SONOSというオーディオメーカーが米国NASDAQ市場に株式公開をすることになった。早ければ7月下旬にも上場する見通しだ。
SONOSのミッションは、すべての家庭を音楽で満たすことだ。筆者もAmazonやGoogle、Appleがスピーカーを登場させる以前から、SONOS製品を米国の自宅で楽しんできた。Bluetoothスピーカーと違い、独立してストリーミング音楽を再生できる点は、スマートフォンのアクセサリではなく、新しいオーディオだった。高音質でシンプルなデザインのスピーカーにWi-Fiとアプリ連携可能なソフトウェアを内蔵し、SpotifyやApple Musicなどの80を超える主要音楽ストリーミングサービスを単体で再生することができる。声すら必要なく、スピーカーのボタンを押すだけだ。
既存のユーザーからすれば、自宅内のスピーカーにおける音声アシスタント機能は、「まだ」おまけでしかない。しかし、明らかに賢いスピーカーの進出は続いているのだ。
●SONOSが感じる「リスク」
前述の通り、SONOSはAmazon Alexaに対応を果たした。
もともと競争力があった製品をトレンドの文脈に乗せることは、戦略として間違っていない。しかしSONOSが提出する株式公開の文書からは、同社が感じているリスクも浮かび上がる。
まず、Amazonは、いつでもSONOSからAlexaを取り上げることができる。そしてその可能性はゼロではない。音声アシスタントを搭載する製品は多数用意されており、Amazonもそのエコシステムの広がりを、現時点ではアピールする。しかし、自社製品より目立つようになった際、Amazonはいつでも、サードパーティー製品を“喋らない単なるスピーカー”に追いやることができる。
また、販売チャネルのリスクもある。SONOSがAlexa以外のGoogleアシスタントやSiriをサポートするスピーカーとなり、またAlexaを取り上げられた状態となった場合、Amazon.comでの販売ができなくなる可能性がある。これまでAmazonは、同社のセットトップボックス「Fire TV」の競合となるApple TVやChromecastをAmazon.comから排除してきた。その文脈からすれば、SONOSもAmazon.comから排除される可能性があるのだ。
そしてもうひとつは、SONOSが単なるデバイスメーカーに成り下がるリスクだ。
スピーカーにおける音声アシスタントがOSとして顕在化すれば、スマートフォン市場と同じことが起きる。すなわち、ハードウェア、音声アシスタントを開発するGoogleやAmazon、Alibaba、Appleのみがビジネスモデルを成立させ、SONOSはスピーカー市場において、BoseやBeatsと同様に、利益の上がらないビジネスに成り下がることを意味する。
●先行するマーケット展開と、ブランド価値
しかし、SONOSを使っている限りにおいて、音声アシスタント主体のスピーカービジネスの勢いは、さほど心配する必要がないかもしれない。SONOSにはモダンな音楽を楽しむ体験を成立させるというブランドがある。残念ながら、Apple以外のスマートスピーカーが、SONOSを脅かすブランドに成長しているとはいえない。そしてスマートスピーカーの音楽を聴く機能性を比較すれば、SONOSはいまだAppleを上回っている。
SONOSは株式公開によって1億ドルを調達することになる。このコストが、AIと音楽と我々のライフスタイルの関係をつくり出す可能性に使われると、おもしろい未来が待ち受けているのではないだろうか。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)