船旅が脚光を浴びているらしい。船といっても、豪華クルーズ船ではない。

フェリーの旅だ。2018年6月22日には、岩手県初となる定期フェリー「宮古・室蘭フェリー航路」(宮蘭航路)が開設。東北と北海道を結ぶ航路が増えた。さらに、各社で新造船の就航が進んでいるという。

 新幹線や高速道路、空路が整備される前、フェリーは国内旅行の担い手のひとつだった。マイカーを旅先に運ぶことができるカー・フェリーは、家族旅行にも適していたのだ。
しかし、経済成長とともに交通インフラが整備され、クルマでの移動手段は高速道路に取って代わられた。昭和から平成に移り、フェリーはもはや「一部の愛好家と貨物輸送のためのもの」とのイメージがあったが、なぜか再び注目されているという。

 その大きな理由は、長距離ドライバーの労働環境の改善だ。ネット通販の拡大などもあり、荷物を運ぶドライバーは慢性的な人手不足だ。高速道路を長時間運転するのではなく、荷物はフェリーに乗せて運ぶことにすれば、ドライバーはその間に休憩できる。ドライバーのケアとしてフェリー輸送が脚光を浴び、新造船の増加にもつながっているのだそうだ。
先の宮古・室蘭フェリー航路も、こうしたドライバー需要を見込んでいるという。

 その背景はさておき、筆者はわりとフェリー旅が好きだ。毎年、国内のどこかでフェリーに乗っている。特に、東京から徳島に向かうフェリーをよく利用するのだが、いかにも設備が古めかしく、重油の匂いが染みついたようだった船内が、一昨年あたりからこぎれいになったことに戸惑った。他社のフェリーに乗ったときも、もはや雑魚寝スペースは消えてしまったし、風呂にサウナまで付いている船もあって驚いた。

 日本は海に囲まれた島国なので、船にさえ乗れば北海道にも九州にも、沖縄にだって行ける。
海路を使えば渋滞の道路を走るよりショートカットできるコースもあり、運転者も気楽だ。レジャーシーズンを前に、案外知られていないフェリー利用法について書いてみよう。

●人気の東京湾フェリーには10%割引も

 神奈川県の久里浜と千葉県の金谷を約40分で結ぶ東京湾フェリー。関東の人にはもっとも身近なフェリーだろう。東京湾を横断するので、大渋滞するアクアラインを回避しつつ千葉までクルマを運ぶことができる。しかも、優待付きの多種多様な割引きっぷがそろっているのだ。


 たとえば、乗用車1台と大人2名分(運転手1名+同乗者1名)のフェリー運賃にマザー牧場大人2名分の入場券がセットになった「マザー牧場 シープ &フェリーマイカーセット券」は、片道なら5900円(車両の長さ6.0m未満)。正規料金を単純に足すと2名分の運賃だけで5790円で、マザー牧場の入場料が大人1500円のため、入場料分がほぼ浮くことになる。

 ほかにも、金谷港からのバスチケットもついた「鴨川シーワールド らくらくチケット」などもある。東京湾フェリーのホームページには同乗者を含む10%割引券(対象は乗用車のみ)もあり、スマートフォンなら画面の提示でもOK。「これから東京方面に戻るのに渋滞に巻き込まれるのはしんどい」というときは、覚えておくとうれしい割引だ。

 関東方面から三重・和歌山に向かうなら伊勢湾フェリーを利用するのもいい。
愛知県の渥美半島先端にある伊良湖港から、三重県の鳥羽港を約55分でつなぐ。一番のメリットは陸路(東名高速~伊勢湾岸道~東名阪・伊勢自動車道)の混雑具合に左右されないことだろう(ただし、伊良湖までは浜松インターから約2時間程度かかるので、先を急がない旅向けだが)。

 伊勢湾を横断し、神島・菅島・答志島・坂手島を眺めながら到着すると、乗り場からすぐのところにあるのが鳥羽水族館。もちろん、フェリー乗船券と水族館の入館券がセットになったプランが用意されている。「伊良湖発限定・鳥羽水族館マイカープラン」は大人1人片道のセット料金(車両4m~5m未満の場合。車両の長さによって料金は異なる)が7550円で、運転手以外の大人は片道3550円、小学生1780円。
通常料金で買うとフェリー運賃(車両4m~5m未満の場合。運転手1人分含む)6690円、水族館の入館料が2500円で合計9190円となるため、1640円も安い。なお、小学生の入場料金は1250円なので、このマイカープランを利用すれば500円程度で船に乗れる計算になる。乗船の際は、忘れずに伊勢湾フェリー伊良湖営業所で購入しよう。

 筆者はどちらのフェリーにも乗ったことがあるが、船から見る海上の風景はなんともゆったりした気分になれる。移動自体がレジャーというのは、ほかの乗り物にはない楽しみだと思う。

●刺し身や生ビールを楽しめるフェリーに驚き

 ここまでは短距離の船旅だが、もちろん長距離フェリーもある。筆者がたびたび利用するのが東京~徳島(船は北九州まで行く)のオーシャン東九フェリーだ。長距離だというのに、この船には食堂やレストランの設備がない。食事や飲み物は、自動販売機コーナーで冷凍食品やレトルト食品などが販売されているだけだ。

 19時半に有明を出港し(曜日によって異なる)、徳島には翌日14時頃に着くため、「夜・朝・昼の3食をどうするか」という問題が浮上する。最初は戸惑ったが、この航路に慣れた人たちはさすがに準備万端だ。クーラーボックスに必要な食品や飲み物を詰めて乗り込むのがスタイルらしい。いわば、船旅というよりアウトドアレジャーのようなもの。

 最初に乗ったときは、テーブルにワインとチーズ、オードブルを並べて豪華な宴会をしている家族を見かけたし、また別のときには大量のレトルトご飯とパックのままの生卵を持ち込んでいる男性グループがいて驚いた。お湯やお茶、しょうゆやソース、割りばしに紙皿、コップなどの備品は備え付けで、電子レンジも使い放題。電子レンジがあれば煮物や蒸し物などたいていのメニューはつくれるので、テクニックがあれば食材を持ち込んで“レンチン料理”を楽しむことも可能だろう(夏は傷みやすいので避けよう)。

「今どきのフェリーには食堂がないのか」と思い込んでいたところ、愛媛から大阪まで乗ったオレンジフェリーはすごかった。刺し身に宇和島風鯛めし、ビーフシチューetc.とメニューが豊富で、飲み物も日本酒に生ビールサーバーまであった。ゴールデンウィークだったこともあるが、船内は通路まで人がはみ出すほどの大混雑ぶり。乗ってみないとわからないことはたくさんある。

 フェリーは決して時代遅れのノスタルジックな乗り物ではなく、現役そのものの移動手段なのだ。運賃は安くないし時間もかかるが、ゆっくりした移動は体に負担がかからない。ぼんやり対岸の風景を見ながらの旅も悪くない。窓から海を眺めながら、朝風呂にゆったり浸かることもできる。外洋に出るとスマホの電波も入らなくなるので、心からのんびりしたい人にはおすすめだと言っておく。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)