、重い眼精疲労を併発することも少なくありません」(同)
眼精疲労を併発すると、目の奥の痛み、目のかすみ、充血など、さまざまな症状に悩まされることになる。重症化すれば、視界の狭さが原因でケガをしたり交通事故を引き起こしたりする可能性もある。
また、若々しくありたい人にとっては避けたいはずの「しわ」につながるケースもあるという。
「人間は、視界が制限されると無意識に眉毛を上げてまぶたを開こうとします。そうなると、本来使う筋肉以外の筋肉に負荷がかかり、無理やりまぶたを上げている『努力性開瞼』という状態になる。この努力性開瞼を続けていると、眉の位置が本来よりも高くなり、おでこに横じわが生じてしまうのです」(同)
さらに、眉を上げるときに使う「前頭筋」は、頭から額、肩までつながっている筋肉のため、肩こりや頭痛を引き起こすケースもあるのだ。
●コンタクトレンズやアイプチも原因に
この老人性眼瞼下垂が、なぜ若い世代に増加しているのか。増子氏は、その原因のひとつとしてコンタクトレンズの使用を挙げる。
「若年化の原因として考えられているのが、コンタクトレンズ、特にハードタイプの使用です。
アトピー性皮膚炎、まつげが内側に向かって生えて眼球に触れている状態の逆さまつげ、花粉症によるかゆみで目を強くこする行為なども、眼瞼下垂につながるという。
「強く目をこすってまぶたがかぶれると、筋肉や皮ふが伸びるだけでなく、炎症を起こした部分が周囲の皮ふと癒着してしまいます。すると、筋肉の動きが悪くなり、眼瞼下垂を発症してしまうのです」(同)
また、若い女性に多いのが、人工的に二重まぶたをつくる“アイプチ”の使用が原因となるケースである。アイプチでまぶたをいじることに加え、アイプチに使う接着剤による肌のかぶれで若年性眼瞼下垂を引き起こす場合があるそうだ。
そのほか、生まれつき筋肉の機能が弱い先天性の眼瞼下垂もあり、その場合は幼少期に手術を受けるケースが多いという。こうした原因の多さを見ても、眼瞼下垂が意外に身近な疾患であることがわかるはずだ。
●眼瞼下垂の手術費用は?
しかも、前述したように、眼瞼下垂は一度なってしまうと自然に治癒することはほとんどない。そのため、日常生活に支障が出てしまっているような場合は医療機関での手術が必要になるという。
「眼瞼下垂でよく行われるのは、『挙筋前転法』という手術法です。まず、上まぶたの皮ふを切除し、次にたるんだ筋肉を一度はがし、たるまない位置に糸でとめ直す。
大がかりな手術に感じるかもしれないが、手術自体は短時間で終わり、その日のうちに帰宅できるそうだ。ほかにも、眉の下を切る「眉毛下切開」、二重のプチ整形で用いられる「埋没法」でも治療が可能だが、これらの方法ではあまり大きな改善は見込めないという。
ちなみに、手術は「形成外科」「眼科」「美容外科」のいずれかの医療機関なら受けることができる。
増子氏いわく「病院選びの際は、保険適応の施術ができる施設を選ぶのがベター」とのこと。そうなると、保険が適応されないところが多い美容外科は避けたほうが無難といえそうだ。
費用は、挙筋前転法の場合、保険適応の施設なら両眼で5万円以内。自由診療なら20万~30万円のケースが多いという。また、保険適応の医療機関で行う場合も、眼球ではなく形成外科医の専門と認識される軟部組織の手術になるので、形成外科医のほうがリスクは少ないようだ。
「挙筋前転法は、とても難しい手術というわけではありませんが、その仕上がりは千差万別です。医師を選ぶ際も、手術の経験が豊富な医師を選ぶといいでしょう。
なんだかまぶたが重い、視界が狭くなった……もし、こんな自覚症状があるなら、一度医療機関に相談してみてはいかがだろうか。
(文=真島加代/清談社)