ZOZOTOWNが鳴り物入りで発表したZOZOスーツ、発表当初はおおいに騒がれたが、最近あまりそのニュースを耳にしなくなった。「いったいぜんたい、ZOZOスーツとはなんだったのか?」という疑問の声を耳にすることも多い。
このZOZOスーツについては、実は私は裏情報を知っている。それはZOZOTOWNではなく、その競合相手にあたる企業を通じて入って来た情報なのだが、それを踏まえてZOZOスーツがいつごろから“すごくなる”のかについて、まとめてみたい。
●フィッティングテクノロジー
ZOZOスーツが発表されるまでのこの2年間、さまざまなアパレル系のインターネット通販会社がアメリカ西海岸のITベンチャー企業詣でを通じて、手に入れようとしていた新技術が3つある。ここらが「裏情報」の入り口なのだが、当時、私は別のアパレル通販会社に紹介するために、西海岸のITベンチャーを関係者と一緒に回っていたのだ。
3つある技術とは、1つはビッグデータの分析技術。2つめに顧客のリピート率や購買金額を上げる技術、そして3つめが、フィッティングテクノロジーと呼ばれる、顧客の体型に合った衣服を紹介する技術である。
実はこの“フィッティングテクノロジー・フィーバー”がZOZOスーツの出現にもつながるのだが、それはこういう業界事情から話が始まる。
アパレル系のインターネット通販で一番難しいのは、スカートの販売である。これはもう40年以上、カタログ通販の時代から苦労していて解決がつかない問題である。女性の体型は一人ひとり違っていて、あるデザインのスカートが似合うかどうかは、スリーサイズや身長・体重といった基本データだけではわからないのだ。
実際、洋服を買うときに女性は、男性と違って必ずといっていいほど試着室に入る。デザインがいいからといって、それが体型に似合うとは限らないからだ。
そこを逆手にとって、勝ち組のアパレル通販会社は「返品自由」をサービスの主眼に置いてここまで伸びてきた。しかし宅配クライシスが起きて配送コストが馬鹿にならないレベルで上がってくると、別の対策が必要になる。そこに登場したのがフィッティングテクノロジーだ。
●ネット通販企業が“欲しくて欲しくてたまらなかった情報”
要するに画像処理技術を使って、試着した服がその女性にフィットするのかどうかを、なんらかのかたちでデータ化して、そのデータを蓄積していくことで、より身体にフィットする商品を提案できるようにしようという考え方だ。
たとえばリアル店舗の試着室にカメラと大型ディスプレイを設置して、試着した服が気に入らない場合、わざわざ他のサイズを試さなくてもCGで違うサイズの服を着た場合にどのように見えるかを表示するといった具合。いろいろなベンチャーがさまざまなソリューションを提案していた。とにかく過去2年間、アパレル業界の通販担当者はこのような技術を追い求めてきたのである。
しかし、なかなかこれという技術は登場しなかった。私もいろいろなソリューションを実際に見て、アパレル企業の担当者とも何度も議論をしていったのだが、最終的に出た結論はアマゾンの「これを読んだ人は、これも読みます」的なソリューションが一番の解決策になるのではないかという話に至った。
インターネット通販でアパレルを購入する女性客の購買履歴をためていきながら、「これを買った人は、これも買います」的な情報をためていけば、同じような体型で同じようなブランド志向を持つ人の傾向が把握できるようになるという考え方である。
アパレルの場合、それを実現するにはひとつの購買データだけでは情報が足りない。
そこに出現したのがZOZOスーツである。水玉模様に特殊なドットが入った身体にぴったりの全身タイツを着て、その画像をスマホで動画にとってアップするだけで、自分の体型データをZOZOTOWNに預けることができる。そうすれば自分と同じ体型の人がZOZOTOWN上で買った商品がなんなのかがわかるので、商品をより正確に推奨してもらえるようになる。
「このブランドの場合、あなたはこのサイズがいいです」とか「このブランドは残念ですが、あなたにはフィットしないかもしれない」といったところまで踏み込んだ商品推奨ができるようになるのだ。ここでようやく、インターネット通販企業が“欲しくて欲しくてたまらなかった情報”を手に入れる完成した方法論が出現したのだ。
●ZOZOTOWN、一人優位が確立か
当然のことだが、この情報はZOZOスーツを使ってくれている人数が増えないと武器にならない。同時に、さまざまなブランドの商品を買ってくれる顧客から、このようなデータを集積していけないと活用する意味がない。
つまりユニクロのように単独のブランドのEC通販がこれを始めても活用の余地は小さいし、楽天市場に出店している小さなアパレルのセレクトショップがこれをやろうとしても、母数が小さすぎて効果が出せにくい。
そして、この方式での競争で最大のポテンシャルがあるのは、日本一顧客数が多く、日本一ブランド数が多いインターネットアパレル通販企業ということになる。その事実とZOZOスーツというアイデアがあまりにフィットしたからこそ、実はZOZOスーツの発表直後、日本の大手インターネットアパレル企業は皆、そのアイデアの潜在性に震えたのである。
当分の間、ZOZOスーツのデータは数も分析技術も不十分で力を発揮できない期間が続くだろう。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)