2月1日にセブンイレブン東大阪南上小阪店が、営業時間を24時間から19時間に短縮してから、30日以上が経過した。同店舗は2012年にオープン。

オーナーの松本実敏氏が妻と一緒に店舗を切り盛りしていたが、昨年5月に妻が亡くなったことで、松本氏は連続15時間以上の勤務を強いられていた。

 生命の危機を感じた松本氏は、本部に営業時間の短縮を申し入れたが認められず、本部からは契約解除と違約金1700万円の支払いを求められた。コンビニエンスストアのフランチャイズ加盟店舗オーナーは、なぜ24時間営業を強いられるのか。それは、契約書に明記されているからである。 

 セブンと加盟店が締結する契約書の内容は公開されていないが、以下は本部との訴訟等で明らかになった契約内容の一部である。

「加盟者は、加盟店の経営について、本部の指導、助言に従い、情報を活用し、販売促進に努め、店舗、設備、在庫品の管理を適切に行い、消費者の期待に応えるため、本件基本契約の定めるところにより、全期間を通じ、年中無休で、連日少なくとも午前7時から午後11時まで、開店し、営業を行うものとする」(セブンイレブン加盟店基本契約)

「本条第1項の営業時間『全期間を通じ、年中無休で、連日少なくとも午前7時から午後11時まで、開店し、営業を行う』との定めにかかわらず、加盟店は、今日の実情に合わせ、本件基本契約の全期間を通じ、年中無休で、連日24時間開店し、営業を実施するものとし、本部の許諾を受けて文書による特別の合意をしない限り、24時間未満(本条第1項)の開店営業は、認められないものとする」(セブンイレブン加盟店付属契約)

 加盟店基本契約だけなら午前7時から午後11時までの営業となるが、加盟店付属契約によって24時間営業となる。


●問われる「24時間営業」の必要性

 セブンが東京都豊洲に1号店をオープンしたのは1974年5月15日だが、翌年の1975年6月には早くも福島県虎丸店で24時間営業に踏み切っている。ただし当時、セブンイレブンの店舗数はまだ全国で100店舗未満だったこともあり、24時間営業に関しては本部の強制ではなく、オーナーの判断に任されていた。

 加盟店付属契約の「本部の許諾を受けて文書による特別の合意をしない限り、24時間未満の開店営業は、認められないものとする」の一文に従えば、松本氏の契約違反は明らかだが、問題は「今日の実情に合わせ」の“今日”がいつなのかということである。流通ジャーナリストの渡辺広明氏は、次のように語る。

「現在のセブンと加盟店の契約内容は、人口が増えて経済が大きく成長していることが前提となっており、これからシュリンクしていくという時代の変化に対応して、うまく変えていくべきだと思います。24時間営業以外にも、営業の形態にはいくつも選択肢がありますが、本部としては夜閉めてしまうと、ロイヤルティ収入減につながりかねないので、実証実験などの慎重な対応が必要なのでしょう。


 セブンの鈴木敏文元会長がつくったコンビニのモデルは、オフィスビルや地下鉄の駅の閉鎖商圏や繁盛商圏の店舗のコンビニ化などへの展開なら、まだ出店余地はありますが、それ以外ではもう飽和状態です。しかも、人手不足でアルバイト店員がなかなか集まらず、今後改善の見込みも基本的にありません。今回のケースもそれが原因のひとつですからね。少子高齢化で時代は劇的に変化している。コンビニは変化対応業ですから、深夜から早朝にお客がいないなら、24時間営業は採算の合わない店舗に関してはやめてもいいと思います」

 大手コンビニチェーンのなかで24時間営業を行っていないのは、北海道を中心に1190店舗を展開するセイコーマートだけだ。北海道では「セコマ」の愛称で知られ、出店はセブンより早い1971年8月。
コンビニ定番のおでんなどは置かず、手づくりの惣菜や弁当を中心に独自の店舗展開にこだわっている。深夜は客が少ないので、人件費と光熱費を抑えるため24時間営業はしていない。6時~24時の18時間営業が中心だ。

「セイコーマートは約7割の店舗が、24時間営業を実施していません。その理由は8割前後が直営店のため、店舗の深夜営業の赤字は本部の負担になるからです。しばらく人手不足問題は改善しないなかで、コンビニは生活インフラといわれますが、店舗オーナーにそこまで求めるのは酷な話です。
実際、生活インフラである公共交通機関も24時間動いているわけでもありません。至る所にコンビニだらけですが、深夜にすべての店舗を開けておく必要があるのでしょうか。輪番制などにして、一定のエリア内で2、3店舗開いていれば十分でしょう。でも、それは民間企業だけでは無理なので、自治体や国が関与して乗り出すべきです」(前出・渡辺氏)

●複雑なFC契約の内容

 一連の報道では、「オーナーは気の毒で、本部の対応は冷たい」という図式だが、業界紙記者は今回の問題についてこう指摘する。 

「現状、余裕で24時間営業できているオーナーさんもたくさんいます。コンビニオーナーが不足しているので、本部は加盟店に応募してくる人は基本的には誰でも採用しており、なかにはお店を回せないオーナーが出てきます」

 松本氏はコンビニ店のオーナーでつくるコンビニ加盟店ユニオンに相談。
本部への団体交渉の申し入れも行っているが、なぜ解決に至らなかったのか。コンビニ業界関係者はいう。

「コンビニ加盟店ユニオンは『本部=悪』というスタンスで、偏った意識のユニオンってうまくいかないんですよ。本部と対等な関係で対峙できるユニオンができればいいと思いますが、ITなどで省力化を進めて、深夜はワンオペで回していくみたいな方向に変えていくようになるでしょう。

 外国人労働者をどれだけ入れても、人手不足がなくなることはないと思います。ローソンでは4カ国語でマニュアルが出るレジを開発中で、コンビニで働いている外国人はとても優秀です。
コンビニ店舗のオペレーションは、それほど大変なことなんです。そのため、一刻も早くフランチャイズに関する法律を制定する必要があります。

 契約の確認事項なども法律で規制すべきです。本部と店舗間で締結するフランチャイズ契約は、内容が膨大かつ複雑なので理解するのが難しい。契約書をきっちり読んで納得してサインすべきですが、それをしない人も多い。だからこそ、国が法律を整備すべきです」

 ちなみに今回の東大阪南上小阪店をめぐる問題についてセブン広報センターに問い合わせたところ、次のような回答であった。

「基本契約書、付属契約書に関しては公開していないので、具体的な詳細についての回答は差し控えさせていただきます。現在、オーナー様と継続してお話し合いを進めている状況です。南上小阪店の評判については、一部、お客様からさまざまなご指摘があったことは本部としても把握しております」

 いずれにしても、今回のケースが、“フランチャイズ法”制定に向けた契機になることを願いたい。
(文=兜森衛)