9月4日放送の第8話が自己最高の平均視聴率15.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録するなど、視聴率と評判が右肩上がりの『義母と娘のブルース』(TBS系、以下『ぎぼむす』)。「今夏最大のヒット作」と言い切ってもいいだろう。
放送を重ねるごとに、「キャリアウーマンを演じる綾瀬はるかの演技がいい」「笑って泣けてほっこりできる脚本が素晴らしい」など称賛の声が増えている。
しかし、「『逃げるは恥だが役に立つ』(同、以下『逃げ恥』)と似ている」という記事が出てからは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも「確かに似ている」「激似じゃん!」「パクリ?」などのコメントをあちらこちらで見るようになった。
さらに、私のもとにも、各メディアの記者から「どこが似ていますか?」「本当に似ているんですか?」などの問い合わせが入っている。
果たして、『ぎぼむす』は本当に『逃げ恥』と似ているのだろうか?
●『ぎぼむす』に社会派の要素なし
確かに、『ぎぼむす』も『逃げ恥』も同じTBS火曜22時台の『火曜ドラマ』であり、ジリジリと上がっていく視聴率の推移は似ている。
『ぎぼむす』11.5%、11.3%、12.4%、12.2%、13.1%、13.9%、15.1%、15.5%
『逃げ恥』10.2%、12.1%、12.5%、13.0%、13.3%、13.6%、13.6%、16.1%
ちなみに、『逃げ恥』は、9話16.9%、10話17.1%、11話20.8%と、さらに視聴率を上げてフィニッシュ。『ぎぼむす』も『逃げ恥』最終話の20.8%にどこまで迫れるのか、注目を集めるだろう。
次に、ストーリーでは「利害が一致した契約結婚による仮面夫婦」「一緒に暮らすことで徐々に愛情が育まれていく」という展開が似ている、というのだ。
しかし、両作は「契約結婚・仮面夫婦に至る理由と制作サイドの狙い」が決定的に異なる。『逃げ恥』は、就職難、派遣切り、就職としての結婚、家事対価、高齢童貞などの社会背景をからめたものである一方、『ぎぼむす』は、「娘を託す義母がほしい」男と「孤独で家族がほしい」女によるものであり、これといった社会背景はない。
さらに言えば、契約結婚・仮面夫婦を扱ったドラマは『逃げ恥』だけでなく、これまで数えきれないほどの作品が放送されてきた。決して珍しいわけではなく、むしろ1980年代からよく見られた設定であり、『ぎぼむす』を『逃げ恥』とだけ結び付けようとするのは強引だ。
ネタバレになるので書かないが、この先、岩木亜希子(綾瀬はるか)が宮本良一(竹野内豊)と契約結婚し、仮面夫婦になった本当の理由が明かされる。
そもそもの話、『逃げ恥』は男女の恋愛物語であり、『ぎぼむす』は女性同士の親子物語。良一が亡くなってから、麦田章(佐藤健)との恋をにおわせるシーンこそあるが、それは母娘の物語に比べると、あまりに濃度が薄い。最後まで「母娘の物語」という軸はブレないはずだ。
●他作の真似が不要なTBSのエースコンビ
ストーリーを語る上で、もうひとつ忘れてはいけないのは漫画原作の存在。『逃げ恥』が通常の物語形式であるのに対して、『ぎぼむす』は4コマ漫画。つまり、一つひとつのエピソードは短くブツ切れのような状態であり、映像化や脚色の難易度は後者のほうが高い。
ただ、4コマ漫画には、テンポのよさと「4コマ目」にあたるオチが多いという強みがある。事実、亜希子が初対面のみゆき(横溝菜帆)に名刺を渡したのも、腹踊りや一気コールをしたのも、4コマ漫画らしいストレートな笑いをドラマに落とし込んだものだった。テレビ番組のパロディなどつくり込んだ笑いが多かった『逃げ恥』とは、コメディとしての世界観が大きく異なるのだ。
また、スタッフという切り口で見ても、「似ている」という声に違和感を覚える。『ぎぼむす』を手がける脚本・森下佳子とチーフ演出・平川雄一朗は、『白夜行』『JIN-仁-』『とんび』『天皇の料理番』らの名作を次々に生み出したTBSのエースコンビ。
ちなみに、6日に行われた10月の番組改編説明会で、森下・平川コンビとともにプロデューサーとして上記の作品を手がけた編成部企画総括・石丸彰彦は、「個人的には『逃げ恥』と比べるのは良くないと思っています。クールが違うので(条件が)イーブンではないので」というスタンスを強調していた。TBSとしても自信を持った新作であり、「似ている」と言われるのは心外なのだ。
「『ぎぼむす』は『逃げ恥』と似ている」という見方は、「そういう見方もある」というだけのことにすぎない。ページビュー狙いで『逃げ恥』というフレーズを使いたい媒体と書き手によるものであり、冷静な視聴者は「まったく意味のないこと」と思っているのではないか。
それよりも、ほかのドラマ枠が事件モノや医療モノに走るなか、今や絶滅危惧種といえる家族モノに挑戦した果敢な姿勢こそが称えられるべきだろう。同じく当時、絶滅危惧種となりかけていた恋愛モノに挑戦した『逃げ恥』と似ているのは、そんな攻めの姿勢かもしれない。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)