ごみ清掃工場の長期包括運営委託契約(以下、長期包括契約)は、民営化の一手法として計画された。焼却炉の建設は、規模によって数十億円から数百億円の費用が掛かる。
建設工事契約は、成果物の完成や欠陥のない成果の提供が報酬を支払う条件である請負契約の形態で締結されるべきであり、炉の管理のように「善良な管理者の注意を」もって求められた業務を実施すればよい委託契約とは異なり、より厳しい契約形態といえる。
ところが、柳泉園組合(東京都)が行った長期包括契約という委託契約では、大規模改修工事(基幹部分の総取り換え工事)の契約が、委託契約のなかに含まれていることがわかった。廃棄物学会誌での報告書(※1)では大規模改修工事は含めないことが望ましいとされ、特殊な事例である。
自治体が行うごみの中間処理の運営委託のなかに、大規模改修工事を紛れ込ませ、受託事業者に大規模改修工事の必要性の有無や施工計画などの一切の権限を含めて任せてしまうのであれば、これは自治体による業務放棄であり、丸投げである。このようなことは法的に問題ないのだろうか。
柳泉園組合の事例では、どのような問題があったのか。長期包括契約の実態を見ながら整理したい。
まず、柳泉園組合の長期包括契約では、住民が裁判所に訴えて、今も住民訴訟で争われている。構成3市(西東京市、東久留米市、清瀬市)の住民が、2017年に住民監査請求を行ったうえで住民訴訟に訴えた時の新聞報道を見たい。
●運営委託中止を求めた住民訴訟が状況を変える
17年1月26日付東京新聞は、『運営管理委託 中止を』『3市ごみ処理「柳泉園組合」周辺住民が提訴』と見出しを打って、次のように報じた。
「西東京、東久留米、清瀬3市のごみ処理を行う一部事務組合『柳泉園組合』が、焼却場の運営管理を民間業者に長期委託する契約を結ぶのは違法だとして、3市の住民14人が、25日同組合に対し、契約中止などを求める住民訴訟を東京地裁に起こした」
「訴状では、同組合は昨年8月、施設管理の運営を今年7月から15年間、約144億円で民間業者に委託する長期包括契約の入札を公告、業者選定を進めている。この契約金の原資は、3市の分担金にもかかわらず、分担割合も示さず、手続きを進めるなど、地方自治法が定める構成自治体への事前の通知を怠っているなどと指摘」
「住民らは昨年11月同組合に住民監査請求を行ったが、翌12月組合監査委員は、請求を棄却した」
「原告代表の阿部洋二さん(75歳)=清瀬市=は、『組合議会で議決し、3市へ通知したという監査委員の回答は納得できない。巨額な支出について、3市の市議会での議論もなく、住民にも知らされていない。裁判で真実を明らかにしたい』と話した」
当初、住民監査請求を起こしたのは11名だったが、その後に追加分の請求があり20人に増え、柳泉園組合の監査委員が監査請求を棄却したことを受けて、14人が原告となって住民訴訟を起こした。
住民監査請求は、住民が自治体の財務会計上の不当性や不合理な点があると考えた時に請求することができる。そして、監査結果に納得がいかず、かつ違法性があると判断されると住民訴訟で起こすことができる。監査請求では、住民らはこの計画・契約が構成自治体の議会や住民に説明されず進められたことを問題とした。
また、そのなかで住民らは、構成自治体ではごみ廃棄の有料化など不断にごみの減量化に取り組み、15年後にはごみが大幅に減ると予想されるにもかかわらず、ほぼこれまでどおりの量が排出される前提での契約内容になっている不合理を訴えていた。そして住民訴訟を起こした17年1月25日を境に、これまで隠されていた問題が徐々に明らかになり、状況が大きく変化し始める。
まず注目すべきは、柳泉園組合と最終的に契約を結んだ企業が、入札に参加はせず、身内の企業が参加して落札した権限を受け取り契約したという驚きの事実である。
●応札企業と契約企業が異なるという前代未聞の契約
経過表に見るように、柳泉園組合は長期包括契約について、16年8月31日に入札公告を行い、総合評価一般競争入札によって応札企業を募った。
そして住重環境エンジニアリング株式会社(以下、エンジニアリング社)とテスコ株式会社の2社が応札し、最終的に契約したのは応札していない住友重機械エンバイロメント株式会社(以下、エンバイロメント社)であった。なぜこのような不自然な事態が起こったのか。この入札公告、応札、審査、落札の経過から、この問題を探ってみる。
応札したエンジニアリング社は、柳泉園組合の焼却施設を建設した住友重機械工業株式会社の子会社であり、これまで焼却炉の運転管理を主に担ってきていた。建 設は住友重機械工業、運転管理はエンジニアリング社という住み分けが行われていた。もう一社のテスコは、柳泉園組合ではビン・缶のリサイクル作業を担っており、柳泉園組合からの受注実績があった。
長期包括契約として当初示された内容は、柳泉園組合での管理業務を15年間にわたり包括的に民間企業へ委託するというもので、その入札予定価格は約150億円。毎年約10億円、同組合の年間予算の半分を占める契約であり、事業者側にとっては魅力的な契約であったにもかかわらず、応札したのはたった2社であった。
応札する企業が少なかった理由の一つは、当初は隠されていたが、長期包括契約に大規模改修工事が含まれていたことだ。
では、大規模改修工事などの実績があるプラントメーカーがなぜ応札しなかったかというと、過去10年間に柳泉園組合での工事実績を持っていることが入札条件になっていたからである。これによって、大手の焼却炉プラントメーカー(たとえば日立造船、タクマ、日本鋼管<JFE>、三菱重工業、石川島播磨重工業<IHI>など)は入札できなかったといえる。
