「着れば必ず体感する超ハードな加圧!」「着るだけでマッチョが目指せる話題の加圧シャツ!!」――。
インターネットの通販サイトでこんな広告を見て、つい興味を感じてしまった人も多いはず。
話題の加圧シャツだが、通販業界紙の記者によれば、摘発は時間の問題だったという。
「業界では以前から『今の加圧シャツはやり過ぎだね』と言われていたので、いつか消費者庁にやられるだろうと思われていた案件です。ヒロミを広告に使ったのはイッティという会社ですが、昨年10月くらいには消費者庁が調査に入っていたはずです。ほかでも同じようなシャツを販売していたので、今回、景品表示法の優良誤認に当たるとして、9社一斉に措置命令が下ったわけです」
消費者庁は景品表示法第7条第2項の規定に基づき、9社に対し、それぞれ期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めた。資料は7社から提出されたものの、いずれも合理的な根拠を示すものとは認められなかった。このため、消費者庁は9社に3月22日付けで当該製品が景品表示法に違反する旨を消費者に周知し、再発防止策を講じるとともに、今後、同様の合理的な根拠のない表示を行わないよう措置命令を下した。
問題となったのは、ヒロミの所属事務所であるビィー・カンパニーが「商品販売元の株式会社イッティより回答させていただきます」と対応を販売会社に丸投げしたことだ。さらにイッティが「広告表現に関しては全て弊社の責任で行ったものであり、ヒロミさんは広告表示において無関係になります」とヒロミの責任を回避した。これに対し、大々的に『ヒロミ・プロデュース』を謳っているにもかかわらず、ヒロミ側が説明を回避しているのは責任逃れだという批判も上がっている。
●問われる社会的責任
消費者問題研究所代表の垣田達哉氏は、次のように語る。
「今回は9社のうちイッティという会社が、タレントのヒロミさんを使っているわけですが、法的な問題としては消費者庁が措置命令を出して、あとは課徴金を課して終わるので、ヒロミさん自身が広告に関わっていたのでなければ、法的な問題はクリアされるでしょう。
イッティの主張が事実かどうかはともかく、『ヒロミさんが開発した商品だと謳っているから買った』という人はけっこういるはずです。健康食品や健康グッズの広告で著名人を使うことはとても多いのですが、著名人が『自分で食べた』『使ってよかった』ということに対して、消費者は企業よりもその著名人を信用して商品を買うケースが多いので、そこをどう理解するかがポイントです。
ヒロミさんが広告を確認していないということになると、単に名前を貸しただけということになりますが、広告への出演料は支払われているはずです。写真や名前が載っているわけですから。そのときに、どのような表現をするのか、一切おまかせですよ、というのは考えにくいです。もしヒロミさんサイドが写真や広告文を事前に確認しないということだと、法的な問題はないとしても、社会的な責任はあるといえます」
今回、あらためてヒロミの所属事務所に取材を申し入れたが、4月4日現在でいまだに回答はない。イッティは秘密保持契約書を盾に、ヒロミ側がどこまで広告に関わったかについて、一切の回答を拒否している。前出の通販業界紙記者も「秘密保持契約を結ぶことはままありますね。タレントを守るために結ぶ契約です」と語る。
垣田氏もさらに次のように述べた。
「ヒロミさんの事務所が利用されたとするなら、利用された側として何か一言あるべきだと思います。『そういうことは一切聞いていませんでした』『確認をしなかったのは申し訳ありませんでした』くらいは言うべきだと思います。
秘密保持契約を持ち出しているので、弁護士が関わっているのかもしれませんし、内容については想像するしかないですが、ヒロミさんのことでいえるのは、スポーツジムを経営されていることです。ジム経営も景品表示法という法律に関係するので、経営者である以上、ヒロミさんはそれをご存じのはずです。そこもひとつ問題ですよね」(垣田氏)
●経営するジムでトラブルも
ヒロミは現在、レギュラー出演するテレビ番組が約10本と再ブレイク中だが、芸能界に復帰するまではスポーツジム「51,5HIROMI BODY ART」を経営。2011年に大ブレイクしたカーヴィーダンスの生みの親・樫木裕実もヒロミのジムのトレーナーだった。その樫木目当てで入会した会員たちの多くが、樫木本人の指導を受けられずトラブルに発展し、その後、樫木が独立する騒ぎになったのは有名な話。ジムは現在も二子玉川と代官山で営業中だ。
ヒロミがプロデュースした「パンプマッスルビルダーTシャツ」は1枚3380円で、累計75万枚を売り上げたヒット商品。イッティが誇大広告を表示したのは昨年5月16日~8月6日まで。今後、その約3カ月間の売上の3%が課徴金として課されるとみられる。取材した業界紙の記者によれば「その間のイッティの売上は微々たるもので、返金・返品にも応じており、課徴金が課されないこともあり得る」という。
(文=兜森衛)