●事業の開始前に消滅する企業の入札を認める怪
ところが、その狭き門をくぐったはずのエンジニアリング社は、入札翌年には吸収合併され消滅することになっていた。入札期限締め切り(15年9月15日)前日の9月14日、その旨の届け出は柳泉園組合に出されていた。
長 期包括契約を実行することができないエンジニアリング社の入札が、なぜ正式に認められたのか。驚いたことに、その知らせを受け取った柳泉園組合は、翌年には消滅するという事実を審査委員会に知らせず、審査委員会は、応札した2社の競争入札の審査をそのまま行っていたのである。
なぜ、柳泉園組合はその重大な事実を審査委員会に伝えなかったのか。その事実を伝えれば、エンジニアリング社は入札資格を失い、入札はテスコ1社になるため競争入札は成立しないことになる。翌年4月以降に開始される事業に、その時点では吸収合併によって消滅している企業が入札し、それをよしとしていたのである。さらに本来であればエンバイロメント社が入札し、競争入札の審査を受ければよかったと考える。
以上、エンジニアリング社は、他の焼却炉メーカーの参入を拒んだ入札条件である柳泉園組合での実績を錦の御旗にして、エンバイロメント社に引き継ぐ役割をもち、他の焼却炉メーカを排除した入札条件によって、入札できないエンバイロメント社に受注契約させる仕組みをつくっていたといえる。このような筋書きが、自治体によって進められてきていたのである。まったくの出来レースであり、官民癒着による入札といわれても仕方のない実態にあった。
●大規模改修工事の必要性の調査すら行っていなかった
住民訴訟の原告は、裁判のなかで柳泉園組合が、エンジニアリング社が消滅する事実を審査委員会に伝えなかったことが不正な行為であると指摘している。もちろん、これによって巨大な利益を得るのはエンバイロメント社だが、問題はこれだけではない。柳泉園組合の現行の焼却炉は、2000年に住友重機械工業が建設し、建設・竣工からわずか15年で大規模改修工事に入るとしているが、通常、焼却炉の耐用年数は約30年である。建設に伴う起債の返還が17年に終わったばかりの焼却炉に、約70~80億円もかかる改修工事の必要性があるというのである。
柳泉園組合は、業者が工事の必要性を訴えているためだとしているが、改修工事は長期包括契約のコストの過半を占めており、まず必要性の調査が行われるべきである。環境省のマニュアルにも事前調査の必要性は、掲載されているが、その調査を行わず、業者の言いなりのままの工事計画であった。
この契約は、(1)大規模改修の必要性に関する調査も行わず、必然的に(2)工事の必要箇所の指摘もなく、(3)工事費用だけが算出されていた。まさに工事ありき、事業者への貢物のような工事計画であった。
常識では考えられない杜撰な入札と契約は、公共事業にあるまじき不公正な契約であり、しかも工事の必要性の判断すら業者任せであり、官民癒着の疑いがあるとして今、住民訴訟で争われている。
付言すれば、入札の結果、テスコは値段の上で安い価格を示したが、総合評価一般競争入札方式であったため、高い価格で入札したエンジニアリング社が、提案した内容が良く、総合評価の上で高い得点を得たとして軍配が上がった。審査委員会が落札を決定した際の審査委員会の議事録は取らず(審査員会の議事録は、肝心の審査会では取っていなかった)2社がどのような提案を行ったのかは、「技術上の独自性を守る」という名目で残されていない。そのため、エンジニアリング社がどのような提案を行ったがゆえに、得点が高かったのかさえ、確認することができない。議会でその点を問われた柳泉園組合は答弁に窮し、柳泉園組合自身が会議直前に提案したと答えた。
以上のように柳泉園組合で行われてきた長期包括契約は、国の関連団体などが推奨することはない、おぞましい実態にあることがわかる。
本稿の「日本のごみ処理が売られる」という本題に戻って考えた時、市町村が担ってきた「ごみ処理」は、国際的な強欲資本に売却される前に、国内巨大焼却炉メーカーに売却ならぬお金を払って譲渡されるという実態にあることがわかった。
振り返って、焼却炉建設をめぐる最大の負の遺産は、東京都の指名業者であった大手焼却炉メーカー5~6社による談合であり、以前は「焼却炉シンジケート」といわれていた。全国各地で談合を繰り返し、公正取引委員会で摘発を受け、約8年かかって最高裁での有罪判決が下った。
その結果、焼却炉メーカーがこれまでのように単独で、入札することは難しくなり、そこで出てきたのが、PFI推進法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)の下での民営化ということであろう。表向きの競争は避け、自治体ごとに委託先の焼却炉メーカーを決定し、工事の必要性を含めて委託された焼却炉メーカーが決めてゆく。
自治体によるごみ処理からの実質撤退である。そのような動きと合わせて考えてゆくと、堤未果さんが『日本が売られる』(幻冬舎新書)で指摘した「日本が売られる」ことが、ごみ処理では巨大資本に譲渡するというかたちで先行して始まっていたことがわかる。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
※次回へ続く
【注釈】
※1:「一般廃棄物処理施設の長期包括的運営の展望」栗原英隆 廃棄物学会誌
Vol19.NO2